デヴィット —男3人の酒宴とその後の話—
1
「ねえ・・・。正直な所・・・君とジェシカの関係って・・どうなってるのさ。」
ジェシカがバスルームへ消えた直後から俺達はバーカウンターで一番度数の強い酒を持ち出して、男3人で飲み始めていた。
ダニエルの奴・・・女みたいな顔してるくせに最初からかなりのハイピッチで飲み始めているぞ?まるでやけ酒のような飲み方をしているようにもみえる。
「うん。やはり最高クラスのホテルの部屋で飲むお酒は最高だね。」
俺の右隣のソファに座ったマイケルと言う男・・・。この男は得体が知れない。年齢を聞いたら25歳だと言ってたから、俺よりも4歳年上か・・・。ジェシカに気があるような思わせぶりな態度をわざと俺の前で取ったりするのは・・・俺をからかうためにやってるのだろうな。
「ねえ、デヴィット。君・・・僕の話聞いてるの?」
ダニエルが酒の入ったグラスを持ち、俺に絡み始めやがった・・・。全く女みたいな外見、そして女の様な話し方をするこの男は・・・女子学生達から絶大な人気を誇っている。女なんか選び放題なくせに、女嫌いとしても有名だった・・。なのに、何故だ?何故ジェシカにだけは違うんだ?この男がジェシカに向ける視線は完全に恋する男の目線だ。
「ねえ、君とジェシカの関係を聞いてるんだから答えてよ!僕は彼女の・・ジェシカの恋人だった事があるんだからな?」
恋人・・・。この男の言葉に俺は反応してしまった。
「おい・・・本当に恋人同士だったのか?お前が勝手に1人でそう思っていたんじゃないだろうな?」
つい、声に苛立ちが混じる。俺だってもっと早くにジェシカと知り合っていれば・・・。
「そうだよ、ちゃんとジェシカもそれを認めてくれてる。だけど・・・ぜーんぶあの女のせいで水の泡!僕達を変な魔術で操って・・・全く!あの忌々しいソフィーめっ!」
なみなみと酒が入ったグラスをダンッと乱暴にテーブルに置くダニエル。おい、酒が飛散って俺の服に大分かかったじゃ無いか!くそっ!俺の一張羅が・・・。
「フフフ・・・若いっていいねえ・・・。」
マイケルの奴・・・ボトルをラッパ飲みしてやがる。若いだと?お前だってまだ25歳じゃないか。いや、それより気になるのが今のダニエルの台詞だ。
「おい・・・ソフィーがどうしたと言うんだ?」
俺はテーブルに突っ伏しているダニエルを揺さぶった。
「え?何々?」
ガバッと起き上がってキョロキョロするダニエルに俺は言った。
「おい、ソフィーとお前達の間に一体何があったんだ?教えろ。」
「フン・・・。相変わらず上から目線的な物の言い方だね。気に入らない。」
こ・・・こいつは・・・っ!一応俺はお前より年上なんだぞ?お前こそ慇懃無礼な態度を俺に取ってるじゃ無いか!だが・・。
「す、すまない・・・。頼む、お前達とソフィーの関係を・・・教えてくれ・・・。」
頭を下げる。うう・・・。なんか屈辱的な気分だ。
「教えて欲しいなら・・・そうだ!このボトルを1本1人で空ける事が出来たら教えてあげるよ。」
そう言ってズイッとダニエルが差し出してきたのは・・・。
げっ!アルコール度数50度のバーボンじゃないか!これをボトル1本俺に飲み干せというのか・・・。
チラリとダニエルの方を見ると、ニヤリと口元に笑みを浮かべてダニエルは言った。
「ジェシカはね・・・お酒を飲むのが大好きなんだよ?以前一緒にサロンでお酒を飲んだ時も彼女はかなり飲んでててね・・・。普段も十分綺麗だけど、お酒を飲んで酔うと肌が薔薇色に染まって、目はトロンとして・・・色気がましてますます妖艶な美人になるんだ・・・。それにね・・・知ってたかい?お酒に酔った彼女の身体からは甘い匂いも漂ってきて・・・。素敵だったなあ・・・。それでサロンで酔いつぶれてしまった彼女を僕が『逢瀬の塔』まで運んであげたんだ・・・。」
ダニエルはうっとりするような眼つきで語っている。
こ、この男・・・・。女みたいな顔して、女嫌いで通っていたからてっきり草食系の男かと思っていたが・・・それは俺の勘違いだったのか?そのジェシカを見る目、その話し方は・・完全に肉食系の男だっ!ま、まさか酔い潰れたジェシカに手を出したのか?!
