第11章 5 2人の会話の内容は?
「ジェシカ、あの男・・・お前とどんな関係にあるんだ?」
今、私と公爵はサロンの個室にいる。私の前にはカクテル、公爵の前にはボトルに入ったウィスキーが置かれている。
「どんな関係と言われましても・・・。」
どうしよう、何と言えばいいのだろうか。返答に困っていると公爵が言った。
「ジェシカ・・・・お前はあの男に対しても・・気持ちが揺れているのか・・?」
公爵は私の目をじっと見つめながら尋ねて来た。その瞳には戸惑いの表情を浮かべた私が映っている。
「ま、まさか!マシューと私はそんな関係では・・・。」
慌てて否定すると公爵は寂しげに笑った。
「そうか、マシューか・・・。随分と親し気に呼ぶんだな。」
「ドミニク様・・・。」
「まあその話は・・・後でも構わない。それよりもあの男の話していた事の方が余程気になる。どういう事なんだ、ジェシカ?今まで何度もある女によって危険な目に遭わされて来たとは・・。」
「そ、それは・・・。」
どうしよう。ソフィーによって、今まで何度も酷い目に遭わされた事を公爵に話すべきなのか?だけど私は公爵とソフィーがとてもお似合いのように見えたと言ってしまった。それなのに実は私はその彼女に何度も危険な目に遭いました等と言えるはずが無い。
「話してくれ、ジェシカ。一体誰にどんな危険な目に遭わされてきたんだ?俺はお前の力になりたいんだ。」
公爵は真剣な眼差しで私を見つめている。それなら・・・どうしてもこれだけは聞いておかなければ。
「ドミニク様・・・。昨日ソフィーさんとどのようなお話をしたのでしょうか・・・?どうか私にも教えて戴けませんか?」
もし、私の質問に答えてくれたら公爵に全てを話そう、でも・・・答えてくれなければ・・。ソフィーの事を話すのはやめよう。
果たして公爵の返事は・・・。
「い、いや。大した話はしていない。ジェシカ・・・お前は何も気にする必要は無いんだ。」
「!」
公爵は答えてくれなかった。そうか、それなら私は・・・。
「そうですか、すみません。今の話は忘れて下さい。」
「それで?ジェシカ。お前を危険な目に遭わせていたのは誰だ?」
「分かりません。」
「え?」
公爵は意外そうな顔をした。
「分からないって・・・ジェシカ・・?」
「すみません、私には相手が誰なのか分からないんです。」
恐らくソフィーは公爵に私のありもしない、でっち上げの話をしている可能性がある。それを私に言えないという事は・・・ソフィーに何か暗示をかけられたのかもしれない。だとしたら公爵に本当の事を言えるはずが無い。
私はカクテルを飲み干し、グラスを置くと言った。
「ドミニク様、私そろそろ帰りますね?」
「え?帰るって・・・まだ18時を過ぎたばかりだぞ?」
「ええ、ドミニク様は残って頂いて大丈夫です。まだお酒残っていますよね?私なら大丈夫です。1人で帰れますので。」
立ち上がって挨拶をし、踵を返してドアノブに手をかけた時。
「ジェシカッ!!」
突然公爵が手を引いて引き留めた。
「ドミニク様・・・?」
「駄目だ、行くな。ジェシカ・・・。マシューという男に言われていただろう?1人になっては駄目だ。俺がお前を寮まで送る。」
私の手を握る力が強まる。
「それに・・・俺は、もっとお前と一緒に居たい・・・。迷惑か?」
「別に迷惑と言う事では・・・。」
ただこれ以上公爵と一緒にいると自分の動揺を悟られてしまいそうで怖かった。どうも私は自分でも驚く位に公爵がソフィーとの会話の内容を教えてくれなかった事についてショックを受けていたようだ。
2人きりで密室にいると自分の心の内が読まれてしまうようで怖かった私は公爵に言った。
「そ、それなら・・・もう少しだけお酒を飲んで、その後は夜の学院を2人で散歩でもしませんか?絶好の夜景スポットがあるんですよ?」
「そうか、それは楽しみだな。」
笑みを浮かべた公爵は残りのお酒を飲むとほほ笑んだ―。
サロンを出た後、2人で白い息を吐きながら学院の園庭を散歩していた。
「ほら、ドミニク様。ここは噴水があって、ライトアップしてるんですよ。実はここの建物は昨年仮装ダンスパーティーが行われた場所なんです。」
「あ、ああ。そうなのか?」
何故かソワソワしながら辺りを伺う公爵。一体どうしたのだろうか・・?
