第5章 7 マリウスとの別れ
「ところでジェシカ、お前は一体今迄何処にいたんだ?」
気付けば、私はアラン王子の腕の中にいた。
「おい!ジェシカに触るな!」
デヴィットが抗議の声を上げるが、アラン王子はそれを無視して、デヴィットに対する嫌がらせなのか、ますます密着し、終いには自分の頬を摺り寄せて来た。
ちょ、ちょっと・・・・!!
「アラン王子、ジェシカから離れろよ!」
おおっ!ダニエル先輩がアラン王子の手を掴むと、強引におろし、今度は代わりに私を腕に囲い込み・・・何かに気付いた。
「あれ?ジェシカ・・・首・・・どうしたのさ?怪我してるじゃないか!」
「な、何?!怪我?!」
デヴィット。
「どんな怪我なんだ?!」
アラン王子は覗き込み、マイケルさんにグレイとルークが駆け寄って来る。
そしてダニエル先輩はさっと私の髪を払い・・・全員が息を呑むのを感じた。
「何だ?これは・・・?」
アラン王子の声が険しくなる。
「キスマークだ・・・。」
ダニエル先輩が呆然としている。
「「ジェシカ・・・。」」
グレイとルークは情けない声を上げるし、マイケルさんは呆気に囚われている。
「ジェシカ・・・。」
気付けばデヴィットが、私の目の前に立っている。
「は、はい・・・。」
「これは一体どういう事なのか説明してもらおうか・・・?」
半ば連行?される形で私はリビングの中央のソファ席に座らされた。
デヴィットは私の隣の席に座ると全員をぐるりと見渡した。
「いいか、大勢で話すとまとまらない。質問は俺がするから他の皆は黙っていろよ?」
何故か初めに釘を刺すデヴィット。
「何だと?勝手に決めるな!」
即座にアラン王子は反発したが、デヴィットは言った。
「さっきの喧嘩・・・勝ったのはどっちだったかな?」
ドヤ顔で腕組みして言うデヴィットにアラン王子は悔しそうに下を向く。
え?まさか・・・アラン王子が負けたの?やっぱりデヴィットは強いんだ・・・。
「まあ別に僕は構わないけどね?」
ダニエル先輩が言うと、マイケルさんも賛同する。
「うん、そうだね。個人的に聞きたいことがあれば、後で聞けばいいんだしね。」
マイケルさん・・・勘弁して下さい。
「グレイ、ルーク。お前たちも異存は無いな?」
デヴィットの問いに2人同時に答える。
「「はい、ありません。」」
おお〜っ!これでは誰がこの2人の主か分からない!
「それでは改めて聞く。ジェシカ、今迄お前は何処にいたんだ?怒らないから話してご覧?」
私の頭を撫でながら尋ねるデヴィット。うぅ・・・これではまるで小さな子供のような扱いだ。
「良く分かりません・・・。何処かの森の中の・・・家に・・・いました・・。」
「何処かの家?」
デヴィットが眉を寄せた。
「誰かと一緒にいたんだよな?その相手に傷を負わされ・・・キスマークも付けられたのか?」
黙って、頷くとついに我慢出来なくなったのか、アラン王子が声を上げた。
「誰だ?お前と今迄一緒にいた人物は?俺達の知ってる奴か?」
「マ・・・・マリウス・・・です・・・。」
「「「「「マリウスだって?!」」」」」
全員の声が綺麗にハモる・・・、マイケルさんを除いて。マイケルさんは何の事か分からないので、え?マリウスって誰?なんて隣に座っているルークに尋ねている。
「はい・・・暗い部屋の中で・・誰かの気配を感じて目が覚めた時には・・・・既にマリウスに攫われていました・・・。」
スカートの裾をギュッと握りしめ、俯きながら私はぽつりぽつりと話し始めた。
「そこは・・・深い森の中にある一軒家でした。マリウスは今年の休暇に・・・私を連れて里帰りをする時に行方不明を装って、ずっとその家で私と暮すつもりで・・・建てた家だと言ってました・・・。」
「うわあ・・・何、その話・・・。」
ダニエル先輩が顔をしかめる。
「くそっ・・・!マリウスめ・・とうとう完全に頭がイカれてしまったようだな・・・。前から危険な男だとは思っていたが・・・そこまで病んでいたとは。」
アラン王子は両手を胸の前で組みながら、イライラした様子で話している。
「ああ・・確かにあいつの目には・・怖ろしい狂気のようなものが宿っていた。初めて対峙した時は・・・正直あの目にゾッとしたな・・・。」