「おいっ!『逢瀬の塔』へ連れて行った後は・・・どうしたんだっ?!ま、まさか・・・手を出したのかっ?!」
ダニエルの肩を掴むと、乱暴に振り払われた。
「はあ?そんなに聞きたければねえ・・・もう1本ボトル追加したら教えてあげるよ。でもね・・・その代わり酔いが回ってどうなっても知らないからね・・・。」
「う・・・わ、分かった・・・。取りあえずこれを1本空けてから考える・・・。」
もうこうなればやけくそだ。乱暴に蓋を開けると、グラスに氷を投げ入れて溢れんばかりになみなみと酒を注ぐと、俺は一気に煽った―。
え・・・と・・・俺はこんな所で何してたんだっけ・・?気付けばテーブルの上に突っ伏し、それをダニエルとマイケルが見下ろしている。
ダニエルは何か物凄く怒って俺を冷たい目で睨んでいるし、マイケルも妙に怒りを抑えているような笑顔で俺を見ている。
・・・何があったんだ・・・?
「全く・・・・君って男は・・・まるで獣だね。最低、このクズ男め。」
ダニエルが腕組みしながら言う。
「な・・・に・・・?俺が・・獣・・?」
「ああ、本当にそうだね・・・・。あの時ホテルを借りたのは・・本当はそれが目的だったんだね。」
マイケルもいつの間にか冷え冷えとした視線で俺を見る。
「全く・・・聖剣士と聖女の絆を深める為とか言って・・・本当はジェシカを単に抱きたかっただけだろう?この獣め!君はアラン王子と同じだっ!」
何・・・?今、アラン王子がどうとか言ってなかったか・・?
「そうだね・・・。俺の家を出てホテルに2人で行った時だって・・・本当は最初から彼女を抱くつもりだったんじゃないのかな?一度ならず二度までも・・・。そんなに良かったんだ・・・。すっかり味を占めちゃったと言う訳なんだね・・。」
うん・・・?何だか俺は今この2人から最低男呼ばわりされているような気がするが・・・?そもそもこの2人は酒に酔っていたはずじゃないのか?今はシラフのようにも見えるぞ・・・逆に何故かこの俺が酔い潰れているように感じる・・・。
「あー気分が悪い、最悪だ。もうこうなったらとことん飲んでやるからなッ!」
ダニエルは俺から視線を外すと、今度は別の酒をジョッキにドクドク注いでいる。
「いいねえ、僕も付き合うよ。」
マイケルは嬉しそうに自分のグラスをダニエに差し出している・・・・。
おい・・それより俺はボトルを1本ちゃんと空けたんだから・・・ソフィーの話を聞かせろ・・・。
・・・駄目だ、喉が渇く・・。
俺は何とか気力を振り絞り、身体を起こし、バーカウンターへ歩き出し・・・意識を無くした・・・。
うん・・・誰かが髪に触れている・・・?目を開けると、そこには・・俺の聖女ジェシカの姿が。紫色の大きな瞳にはだらしなく床に転がっている俺の姿が映っている。・・・何とも情けない姿だ。聖剣士である俺が聖女のジェシカの前で・・こんな醜態を・・・。
うん?ジェシカが何か言ってるな・・・。
「こんな所で眠っては風邪をひきますよ。デヴィットさんに何かあったら困るのは私ですから・・・。もっとお身体をご自愛下さい。」
ジェシカの声はその外見同様、とても綺麗だ・・・。あの時も・・その綺麗な声を俺の腕の中で聞かせてくれたっけ・・・。うん?所で今ジェシカは何と言った?愛って単語が聞こえた気がしたが・・・?
「ジェシカ・・・今・・・何て言った・・?」
「え・・?今ですか?お身体をご自愛下さいと・・・。」
何だって・・・?ジェシカ・・・。愛が欲しいのか・・・?俺の愛が・・?
