第4章 9 やっと2人きりになれたね
「お、おい・・・。そのグレイとルークって言うのは・・・?」
何故か声を震わせながらデヴィットが尋ねて来る。
「え・・と・・。グレイとルークはアラン王子の従者で、私の友人です。」
「何いっ!友人だと?!本当にそう思ってるのか?その2人の男の気持ちは確認してあるのか?!」
突然ソファから勢いよく立ち上がるデヴィット。
「ちょ、ちょと!なにやってるのさっ!少し落ち着きなよっ!」
ダニエル先輩がデヴィットを宥めている・・・う~ん・・・。シュールな光景だなあ・・。
「そ、それで・・・何故グレイとルークに・・会いたいんだ?もし差支えが無いのならこの俺にその理由を教えて貰えないだろうか?」
妙に丁寧な言い回しで尋ねて来るデヴィット。・・・一体どうしてしまったのだろう?
「アラン王子の事について・・・色々お話を聞きたいと思いましたので・・・。」
「な・・何いいいっ?!ア、アラン王子だと・・・・っ?!何故だ?!」
またもや大袈裟に驚くデヴィット。いやいや・・・驚くのはこっちの方なんですけど?出会った頃はクールなイケメンだと思っていたけど・・・今は何?何だか完全にキャラが崩壊しているんですけどっ!
「はいはい、落ち着こうね~。それじゃ今に血管が切れてしまうかもしれないよ。」
マイケルさんはソファに座りなおしたデヴィットの背中をポンポンと叩いた。
・・・何かお母さんみたいだ。
デヴィットはテーブルの上に置いてあった水差しに手を伸ばし、グラスに注いで一気に水を煽るように飲むと言った。
「そ、それで・・・何故アラン王子について尋ねたいんだ?」
「はい、アラン王子はソフィーの事について今一番尋ねる事が出来る唯一の相手だからです。他にもう1人いるのですが・・・あの方はもう駄目です。完全にソフィーの虜にされていますから・・・・・。でもまだアラン王子なら・・・夜の数時間だけはソフィーの呪縛から逃れられているそうなので。アラン王子にはどうしても聞きたい事があるのです。ノア先輩の事と・・・マシューの事について・・・。」
マシューの名前を聞いてデヴィットの肩がピクリと動く。
「マシューって・・・あのマシューの事?!」
ダニエル先輩が名前を口にして、慌ててすぐに口を塞いだ。・・・私がマシューを殺した人物としてソフィーに指名手配されている事を思い出したのだろう。
「マシュー・・・?」
一方のマイケルさんは首をひねっている。それはそうだろう、彼は部外者なのだ。何も事情を知らなくて当然だ。
「マシューという人は・・・。」
私が説明しようとすると、デヴィットが言った。
「マシューと言う人物はジェシカを『ワールズ・エンド』から『魔界の門』まで案内した聖剣士だ。だが・・・追手によって殺害されてしまった。それをあの偽物聖女のソフィーが犯人はジェシカだと言っている。俺達は彼の合同葬儀を行ったが・・・棺の中は空だったとに噂があるんだ。恐らく・・・マシューは生きている・・。」
デヴィットは私の気持ちを汲んでくれたのだろうか・・・。代わりに説明してくれるなんて・・。
「ええっ?!そんな裏事情があったの?ちっとも僕は知らなかったよっ!」
驚くダニエル先輩。
「いや・・・それにしてもそのソフィーと言う聖女は恐ろしいね・・・。お嬢さんのようにか弱い女性が君達のように強い相手を殺害何て出来るはず無いのにね。」
マイケルさんが私の手を握りしめながら言う。
「「ジェシカに触るな。」」
おおっ!今度はデヴィットとダニエル先輩の声がハモった!
