第13章 11 誓いの握手
「悪い、2人共!待たせたな。」
小型ボートに乗ってレオが現れた。
「レオ、わざわざ来てくれてありがとう。」
「そりゃあ、ジェシカの為なら何処だって行くさ。」
そしてレオはマシューを見ると言った。
「ああ、確かにあんただったな。俺達の代わりに花を摘んで来てくれたのは。あの時は世話になったな。」
「いや、ジェシカの命が懸かっていたんだから、あれは当然の事さ。」
マシューは私を見ながら言う。そして視線をレオに戻すと言った。
「とりあえず、何処か店に入って話をしよう。」
私達は港近くの酒場に入った。一応セント・レイズ学院の学生である事がバレないように私とマシューはフード付きのコートを脱がず、顔が隠れるように目深に被ると一番奥のテーブル席に3人で座った。
「俺は明日の午前0時に3人の門番達と交代する事になっているんだ。見張りの時間は午前0時から午後の12時まで。2人とも知ってる通り、俺は1人で門番をしているから『ワールズ・エンド』の世界では何の問題も無い。肝心なのは学院の神殿を守る者達なんだ。君達が以前『ワールズ・エンド』へ入ってきた時、神官2名の見張りを倒して中に入ってきただろう?だからあれ以来見張りが強化されて、今は神官2名と騎士2名で見張りを立てるようになったんだよ。」
「・・・すまなかったな。俺のボスが・・過激な事をして門番を気絶させてしまったからな・・・。」
レオが頭を下げた。・・・ボスって・・・まさかウィルが・・?お、恐ろしい。一体どんな手を使って門番を気絶させたと言うのだろう?聞きたいけど・・聞かないでおこう。
「なあ、それじゃお前がその門番達に差し入れと称して食べ物に睡眠薬を混ぜて眠らせるのはどうだ?」
おお!レオ!ナイスな考えだ!
「いや、それは無理だよ。俺は・・・半分は魔族だから、皆からは・・信頼されていないんだよ。」
マシューは少し寂しげに言う。
「「・・・・。」」
マシューの言葉に私もレオも何も言えなくなってしまった。
「い、嫌だなあ、2人とも。そんな辛気臭い顔しなくても大丈夫だよ。俺は少しもそんな事は気にしていないんだから。」
マシューは苦笑しながら私達に言った。
「神殿にいる門番てどんな人達なのかな・・・?」
私はぽつりと言った。
「それなんだけどね・・・。当日にならないと分からないんだよ。あの時以来、学院側もかなり警備体制を強化していて、神殿の守りは当日まで誰も知らされないんだ。」
私はそれを聞いて何故か非常に嫌な予感がしてきた・・・。何だろう、この嫌な感覚は・・・。思わず肩を抱きかかえた。
「おい?どうしたんだ。ジェシカ。顔色が悪いぞ?」
素早く気が付いたレオが声をかけてきた。
「本当だ。ジェシカ・・・どうしたんだい?具合でも悪いの?」
マシューも心配そうに私を見ている。
「う、うううん。大丈夫、何でも無いから心配しないで。それで・・マシューには何か考えがあるの?」
「うん・・・。取り合えずは俺の催眠術に相手がかかってくれるといいけど・・・。騎士は何とかなっても、問題は神官の方なんだ。彼等は魔力耐性に特化しているから、俺の催眠暗示が効かないかもしれない・・・・。」
マシューは考え込むかのように言った。
「よし、なら騎士には暗示がかけられるんだよな?そうしたら残りの神官2名は力づくで倒せばいいな。」
レオが物騒な事を言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ、レオ。仮にもセント・レイズ学院の神官なんだよ?敵じゃ無いんだから倒しちゃ駄目でしょう。」
「でも、倒さなければ通してくれないだろう?」
確かにレオの言う事も一理あるが・・。
「マシュー。どうしよう・・・。」
私はマシューを見た。
「うん、確かに倒しては駄目だ。彼等には・・眠ってもらうしかないな。俺もあまり手荒な真似はしたくないし。魔法耐性があるから、眠りの魔法は効かないかもしれないけれど、強烈な睡眠薬なら・・・騎士もまとめて眠らせる事が出来るかもしれない。」
マシューは腕組みしながら言う。
「よし、それなら俺がその睡眠薬を調達してくるぜ。任せておきな、俺はそういう事が得意なんだ。何と言っても・・・。」
そこでレオが慌てて口を押えた。
「「?」」
私とマシューは首を傾げた。何故言いかけた事をやめるのだろう?