公爵に学院の案内をしつつ、園庭を散歩しているが、どうも公爵の心はここにあらずといった雰囲気である。
私が首を傾げたその時・・・・突然前方にある茂みがガサガサと揺れ、そこから何とソフィーが出てきたのだ。
「ソフィーッ!!」
公爵は驚いた様に声を上げた。いや、公爵以上に驚いているのは私だ。何故ソフィーがここに現れたのだろう?しかも公爵は彼女の名前を確かに呼んだ。
ソフィーは私達の前に現れるや否や、公爵を詰り始めた。
「酷いじゃ無いですか、ドミニク様!私は今日の18時にここで待ち合わせをしましょうと言いましたよね?約束したじゃ無いですか!」
「いや、俺は約束などしていない。お前が勝手に言った話だろう?大体、俺は今ジェシカと一緒にいるんだ。邪魔をしないでくれ。」
公爵は私をグイッと引き寄せ、腕の中に囲い込むと言った。
「な・・・何ですって・・・・!ジェシカさん、貴女はまたそうやって何処までも私の邪魔をするつもりなのね?!ダニエル様やアラン王子だけでなく、ドミニク様にまで・・・!これではまるで話が違うじゃ無いの!」
ソフィーは殺気の籠った目で私を睨んでいる。
え?ソフィーは何を言っているのだ。話が違う?一体それはどういう意味を表しているのだろうか?でも・・・この立場は非常にまずい!これ以上ソフィーに目の敵にされれば恐らく只ではすまないだろう。
「どういう事ですか?ドミニク様。貴女はソフィーさんと約束されてたんですよね?彼女はそう言ってますけど?」
「全く・・・思い込みも甚だしい。一方的にあの女が喋って、勝手に約束をして帰って行っただけだ。」
そして私を見ると言った。
「ジェシカ、この女は昨日お前の悪口を俺にずっと言い続けていた最低な女だ。余りにも気分が悪くなる話ばかりで、後半は聞いている事も出来なかった程にな。」
ええ?!そうだったの?それで公爵は私にどんな話をしたのか言わないでおいてくれていたのか。私を傷つけない為に・・・。
「いいか?ジェシカは俺の大事な女性だ。今後俺の前でジェシカの悪口を言ってみろ?ただでは置かないからな・・?それにまだある。ソフィー・・・お前だろう?
ジェシカを狙って、今まで危険な目に遭わせてきたのは・・・!」
ソフィーは顔を青ざめさせながら私を睨み付けた。
「ジェシカさん・・・。貴女、まさかドミニク様に話したのね?!」
「そ、そんな私は何も話していません!」
どうして公爵にソフィーの事を話せると言うのだ?今は公爵は私の味方かもしれないがいつソフィー側につくか分からないのに・・・!
「ああ、そうだ。ジェシカは何も言っていない。でも昨日からお前を見た時の異常な程の怯えようで、すぐに気が付いた。それに今だって・・可哀そうに。こんなに震えているじゃないか・・・。」
言いながら公爵は私を抱きしめて来た。こ、公爵!ソフィーの前で何という事をしてくれたのですか?これではますます私は彼女の怒りを買ってしまうばかりではないですか!
「ド、ドミニク様・・・。は、離してください。私はもう退散しますので、ソフィーさんとのお約束、果たしてください・・・!」
しかし、私の台詞がますますソフィーを怒らせてしまったようである。
「そうやって・・・貴女はいつも自分が私より優位な位置に立っていると思って馬鹿にしているのでしょう?いいわ・・・。今に見ていなさいよ・・・!」
ソフィーはまるで悪党のような台詞を言い放つと駆け足で去って行った—。
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