第5章 6 軽はずみな行動
マリウスは去って行った。・・・ひょっとすると・・・もう二度と会う事は無いかもしれない。そして・・・アラン王子はソフィーからの呪縛が解けた。
もしかして・・・私の未来は変わったのだろうか・・・?
私はため息をつくと腕時計を確認した。
時刻は真夜中の午前3時を少し過ぎた所だ。・・・そう言えば・・私はどういう状況でマリウスに攫われたのだろう・・?
他の皆は・・・・?でも、皆が寝ている時に誘拐されたのかもしれない。それなら何事も無かったかのように明日皆と顔を合わせればいいのだから・・・。
私はホテルの中へ入ると、自分が今宿泊している部屋へと向かった。
ガチャリ・・・。
戸を静かに開けると・・・何と驚いたことに部屋のランプが全て灯されており、疲れ切った顔で座っているマイケルさんとルークがいた。
「ジェ・・・ジェシカッ!」
ルークが私の姿を認めると駆け寄ってきて・・・・強く抱きしめられていた。
「ジェシカ・・・ッ!一体今迄何処へ行ってたんだ!皆・・・皆心配してたんだ・・・ぞ・・・っ!」
そしてルークは私を抱きしめたまま肩を振るわせている。
「ル、ルーク・・・。」
あのルークがこんな風に泣くなんて・・・。
「ごめんなさい、心配かけて・・・。」
そっとルークの背中に手を回した。するとそれまで私達の様子をじっと見守っていたマイケルさんが言った。
「お嬢さん・・・何があったんだい?部屋を覗いてみたら・・・もぬけの殻で、驚いたよ。デヴィット達は君がいなくなくなった事を知るとすぐに外へ探しに行ったんだよ。」
「マイケルさん・・・本当にご迷惑を・・。」
「俺達は迷惑なんて思ってはいない。ただ・・・俺達の気付かぬところでソフィーに誘拐されたんじゃ無いかと言って・・・アラン王子達は・・神殿へ向かったんだ・・。」
「え・・ええっ?!そ、そんな・・・神殿なんて・・・ッ!私は神殿なんかへ行ってないわ!私は・・・。」
そこまで言いかけた時、突然目の前にデヴィット達が転移魔法で現れた。
「キャアッ!」
突然目の前に4人も現れたので、私は驚いて悲鳴を上げてしまった。
「ジェ、ジェシカ・・・・。」
デヴィットは私の姿を見ると・・・強く抱きしめて来た。
「おい!ジェシカに触るなって言ってるだろうっ!!」
後から転移魔法でやって来たアラン王子は猛抗議するが、デヴィットは耳を貸さない。
「ジェシカ・・・良かった・・・お前が無事で・・・っ!」
デヴィットは私の髪に顔を埋め、嗚咽している。
「ご、ごめんなさ・・!」
そこまで言いかけて私は気が付いた。デヴィットの服があちこち破けて、ところどころに怪我を負っているでは無いか。
「デ、デヴィットさん!この怪我は・・。」
その時私は気が付いた。デヴィットだけでは無い、アラン王子もダニエル先輩、そしてグレイまでもがあちこち身体が傷ついている。
「み、皆さん!一体この傷はどうしたのですか?!」
すると、ようやく泣いていたデヴィットは顔を上げた。見るとデヴィットの左肩口はまるで何かに切られたかのように深く切れ、血を流しているでは無いか。
「デヴィットさん!血が・・・っ!」
その時・・・私の左腕が強く輝きだし、それに応じるかのようにデヴィットの右腕が光り・・・徐々にデヴィットの身体の傷が消えていくのをその場にいる全員が信じられない思いで見ていた。
「す・・・すごい・・・!やっぱり・・・ジェシカは本物の聖女だったんだ!」
ダニエル先輩が手を叩いた。
「なら・・なら、ジェシカッ!この俺は・・どうだ?俺の傷は治せるか?」
アラン王子が私に駆け寄って来た。見るとアラン王子は右腕から出血している。
「では・・・試してみます・・・ね。」
試しに私はアラン王子に触れてみると、再び紋章が輝き・・・見る見るうちにアラン王子の腕の傷が塞がっていった。
