第12章 4 ヒロインの策略
「あ、あの・・・ドミニク様。いくら何でもこの状況はまずいような・・・。」
私は焦りながら言った。これは正に校則違反!もし、バレたら・・・私は魔界の門を開く前に校則違反で退学になってしまうかもしれない!
「ああ、もしかすると校則を気にしているのか?男子寮と女子寮は互いに行き来してはいけないという。」
「はい、それです。ドミニク様、お分かりになっているのなら私を今すぐ女子寮へ戻して頂けますか?」
公爵の壁にかけてある時計を見ると、時刻はまだ夜の7時半であった。もっと遅い時間なら門限もあるし・・・等の言い訳が立つのに。
「ジェシカ、先程も言ったがこの部屋には今特殊なシールドをかけてあるので絶対に誰も出入りする事が出来ないし、声が外に漏れる事も無いから何も心配する事は無いと話したはずなんだが・・・?」
首を傾げながら公爵は言う。
「で、ですが・・・。やはりこの場所はまずいと思うのですけど・・・。」
どうしよう・・・困ったな。やはり私としてはここが学院の中で、校則違反をしているという気持ちがどうしても拭えない。
「それならジェシカ、他にどこか2人きりで話が出来る場所を知らないか?」
公爵が真剣な目で私に尋ねて来る。う・・・そ、それはあるにはあるが・・言えない。公爵に『逢瀬の塔』はいかがですか?等と・・!
「い、いえ。ではこのお部屋で結構です。」
そう答えざるを得なかった。
今、私と公爵は迎え合わせになり、互いに一人がけソファに座っている。
「さ、ジェシカ。昨日、中庭で一体何を見たんだ?教えてくれ。」
じっと私から目を離さない公爵。これから非常に話しにくい内容の事を言うので気まずいな・・・。
私は視線を泳がせながら言った。
「あ、あの・・・昨日、公爵は本当に一歩も自室から外へ出ていないのですよね?」
「ああ、勿論。まさかこの学院に来てすぐに風邪を引くとは思わなかったな。」
「それを証明する事は・・・出来ますか?」
「え?証明する事?いや・・・流石にそれは出来ないな。」
公爵は少しの間考えたが、私の予想通りの答えを返してきた。
「そうですか・・・。」
落胆してしまった。証拠があればすぐにでも私は安心出来たのに・・。
「でも・・・何故ジェシカはそこまで俺の昨日の行動を気にしているのだ?」
ああ、やっぱりそこに触れて来るよね・・・。私は覚悟を決めた。
「あの、実は・・・・私、見てしまったんです・・・。」
「見たって・・・何を?」
「ドミニク様と・・・ソフィーさんが一緒に居るところを・・・。」
「え?俺とソフィーが?」
公爵は怪訝な表情を浮かべた。
「何処で見たんだ?」
「南の塔の・・・中庭です。」
「それはおかしい。俺は本当に昨日は一歩も部屋から出た覚えはないぞ。ましてや中庭に行くなど・・・。」
そこまで言いかけて公爵は不意に何か考えこんだ。
「どうしたのですか?ドミニク様。」
「い、いや・・・。実は、今思い出した事があるんだ。」
「思い出した事?」
「ああ、眠っていた時に頭の中で、誰かの声が聞こえてきて・・・。そこから先は全く覚えていないのだが・・・。」
そこで公爵は言葉を切った。
「ドミニク様?」
何だか様子がおかしい。
「まさか・・・そんな・・。」
公爵は何か呟いている。
「どうしたのですか?」
「い、いや・・・じ、実は目が覚めた時・・俺の身体に嗅ぎなれない香水の様な甘い香りが残っていた・・。そして先程会ったソフィーからも同じ香りが・・・。」
戸惑ったように公爵は言った。その言葉を聞き、私は目の前が真っ暗になった気がした。やっぱりあれは公爵とソフィーで間違い無かったんだ・・・!無意識のうちに公爵はソフィーに暗示をかけられて、2人は・・・。ひょっとするとアラン王子もそのようにして暗示をかけられていった・・・?