「わ・・・分かった・・・。おい、ダニエル。お前はグレイとルークの事を知ってるんだろう?俺と一緒に『セント・レイズ学院』へ来てくれ。」
デヴィットがダニエル先輩に言う。
「え・ええ~。そんな事したら・・誰がジェシカを守るのさ。僕達の不在の時にソフィーの兵士がやってきたらどうするつもりさ。それだけじゃないよ。マリウスだってジェシカの事を狙ってるんだからな!」
「確かに・・・お前の言ってる事も一理あるな・・・・。」
デヴィットは腕組みをして、何やら思案しているようだったが・・・やがて言った。
「・・・この部屋に結界を張ろう。」
「え?結界?」
ダニエル先輩が聞き直す。
「そう、結界だ。それを張ればこの空間は感知されなくなる。」
「ああ!それはいい考えだね!よし、早速今から結界を張ろう!」
そしてデヴィットとダニエル先輩は何やら呪文を唱えながら部屋のドアや窓、壁といった至る所に五芒星を描いたお札のような物を貼っていく。
そして最後にデヴィットが部屋の中央に何処から取り出したの、杖を取りだすとサークルを五芒星とサークルを描き・・・円の中心に杖をトンと置くと・・途端に部屋全体が青白く一瞬光り輝いた。
「い・・今のは一体・・何ですか?」
私はデビットに尋ねた。
「ああ、この部屋全体を不可視可したんだ。この部屋にいた人物しかもうこの部屋を感知する事が出来なくなった。だから・・安心してこの部屋で休んでるといい。それから・・・。」
突然デヴィットはマイケルに視線を移すと言った。
「おい、マイケル。ジェシカに・・・絶対に手を出すなよっ?!」
ビシイッとマイケルさんを指さしながらデヴィットは言う。キャ~ッ!!人を指さしてあんな台詞を言うなんて・・・っ!
「へえっ。まさか・・・君にそれを言われるとは思わなかったなあ。だけど安心していいよ。僕はだれかさんとは違って・・・紳士だからね。」
何か含みを持たせたかのような言い方をするマイケルさんに対し、デヴィットは唇を噛んでいる。
「「・・・。」」
何やら2人の間に微妙な緊張感が流れているが・・・。
「あ、あの!ではお2人とも・・・申し訳ありませんがお願い致します。」
丁寧に頭を下げると、ようやく2人は視線を私に移した。
「よし、それじゃ行くぞ、ダニエル。」
「何だか君に仕切られてるようで気が重いけどね・・・いいよ。行こうか?」
そして2人は一瞬でこの部屋から姿を消した―。
「さて、お嬢さん。」
2人きりになると、急にマイケルさんが私の方を笑みを浮かべながら振り向いた。
「はい、何でしょう?」
「やっと2人きりになれた事だし・・・。」
え?何だか怪しい言い方をして来るマイケルさん。
「2人で楽しい事・・・しようか?」
何故か距離を詰めて来るマイケルさん。
「た、楽しい事・・って?」
引きつった笑みを浮かべて私はマイケルさんを見た。
「2人で一緒に『ラフト』を焼こうか?」
「え・・・『ラフト』ここで・・・出来るんですかっ?!」
「うん。実は屋台の準備をしていた所・・・ソフィーの兵士たちが現れちゃったからね・・・。折角準備していた材料がこのままでは駄目になってしまうんだ。だけど、今から新しいお客さんが2人増えるんだよね?だったらここで『ラフト』を焼いて皆で食べようかと思ってね。幸い、この客室にはキッチンもあるし・・・どうだい、お嬢さん・・・。俺を手伝ってくれるかな?」
「勿論です・・・!」
凄いっ!まさかマイケルさん直伝の『ラフト』の作り方を教えて貰えるなんて!
「よし、それじゃ・・・早速始めようか?」
腕まくりするマイケルさんに私は笑顔で答えた。
「はい!始めましょう!」
そして私達は2人で一緒に『ラフト』を作り始め・・・部屋中に『ラフト』の焼けるいい匂いが漂う頃・・・デヴィットとダニエル先輩があの懐かしい2人・・・グレイとルークを伴って戻ってきたのだった―。
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