「そうか・・・俺に愛を下さいって言うんだな・・・?いいだろう。お前になら・・・いや、お前だから・・・俺の愛をくれてやる。」
どうせ、これは夢なんだ。俺が見ている夢・・・。
身体を起こすとジェシカの頭に手を置き、夢の中のジェシカに唇を重ねた。
・・・しっとりとして甘く、柔らかなこの感触・・・やけにリアルな夢だ。
夢なら・・・いいだろう。俺はますます深く口付け・・・その後、完全に意識を無くしてしまった・・・。
翌朝—
何故かバーカウンターの床の上で俺は目覚めた。
妙に身体がすっきりして気分がいい。
リビングをみると、そこにはだらしなく酒に潰された男2人の姿がある。
そう言えばジェシカの姿が見えないが・・・きっと寝室で眠りに就いているのだろう。色々あって疲れているだろうから、このまま寝かせておいてやるか・・・・。
気分もいいし・・・よしっ!朝のトレーニングに行って来るか!俺はジェシカの聖剣士になったんだ。そして今はあのソフィーが彼女を狙っている。あの女から彼女を守る為に、もっともっと強くならなければ—。
2
俺は今、ジェシカに愛を告白し、尚且つジェシカの従者マリウスを撃退?した後、ジェシカを1人ホテルに残し、ダニエルを探しにマイケルの家を目指している。
全く俺と言う人間は・・・・・今、酷い自己嫌悪に陥っている―。
絶対、昨夜の俺はジェシカに何らかの手を出してしまったのだ。そうでなければ今頃はあのダニエルやマイケルのように酒に飲まれて二日酔いでダウンしているはずなのだから。なのにアルコールが体内からすっかり中和されている。
聖剣士は聖女と触れ合えば傷も癒せるし、解毒も出来る。そして今の俺はアルコールが抜けている。つまり・・・絶対にジェシカに手を出したのは確かなんだっ!
一体何処までジェシカに手を出してしまったのだ?ジェシカはあの時
「あまり激しいのは困ります。」
確かにそう言った。
激しい?激しいって一体何だ?それを尋ねるとジェシカは女の口から言わせるつもりかと上目遣いに言ってくるし・・・。大体、唇に残る妙に生々しいあの感触・・・。
駄目だっ!き、きっと・・・昨夜の俺は酔いに任せて・・・ジェシカを襲ってしまったに違いないっ!
しかし・・・その割には・・意外と冷静な態度を取っていたな・・。
捕らえようによっては、俺になら何をされても構わないという風に取ってしまうが・・・
ああっ!だから・・今朝のカフェでつい自惚れた事を言ってしまったんだっ!
マシューの事を愛しているジェシカの前で・・・自分の事を好感を持ってもらえてると思うなんて・・・。
あれを聞かされた時、ジェシカはどう思ったのだろう?馬鹿な男が何を言ってるのだと思っただろうか?それとも・・・多少は胸ときめかせて意識してくれただろうか?
自信たっぷりに言ったつもりだが・・・あの時は心臓が痛むくらいに早鐘を打っていたくせに。
何が、マシューに会うのが楽しみだなんて言った!本当は・・・その男とジェシカが再会するのが怖くて仕方がないのに・・・わざと度量が大きい男の振りをしてしまった・・。ジェシカに幻滅されたくない為に、わざと・・・。
等とあれこれ考えている内に俺はいつの間にかマイケルの家に着いていて・・そこではたと気が付いた。ああっ!俺は何て馬鹿だったんだ!何故歩いてここまで来てしまった?!一度でも行った事のある場所ならば転移魔法を使う事が出来たじゃ無いかっ!だ・・駄目だ・・・!ジェシカが絡むといつも通りの行動が取れない・・。そう言えばアラン王子もそうだったな・・・。大国の王子が情けない位に泣いてジェシカに縋っていたっけ・・。しかし、かく言う俺も同じ・・何度も何度もジェシカの前で泣いてしまった。元々そんな人前で泣くような男では無かったはずなのに・・・。
何故なんだ?ジェシカに対しては冷静でいられない自分がいる・・・。
だけど・・・俺はやはり最低な男なのかもしれない。以前恋人だった今は亡きあの彼女よりもジェシカの事をより一層愛しく感じてしまっているのだから・・・。
気付けば俺はマイケルの家の戸口の前でボ~ッと突っ立っていた。
だが、そこで突然我に返る。
いや、それより今はダニエルだ。ダニエルとマイケルを先に何とかしなければ・・・
ドンドンッ!
ドアを激しくノックする。
「おい!マイケル!いるか?!」
しかし、中からは物音ひとつしない。
試しにドアノブを回しても鍵がかかっているのか回らない。まさか・・・屋台の準備をしているのか?
