第4章 7 マリウスVSデヴィット

「おい、お前・・・確かマリウスと言ったか・・・。正気なのか?こんな町中でいきなり魔法弾を放つなんて・・・町の人々に危険が及ぶかもしれないのが分かった上での行動か?」


デヴィットは冷静にマリウスに言った。


「ええ。確かに危険かもしれないでしょうね・・・。ですが、そんな事は私にとってはどうでも良い・・・関係の無い事ですよ。私にはジェシカお嬢様が全てです。お嬢様以外の人間などどうなろうと知った事ではありません。」


ゾクリ—。

マリウスのその言葉を聞き、今まで以上に私はマリウスに対して恐怖を感じた。今となってはマリウスの声を聞くだけで恐怖で足が震えそうになってくる。まさか・・・ソフィー以外で、こんな所でもう一人の敵?が現れるとは思いもしなかった・・・。


「ねえ・・・・マリウス。一体貴方はどうしてしまったの?貴方は最初はそんな人では無かったでしょう?なのに・・・何故、そんな風になってしまったのよ・・・!」

涙混じりにマリウスに私は訴えた。ほんの少しでも・・マリウスの心から狂気を取り払いたかったから・・・。なのにマリウスの返って来た返事は・・・。


「何故・・・私がこうなってしまったか?そんな事は簡単です・・・。ジェシカお嬢様・・。それは全て貴女が原因ですよ・・・。貴女があまりにも愛らしいから・・そして・・貴女の周りには・・いつもいつも・・・そうやって私から愛しいジェシカお嬢様を遠ざけようとする邪魔な男共が常に群がっているから・・・今この瞬間だって・・・!!」


私は初めてマリウスが声を荒げるのを耳にし・・ますます怖くなってきた。


「貴女がいけないんですよ?ジェシカお嬢様・・・。だから・・・私をこんな風にした・・責任を取って下さいよ・・・。どうか私の側にいて下さい・・・。永遠に・・。」


まるで熱に浮かされたかのように訴えて来るマリウス。

怖い、今となってはマリウスはまるで狂気の固まりだ。

マリウスは私を見つめているのに、何処か遠くを見るような眼つきでこちらをじっと凝視している。私の全身は鳥肌が立ち、恐怖で震えが止まらず、必死でデビットにしがみ付くのがやっとだった。


「ジェシカ・・・。」


デヴィットは震える私の頭を撫でるとマリウスに言った。


「やめろ、マリウス。ジェシカの事を思うなら・・・これ以上彼女を怖がらせるな。本当に・・・愛しい女性だと思っているなら・・彼女の為に身を引け。」


「身を引け・・・?何をおっしゃっているのでしょう?貴方は・・・。私とジェシカお嬢様の仲を引き裂くのは例え、ジェシカお嬢様の両親でも、私の親でも・・何人たりとも許せません。ジェシカお嬢様は・・永遠に私だけの物です・・・!」