「すごい・・・信じられない。癒しの魔法はとっくにこの世界から消えてしまったのに・・・聖女の力は傷を癒す力が・・本当にあったなんて・・・・。」
アラン王子は感嘆の声を上げた。
「ああ、そうだ。だから・・・聖剣士には聖女の力が必要なんだ。そもそも・・聖女に誰かが目覚めないと、聖剣士も本来の力に目覚める事は不可能だからな。・・本当に・・俺達は運が良かったよ・・・。」
デヴィットは私をじっと見つめながら言った。
「そ、そんな事よりも・・・皆さん、何故そんな傷だらけの身体で帰って来たのですか!?何があったって言うんですか?」
私はデヴィット達を見渡して言った。するとデヴィットが重い口を開けるように話し始めた。
「あの後・・・俺達はホテルに戻って・・寝る事にしたんだ。それでジェシカ、お前の様子を見に部屋を覗いたらお前が何処にもいなくて・・。何故か俺のマーキングも感知する事が出来なかったから・・てっきり神殿の連中に連れ去られたのかと思って・・・。」
「ま、まさか・・・それで神殿に行って・・・?」
私は声を震わせながら尋ねた。
「ああ・・俺達は4人で神殿へ行ったんだ・・・。」
アラン王子が言った。
「ア・・・アラン王子っ!」
私はアラン王子の服を掴むと言った。
「何故ですか?何故そんな危険な真似を犯してまで神殿へ行ったんですか?アラン王子は・・・昨日までソフィーの呪縛に囚われていたんですよ?折角呪縛から解放されたのに・・また同じ目に遭いたいのですか?!」
「ジェ、ジェシカ・・・。」
私の剣幕に驚いたのか、アラン王子が狼狽した。
「ジェシカ、落ち着け。確かに俺達は神殿には行ったが・・・ソフィーやドミニク公爵は・・神殿にはいなかったんだ。恐らく・・・森の中にある古城に行ったんだと思う。だから・・・俺達はここへ戻って来たんだ。」
デヴィットが言う。
「だ・・・だけど・・皆さん怪我をして戻って来たじゃないですか・・。ソフィーの兵士は弱かったはずではないのですか?」
「ああ・・。確かに兵士は弱かった。だが・・・まだあのソフィーに付き従う聖剣士がいたんだな・・・。そいつらが襲ってきて・・・。それに・・1人だけ仮面を被った聖剣士がいた。・・・かなりの腕の持ち主だったな・・。兎に角、戦いながらジェシカ、お前の気配を探っていたら・・・突然ジェシカを感知する事が出来て・・全員で戻って来たんだ。」
デヴィットの言葉に安堵の溜息をつきつつ・・・私はどさりとソファに座り込むと頭を押さえながら言った。
「と、とに角・・・・もう皆さん、あまり軽率な行動は辞めてください・・・。お願いですから・・・。」
「軽率?何処が軽率なんだ?ジェシカ・・・・お前の気配が完全に消え失せてしまったんだぞ?あれ程強いマーキングをしたのに・・・。」
そのデヴィットの発言に全員がギョッとしたように彼を見る。
「な・・何だと・・・・あれ程強いマーキング・・・だと?デヴィット!貴様・・・・!」
アラン王子は怒りを抑えながらデヴィットを睨み付ける。
「ふん。こんな大勢の前でそんな発言を堂々とするなんて・・やはり君は人間のクズだね。この獣め!」
ダニエル先輩は吐き捨てるように言う。
「「そんな・・・マーキングだなんて・・・。」」
グレイとルークは綺麗にハモるし、マイケルさんは、え?マーキングって何の事?と言って首をかしげている。
ああ・・・・デヴィットは・・何て軽はずみな行動を取ってしまうのだろう!
身体を鍛えるのも必要だけど・・・頭を鍛える事も・・出来ればこれからはやって下さい・・・。
私はがっくり頭を垂れた—。
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