第1章 2 衝撃の再会

 え・・・?誰?目を開けた私の目の前には見た事が無い青年が立っている。

その場所は巨大なダンスホールのような場所だった。

大理石の床はピカピカに磨き上げられ、床に敷き詰められた赤いカーペットには金糸で、見事な薔薇の刺繍が施されている。まるで王子様と御姫様が出て来る御伽噺の世界観の様なお城であった。


「全くフェアリーにも困ったものだね。ボクがいなかったら、今頃ジェシカがどうなっていたか・・・。」


 青年はため息を付きながらフェアリーを少しだけ睨みつけた。すると怒られるとでも思ったのか、フェアリーは挨拶もしないで姿を消してしまった。


 私は目の前に立っている青年を改めて見つめた。

マリウスと同じ白銀の髪は背中まで届く長さ、陶磁器のような白い肌に赤い瞳はまるで宝石のように光り輝いている。そして女性とも見間違うような美しい容姿・・。

一体この人は誰・・・?


「会いたかったよ。ジェシカ。」


青年は私にほほ笑みながら言った。


 え、笑顔が眩しすぎる!美しいお城に美しいプリンス・・・。こんなの場面は私の書いた小説には全く出て来ていない。もはや、この世界は私の書いた小説では無く、全くの別物の話になってしまっている。


「あの・・・。私の事、ご存知なのですか?それとも何処かでお会いしたことがありましたっけ?」


 私の周りはイケメンだらけだが、この青年は違う。明らかに群を抜いた美しさだ。これ程の美形なら絶対一度でも会えば忘れるはずは無いのに・・・生憎私の記憶の中にはこの青年は存在しない。

すると青年は一瞬キョトンとした表情を見せるが、突然グイッと私の腕を掴んで引き寄せると、顔を近付けてきた。

か・顔が近い・・・・。目が眩みそうだ。


「ねえ、ジェシカ。本当にボクの事・・・分からないの?」


青年が少しだけ悲しそうな表情になる。う・・・な、何だか酷く責められているような気分になってきた。

「は、はい・・・。すみません・・・。」


すると青年が言った。


「あ、もしかしてジェシカなんて呼ぶからボクの事が分からないのかな?それじゃ、こう呼んでみたらボクの事分かるかな?会いたかったよ、ハルカ。」


「え?」

今、この青年は私の事を何と呼んだ?ハルカ・・・?この世界で私の事をそんな風に呼ぶ人は、たった1人しかいない・・。ま、まさか・・・。

「ア・・アンジュ?アンジュなの・・・?」

震える声で青年に呼びかけてみる。すると彼はパアッと笑顔になると、私の両手を強く握りしめて言った。


「そうだよ!やっと思い出してくれたんだね、ハルカ。ボクは・・・アンジュだよ。

君がこの世界にやって来るのを待っていたんだから。」


「ほ・・・本当に・・・?アンジュなの・・?」


私は今も信じられない気持ちでアンジュを見つめた。アンジュと別れて、まだ一月も経過していないのに、どうしてこんなに成長しているのだろう?不思議なのはそれだけでは無い。アンジュは・・・・女の子だったはずでは?!

「アンジュ・・・あ、あなた・・ひょっとして女装癖のある男の子だったのね?!」

私は思わず叫んでしまった。


「え・・・?」

すると露骨に嫌そうな表情を浮かべるアンジュ。うん、でもやはりどんな表情をしても美形は絵になるなあ・・・。


「まあ・・いいよ。立ち話も何だから、座って話しをしよう。」


アンジュがパチンと指を鳴らすと、今まで大ホールの中に居たはずだったのに、突然その場が応接室へと早変わりしていた。嘘?!いつの間に?