デヴィットも頷く。
「ジェシカ・・・!ま、まさか・・・マリウスに無理やり・・・?!」
グレイは悲鳴じみた声を上げている。
「!こ、このキスマークは・・・む、無理やりマリウスに付けられたものだけど・・・この首の傷は違います。」
ポケットに忍ばせておいた陶器の破片を取り出すとテーブルに置いた。その破片には・・私の血が付いていた。
「この破片で・・・自分で傷を付けました・・・。」
そして私は俯いた。
「ジェシカ・・・一体何があったんだ?」
デヴィットは私の肩を抱き寄せると優しい声で言う。
「は、はい・・・。マリウスは・・・強引にわ、私を・・自分の物にしようとして・・・抱き上げられた時に私は激しく暴れて・・近くにあった花瓶を床に落として割ってしまいました。そしてそれを片付ける為にマリウスがほうきを取りに行った隙に・・・一番大きな破片を手に取って隠して・・・。」
私はそこで目を閉じた。
「マリウスに・・・無理やりベッドに押さえつけられて・・・それで・・この破片をマリウスに向けたんです・・・。」
「ジェシカッ!そんな酷い目に・・・!」
デヴィットがいきなり抱きしめて来た。
「おい!どさくさに紛れてジェシカに手を出すなっ!」
アラン王子が立ち上って抗議する。
「デヴィット、ジェシカに勝手に触らないでくれよっ!」
ダニエル先輩はデヴィットの肩に手を置くと言った。
「「・・・。」」
グレイとルークも何か言いたげにモジモジ?しているが・・・デヴィットが怖いのか何も言えないでいるし、マイケルさんに至ってはマリウスって誰だろうと未だに首を捻っている。
「そ、それで・・・その後はどうしたんだ・・・・?」
デヴィットはわたしの目を見て尋ねて来た。
「するとマリウスは笑って・・・そんなもので自分を何とか出来ると思っていたのかと言ったので・・今度は自分に破片を向けたんです・・・。」
「な・・・何故そんな真似をしたんだ?!」
デヴィットは私の肩を掴む手を強めると言った。
「だ・・・だって・・・マリウスに・・・ふ、触れられる位なら・・死んだ方がマシだと・・・・思った・・から・・・。」
「「・・・・!」」
アラン王子とデヴィットが同時に息を飲んだ。
「そ、そうだったのか・・・・。それ程マリウスは嫌だったんだな・・・。」
何処か嬉しそうにアラン王子は言う。デヴィットも少し口元に笑みが浮かんでいたようにも見えた。
「それでもマリウスは脅しだと思ったようで・・・私を離してくれなかったので・・自分で首を・・・。」
「もういい!分かった!それ以上言わなくてもっ!」
デヴィットは私を強く抱きしめると言った。
「すまなかった・・・ジェシカ・・・。お前を責め立てるような真似をして・・・・。いや、そもそも違うな。ただでさえ、お前はソフィーに狙われれているというのに。そんな状況の中で俺達がいざこざを起こして、お前の側についていなかったから・・・お前はあんな奴に誘拐されてしまったんだよな?分かった、もう・・二度とこんな事が起こらないように・・・仲間割れしないことをお前に誓う。いいな?アラン王子も・・。」
「あ、ああ・・・勿論だ。」
アラン王子は頷いた。
「ジェシカ・・・ごめんよ・・・。僕も凄く反省している。あんなにお酒を飲んで・・・酔い潰れてさえいなければ・・・僕も約束するよ。もう二度とお酒で今日みたいな失態は繰り返さないって。」
「ダニエル先輩・・・。」
「うん、僕も・・・反省してるよ。すまなかったね、お嬢さん。」
「マイケルさん・・・。」
「それで・・・マリウスはどうなったんだ?」
アラン王子が尋ねて来た。
「はい、マリウスは私が本気なのを知ると、諦めてここまで運んでくれて・・私の下僕をやめて、この学院も辞めると話していました。そしてこれから・・・世界を旅して周るって・・・最後に話して・・・私の前から姿を消しました。もう・・・二度と会う事も無いかもしれません。」
「「「「「え・・・・?」」」」」
全員が私の言葉に困惑の表情を浮かべた。
私はソファにもたれかかると目を閉じた。
マリウス・・・・さよなら。どうか・・・元気でね―。
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