言いながら再び今度はマリウスは炎の弾を投げて来た。


「チッ!」


デヴィットはその炎の弾を空中から大きな水しぶきを出現させ、マリウスに向かって投げつける。


「クッ!」


いきなりの反撃でマリウスが一瞬油断した。するとその瞬間デヴィットは私を抱き寄せると転移魔法で一瞬で町はずれの人通りの少ない広場に飛んだ―。



「ジェシカ・・・大丈夫だったか?怪我はしなかったか?」


デヴィットは俯いている私の顔を覗き込むように尋ねて来た。


「こ・・・怖かっ・・・・た・・っ!」

怖くて涙が止まらない。私はデヴィットの首に腕を回して情けないけれども子供のように泣きじゃくってしまった。


「ジェシカ・・・。」


そんな私をデヴィットはいつまでも優しく抱きしめてくれた―。



「うわっ!どうしたの?ジェシカッ!目が真っ赤だよ!」


デヴィットと2人でホテルに戻ると、頭痛が治まったのか、ダニエル先輩が出迎えてくれて・・・私が泣きはらした顔をしているのを見てデヴィットを睨み付けた。


「まさか・・・君がジェシカを泣かしたんじゃないだろうね・・・?!」


怒りを含んだ声でデヴィットに詰めよる。


「違う、俺じゃない。ジェシカをこんな風に苦しめ、怖がらせて泣かせたのは・・・全てはあのマリウスのせいだ。」


「え・・?な、何だって・・・?マリウスが・・ジェシカをこんな風にしたの・・?ゆ、許せない・・っ!」


「あの男は本当に得たいがしれない・・・恐ろしい男だ。ある意味・・ソフィーと似ているかもしれない。」


ドサリとソファーに座り込むとデヴィットは言った。


「全く・・・あの男があんな性格でなければ・・・こっちの味方に引き込む事も出来たのに・・あれでは無理だ。もう1人新たな敵が現れてしまったようなものだ・・。」


ため息交じりに言うデヴィットの言葉を私は黙って聞いていた。新たな敵・・・言われてみれば確かにそうだ。最早マリウスは私にとっては敵でしかない・・・。


「きっと・・・数日前から・・マリウスはあの場で私が現れるのを待っていたのかも・・しれません。戸籍の件を確認する為に・・・。以前も・・・どんな手を使ってか分かりませんが・・・私の居場所を探し出して現れた事があるんです・・。」


私はスカートの裾をギュッと握りしめながら言った。

どうしよう・・・。これじゃ・・・ますますアラン王子に近付く事が出来ない・・っ!


「あれ?そう言えば・・・マイケルは何処へ行ったんだ?」


デビットがマイケルさんの姿が見えない事に気が付き、ダニエル先輩に尋ねた。


「ああ、彼はね。もう二日酔いが治ったから夜から屋台の営業を始めると言って、その準備の為に家に行ったんだよ。」


「ふ~ん・・・そうか。でもあいつは魔法も剣も使えないから・・ある意味俺達といる方が危険かもしれないから・・・な・・・。」


ダニエル先輩の言葉にデヴィットも言うが・・・。

「あ、あの・・マイケルさんだって危ないんじゃいないですかっ?!」


「何故そう思うのジェシカ?」


ダニエル先輩が不思議そうに尋ねて来る。


「だ、だって・・・神殿に昨夜行った時・・・マイケルさん・ソフィーの兵士達に顔を見られたりはしていませんか・・・?」


「「あ・・・。」」


するとデヴィットとダニエル先輩が同時に顔を合わせる。ま、まさか・・・私がこの3人から離れた時に何かあったのでは・・・?!

「あの・・・もしかすると・・・昨夜神殿で私が皆さんから離れていた時・・・何かありませんでしたか・・・?」

恐る恐る尋ねてみると、デヴィットが重い口を開いた。


「じ、実は・・・思い当たる事がある・・。マイケルの奴が・・・神殿の見張りの連中に見つかって・・それで騒ぎが起こったんだ。」


「うん・・・・。それでその時になってジェシカが側にいない事に気が付いて、僕は咄嗟に転移魔法を使って彼をこのホテルまで連れて来たんだ・・・。最もここへ移動した直後に彼は床の上に伸びてしまって・・・。30分気絶していたよ。分かった・・・。後で僕が彼の所へ行って事情を説明して連れて帰って来るよ。」


「お願いしますね・・。ダニエル先輩。」


「そして俺が・・・ジェシカを探しにあの場所へ行ったんだ。すまなかったな。助けに行くのが遅れて・・・邪魔な兵士共を片付けていたから・・。かなりの人数がいたんで・・少しだけ手間取ってしまったんだ。」


「え・・・?そ、そうだったんですか・・?ち、ちなみに・・兵士の数は・・どれくらいいたのでしょうか・・?」


「う~ん・・・。数えていなかったから正確な数は分からないが・・・30人前後はいたんじゃないかな?」


デヴィットはしれっと簡単に言ってのけたので、驚いてしまった。


「え・・?そ、そんな大人数を・・たった1人で片付けたのですか?デヴィットさんがたった1人で・・・?」


「何だ。そんなに驚く程の事か?言ったじゃ無いか・・・。所詮あそこにいた兵士たちはソフィーが急遽集めた単なる寄せ集めの集団でしかないって・・・。俺は何と言っても聖女付きの聖剣士なんだ。あいつ等が俺にかなう訳が無いだろう?」


デヴィットは笑顔で言った。

おお~・・・な、何と頼もしい・・。良かった・・・デヴィットが側にいてくれれば・・きっとマリウスからも守って貰えるだろう。

ようやく私は肩の力が抜け・・・

そのまま意識を失ってしまった—。







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