今度は転移魔法を使い、屋台通りへ飛んだ—。
屋台通りへ飛んだ俺は人だかりが出来ている様子を見て嫌な予感がした。
「おい、一体何があったんだ?!」
一番近くにいた野次馬の男の肩を掴むと尋ねた。
「ああ・・何でもここで店を出していた兄さんが男達に襲われかけてね・・・それを通りがかった兄さんがそいつらを全員倒してしまったんだよ。いや~それにしても驚いたね!あんな女みたいな外見の兄さんがあれ程までに強いんだからなあ。戦ってる姿はまるで王子様みたいで・・・見ていた女達はキャーキャー騒いでたよ。」
その話だけでも十分だ・・・。ダニエルに間違いない。やはりジェシカが懸念していた通り・・・ソフィーの手下が襲って来たのだ。
「そ、それで・・・屋台の男と、襲って来た奴らを倒した男の行方は?!」
「ああ。何でも・・・もう帰るって言って・・・屋台の男と一緒に一瞬で姿を消してしまったんだよ。いや・・・あれには驚いたね!」
くそっ!入れ違いだったか!男の台詞を最後まで聞くことなく、俺はジェシカの待つホテルへ飛んだ—。
「あ、お帰りなさい。デヴィットさん。」
ホテルへ戻るとジェシカが俺を出迎えてくれた。
「ジェシカッ!俺がいない間に何も危険な事は無かったか?!」
ジェシカの細い両肩を掴み、俺は尋ねた。
「いいえ?別に何もありませんでしたけど?」
そしてニコリと微笑む。そ・・その笑顔は・・・毒だっ!だから・・マリウスに執着されるんだっ!
「あ、何やってたのさ!デヴィットッ!遅かったじゃ無いかっ!」
ダニエルが頬を膨らませながらソファの上から俺に文句を言って来る。
全く・・・あんな女みたいな顔で実は強いなんて反則だろう?
「いや~それにしても参ったね。まさかあんな所でソフィーの刺客に襲われるとはね・・・。僕なんか襲っても意味が無いのに。」
マイケルの言葉にジェシカが言った、
「何言ってるんですか。人の命に意味が無いなんてあり得ないですからね。それにしても・・・・。」
ジェシカはマイケルをじっと見つめると言った。
「無事でよかったです、マイケルさん。そして・・・・。ありがとうございました。ダニエル先輩。」
ジェシカはダニエルに笑顔をむけると・・・。
「あ、ああ。まあね。」
赤くなって頬を染めるダニエル。
それだ!ジェシカッ!お前のその態度が・・お、男を勘違いさせてしまうんだよっ!
以前俺は酔っ払い3人組の男達にジェシカが手を出されそうになったところを助け出し、お前は隙だらけだから狙われると言ったけど・・・そうじゃない。ジェシカが・・・男を惑わすフェロモンをまき散らしてるからだという事に今更になってようやく気が付いた。だからマーキングを上書きしてやるとふざけた事を抜かしていたあの男も・・・。
そうか・・・ソフィーがジェシカを狙うのはこの力、これがジェシカが以前話してくれた『魅了の魔力』なのか。何て恐ろしい力なんだ・・・。
ソファに座ってダニエルとマイケルとの3人で会話をしているジェシカの側に行くと彼女の肩に手を置き、言った。
「ジェシカ・・・。お前は・・・罪な女だよ・・・。」
「「「はい?」」」
何故か3人首をかしげて俺を見る。
全く・・・ジェシカをはじめ・・・何て鈍い男達なんだ・・・。
軽くため息をついて、空いてるソファに座るとジェシカが早速声を掛けて来た。
「あの、デヴィットさん。お願いしたい事があるのですが・・・。ダニエル先輩にはもう相談はしてあるのですけど・・・。」
「うん?何だ?お願いしたい事って。」
お前は俺の聖女なんだから何だって言う事を聞くに決まっているだろう?
「会いたい人達がいるんです・・・。グレイとルーク。彼等を・・・ここへ連れてきて貰えませんか?そして・・3人だけでお話をさせて頂きたいのですが・・・。」
何っ?!グレイとルークだと・・・?
あのマリウスが話していた人物達の事か・・・?ジェシカ・・・まだ会いたい男が他にいたんだな・・・?
俺は一瞬、目の前が暗くなるのを感じた―。
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