「ねえ、レオ。今何言いかけたの?」
「い、いや・・・。な・何でも無い・・・。」
レオは冷汗を垂らしている。
「その顔は何でも無いって感じでは無さそうだよね?」
マシューもレオをじっと見る。
「わ・・・分かったよ・・。白状するよ・・。実はジェシカを誘拐した時なんだけど・・あれは俺が睡眠薬を調達して来たんだよ。あの睡眠薬は気体で出来ていたから、空気中に簡単に散布して使う事が出来るんだ。あれは強力な薬だったな・・・。その証拠にジェシカ、お前は船に担ぎ込まれても目を覚まさなかったものな?」
「そ、そうだったのね・・・・。」
もう今更だが、私が彼等に誘拐されなければこんな事には・・・。つい、恨めしい目でレオを見てしまった。
「う、うわああ!す、すまん!ジェシカ!」
レオは私の視線に気づき、テーブルに頭をぶつけるくらい頭を下げて謝罪してきた。
「しーっ!レオ、声が大きいよ。俺達はあまり目立つわけにはいかないんだから。」
マシューがレオを注意した。
「別に、もう今更気にしていないからいいよ。それよりレオ、その睡眠薬ってすぐに調達出来そうなの?」
「ああ、手に入れるルートはちゃんと持ってる。だから安心しろ。」
その時—。
「!」
突然マシューがビクリとして酒場の窓の方に視線をやった。
「ど、どうしたの?マシュー。」
「い、いや・・・。今・・視線を感じた気がして・・。」
いつも冷静なマシューが何故か青ざめた様子で窓の外を見つめている。
「視線?う~ん・・・。俺は過去に海賊を生業としていたから、人の視線は察知しやすい方なんだが、悪いが何も感じなかったぞ?」
「わ、私も・・・何も感じなかったけど・・?」
「・・・。」
マシューは返事をしないで、周囲をキョロキョロと見渡している。
「お、おい・・。一体お前、どうしたんだよ?大丈夫か?」
レオが心配そうにマシューに声をかけた。
「マシュー・・・。」
私も徐々に不安が込み上げてきた。
「いや・・ごめん。2人とも。取り合えず、睡眠薬だけに頼るのは心許ないから、もっと別の方法も考えておいた方がいいな。所でレオ、君は剣を扱える?」
「ああ、何と言ってもおれは元海賊だぞ?毎日剣術の練習はしているし、腕に自信はある。」
「そうか・・・。それじゃ明日は剣も携えてきてくれるかな?念の為に・・・。」
「ああ、当たり前だ。俺はジェシカの騎士だからな。」
レオは私の頭にポンと手を乗せるとニヤリと笑った。
「それは頼もしいな。」
マシューはチラリと私を意味深に見ながら言った。
「ねえ、私は・・・何をすればいい?何か手伝える事はある?」
「いや。ジェシカ。君はもう手伝いとかは一切考えなくていい。俺とレオが必ず君を魔界まで連れて行ける道筋を立てるから・・・ノア先輩を助け出す事だけを考えるんだ。ジェシカが魔界に入ってしまえば、もう俺は君を手助けしてあげる事が出来ない。だから・・・。」
マシューはレオを見た。
「レオ、何としても・・・2人で魔界へ行ってくれないか?ジェシカを1人に・・しないであげてくれ。」
「ああ、分かってる。任せておけ。命に代えてもジェシカは俺が守り抜くと決めてるからな。」
レオはマシューに手を差し出した。
「「?」」
私とマシューは首を傾げるとレオは言った。
「おい、マシュー。手、出せよ。仲間の誓いの握手だ。」
「仲間・・・。」
マシューが呆然とした様子で言った。
「ああ、俺とお前は一蓮托生だ。」
そしてレオは強引にマシューの手を取ると、2人は握手を交わした―。
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