「さあ、ハルカ。座って。」


アンジュは嬉しそうに自分の隣の席に座るようにポンポンとソファを叩いた。

う~ん・・でも隣同士だと話しにくい気がするなあ。

そう思った私はアンジュの目の前のソファに座ると、彼は悲しそうに目を伏せた。


「そうなんだ・・・ハルカはボクの隣に座るのは嫌なんだね・・?」


「ち、違うってば!た、ただ話をするなら向かい合わせになった方がいいでしょう?」


「うん・・・。ハルカがそう言うなら別に構わないけど・・・。」


しょんぼりした顔を見せるアンジュ。その姿にはやはりあの当時のアンジュの面影がある。

・・・それにしても・・・私は先程からある違和感を感じていた。

ここはアンジュが教えてくれた『狭間の世界』で間違いは無いだろう。

でも・・何故?どうして私はここにやって来たのだろう?何だか酷く重要な何かを忘れてしまっている気がする。それは絶対に忘れてはいけない大事な事だったような気がするのに・・まるで先程から私の頭に靄がかかっているようだ。


「どうしたの、ハルカ。ぼんやりした顔して。」


不意にアンジュが声をかけてきたので、私は現実に引き戻された。

「う、うううん。何でも無い。でも・・アンジュ。あなたって男の子だったのね。」


するとアンジュからは意外な返事が返って来た。


「違うよ。」


「えええ?!だ、だって今・・・。男の子じゃ無いって・・・。」


「正確に言うとね・・・。あの時、ボクは性別が無かったんだよ。」


アンジュは意味深な笑顔で答えた。


「せ・・性別が無かった・・・の・・?ま、まるで天使みたい・・。ならさっき会ったフェアリーも性別が無いの?」


「違うよ、彼女はれっきとした女の子。性別が決まっていなかったのは、この世界の王になるボクだけだったんだよ。」


え・・・ちょっと待って。今アンジュは何と言った。この世界の王になる人物には性別が無い、そしてアンジュには性別が無かった・・・と言う事は・・・。

「あ・・・アンジュがこの『狭間の世界』の王様って事なの?!」


「うん、そうだよ。ハルカと出会ったのは王になる前、見聞を広げる為に人間界へ勉強に来ていた時だったんだよ。ボクたち、代々王になる者は生れた時は性別が無いんだ。そして、王を引き継ぐときに自分の性別を決める事になっているんだよ。大体、性別は旅の途中で出会った人達の影響を受けて、男か女か分かれるんだけどね・・。ちなみにボクの一つ前の王は女性だったんだよ。」


 私は信じられない思いでアンジュの話を聞いていた。あの美少女のアンジュが今は美しい青年になっていたという事実もそうだが、一番驚いたのはアンジュが『狭間の世界の王』であるという事実だ。


「ところで・・・。」


不意にアンジュが立ち上って、私の前に跪くと言った。


「どうしてボクが男性の姿になったか分かる?」


言いながらアンジュは私の両頬に手を添えると瞳を覗き込むように尋ねて来た。


「さ、さあ・・・?な・何故でしょうか・・・?」

何だろう?急にアンジュの雰囲気が変わったような気がする。


「それはね・・・。」


言いながら、アンジュの顔がどんどん近付いてくる。え・・・?


「・・・・。」

「・・・・。」


気が付くと、私はアンジュに口付けされていた。余りにも突然の出来事で私は身体が固まる。


すると、そんな私の様子に気が付いたのか、アンジュは私から唇を離して妖艶に笑った。


「フフフ・・・驚いているみたいだね。ハルカ?」


一瞬、ボ~ッとしていた私だが、すぐに気を取り直してアンジュに言った。


「な・な・な・・・・いきなり何するの?!」

両手で口元を押さえ、咄嗟にアンジュから距離を取ると私は抗議した。今、私の目の前にいるアンジュは紛れも無い、立派な成人男性だ!


「何って・・・?親愛を込めたキスをしただけだよ?挨拶みたいなものだよ。」


お道化たようにアンジュは言う。


「あ、挨拶・・・。」

私はドキドキする胸元を押さえながら言った。そうか・・・この『狭間の世界』では挨拶はキスなのか。・・・なかなか私にとってはハードルが高い挨拶だ・・・と思っていると、突然アンジュが笑い出した。



「アハハハハ!ねえ・・・挨拶って・・・ハルカ、本当にキスが挨拶だと信じちゃったの?そんなはずないでしょう?ハルカの事が好きだからボクはキスをしたに決まってるじゃないの。ボクが性別を男にしたのはね・・・ハルカ。君をボクのお嫁さんにしたいと思ったからなんだよ?」


アンジュは私にとんでもない事を言って来た—。












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