あまりのショックで倒れそうだ。グラリと身体が傾いた。
「危ないっ!」
公爵が慌てて駆け寄って、私の身体を支えた。
「どうしたんだ?ジェシカ?顔色が真っ青だぞ?!」
「ド、ドミニク様・・・。」
私は公爵を見つめながら考えた。
恐らくソフィーは暗示をかけてアラン王子を誘惑して関係を結び、より一層強い暗示をかけた。そして恐らく公爵も同様に・・・。でも何故?アラン王子は今はソフィーに暗示をかけられていないのだろうか?一体何が原因で・・・?
「どうした?ジェシカ?俺の声が聞こえているか?!」
公爵は私を支えながら顔を覗き込んだ。
「は、はい・・・。」
思い出さなくては。アラン王子がソフィーの暗示から開放されたきっかけが何かあったはず・・・。何か・・。
「ジェシカ、少し横になって休んだ方がいい。」
公爵は長椅子のソファに私を連れて行くと、横たわらせ、毛布を掛けてくれた。
「ありがとうございます・・・。ドミニク様・・。」
「まだ顔色が良くない・・・。」
公爵は心配そうに私を見つめている。
「ジェシカ・・・考えて見れば、今日お前は風邪を引いて授業を休んでいたんだよな・・・。無理をさせてしまったようですまなかった。」
「いえ、そんな・・・。」
思い出さなくちゃ。アラン王子がソフィーの暗示から抜け出せた方法を・・・。私は何故か、その方法を知っている気がするから・・・。
私は目を閉じた。でも思い出して何になる?夢の中では結局アラン王子も、公爵も私の敵になっていたのだから。
「ジェシカ・・・そろそろ教えてくれないか?昨日、中庭で何を見たんだ?」
公爵は先程の話の続きを促してきた。もうこれ以上、黙っている訳にはいかないだろう。元々はこの話をする為に、ここに来た訳だし。
「ドミニク様。驚かないで聞いてください・・・。実は・・私・・昨日の昼休み、中庭にいたんです。そこのベンチに座っていたら、ドミニク様がソフィーさんと一緒に中庭へ来たんです。」
「え・・?そ、それは本当か・・・?」
公爵の顔がみるみる青ざめていく。
「はい・・・。何よりソフィーさんはドミニク様の名前を呼んでいましたから。その時ドミニク様は・・こう言いました。私などに一瞬でも心を奪われるとは。ソフィーさんこそ自分の聖なる乙女だと・・。」
「そ、そんな馬鹿な・・・!お、俺は何も覚えていないぞ?!」
頭を押さえながら公爵は言った。そうだろう、だってソフィーの催眠暗示はすごく強力なのだから・・。私は続けた。
「そして、お2人はガゼボの中へ入り・・・その後は・・・。」
私はそこで言葉を切った。この先の話の続きをするのはとても出来そうになかった。
「その後は?一体何が起こったんだ?教えてくれ、ジェシカ!」
公爵は横たわった私に前に跪くと懇願して来た。
「そ、その後2人は・・・。」
そこで私は目を閉じて耳を塞いだ。まだあの時の2人の声が耳から離れない。ひょっとすると・・・ソフィーは私があの場所に居るのを知っていたのかもしれない。知っていて、わざとあの場所で公爵と関係を持ったのだろう。私を動揺させる為に・・・!
「ジェシカ・・・?」
私が震えながら目を閉じたまま両耳を押さえている様子から公爵は何かを感じたのだろう。震える声で私に尋ねて来た。
「ま・・・まさか・・・俺は、ソフィーを・・・?」
私は公爵の言葉に黙って頷く。嫌だ、もうあの時私が見た光景、耳にした声・・・それら全て忘れてしまいたい。
「ハ・・・ハハ・・・。そうか・・・。俺は・・ジェシカの前であの女と・・行為に及んだと言う訳か・・・?」
公爵の様子がおかしい・・・?
私はそっと目を開けて両耳から手を外すと、そこには泣いて私を見つめている公爵の姿があった―。
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