第11章 4 魔界の仕組み
まだ昼休みが終わるまで時間があるからと、マシューは私に付き合ってくれた。
2人で向かい合わせにコーヒーを飲む。
「うん、相変わらずここのコーヒーは美味しいなあ。」
嬉しそうにコーヒーを飲んでいるマシュー。そんな私は彼に尋ねたくてたまらない事が山ほどあり、先程からうずうずしていた。前回はあまり話をする時間が無かっただけに、この時間が1分1秒でも惜しいのだが・・。全く何から話してよいか分からない。
「ねえ・・・ミス・ジェシカ。さっきからそんな熱い視線を送られても困るんだけどなあ?」
冗談めかした言い方でマシューは私に言った。
「あ、ご・ごめんなさいっ!」
「何か俺に聞きたい事があるんだろう?いいよ、答えられる範囲内であれば答えるから。」
「あ、ありがとう!それじゃ、早速質問するね!では質問その1。マシューは魔族と人間のハーフなんでしょう?そういった人達は沢山いるの?マシューは人間界に住んでいるけど、魔界に住んでいるハーフの人もいるの?」
「魔族と人間のハーフは結構いるよ。でもね、皆人間界に住んでるよ。魔界に住むようなハーフは誰もいないかなあ。第一、あそこは物凄く住みにくい場所だからね。」
「あ・・・・。」
私はそれを聞いて、アンジュの話を思い出した。魔界へ行った人間は3カ月以内に人間界へ戻らないと魔族になってしまうという話を。
「ねえ、マシューのお父さんとお母さんはどちら側に住んでるの?どちらが魔族なの?」
「俺の父さんが人間で、母さんが魔族なんだ。でも、勿論2人とも人間界に住んでるよ。」
マシューはコーヒーを一口飲むと言った。
「・・・ねえ、マシューは魔界がどんな所か知ってる・・?」
「う~ん・・・俺は生れてこの方、数回しか魔界に行った事が無いから良く分からないなあ・・。これは母さんから聞いた話なんだけど、魔界は人間界と違ってとても寒い世界らしい。」
「え?」
その言葉を聞いて、ドキリとした。何故なら・・私にはノア先輩から今の言葉に心当たりのある台詞を聞いているからだ。
「さ、寒い場所って・・・どんな風に?」
「そうだな・・・。まるで高い熱を出して、いくら身体を温めても内部がとても寒くて身体がちっとも温かくならない・・・そんな感覚かな?魔族の体温は人間とは違ってずっと低いから、彼等に取っては過ごしやすい世界だけど、人間にとってはすごく辛い場所だよ。身体が完全に慣れるまでには数か月かかってしまうんだ。」
マシューは考え込むかのように説明してくれた。
「そ、それじゃ・・・人間がずっと魔界にいたら、魔族になってしまうという話は知ってる?」
「え?いやあ・・・。そんな事は聞いたことが無いなあ。何せ、人間界からは魔界へ行く事は出来ないからね。あの魔界へ繋がっている門を通らない限りは。だけど知性を持っている人型の魔族だけは特殊な空間転移魔法で人間界へ渡る事が出来るんだ。そうでなければ魔族と人間が出会う事なんか無いからね。ミス・ジェシカは知っていたかい?魔族の中でも種族が幾つも別れていて、俺達みたいな人型の姿をしている魔族はほんの僅かしかいないんだよ。そしてそれ以外の魔族は皆獣のような姿をしていたり、中には
マシューの説明を私は一語一句聞き逃すまいと真剣に話を聞いた。マシューの話した身体が慣れる・・・とは、恐らくアンジュが教えてくれた、魔族になってしまうまでの期間を言っているのかもしれない。
「ミス・ジェシカ?大丈夫?何だか随分顔色が悪いようだけど・・・。この話はもうやめようか?もっと楽しい話題に変えようか?」
マシューが心配そうに言う。
「いいの、大大丈夫!ねえ、それじゃまた質問してもいい?マシューはどうして聖剣士になれたの?確か、新入生が聖剣士になれるのは今学期からだよね?」
「うん、入学前から俺が魔族と人間のハーフだと言う事は学院側が知っていたからさ。だから聖剣士には無試験でなれた・・・と言うか、推薦されたんだけどね。」
そこまで話を聞いた時、昼休みが終わる前の予鈴が鳴り響いた。
「あ、いけない!もうこんな時間だったんだ!」
私は立ち上がった。
「それじゃ、教室まで送るよ。ミス・ジェシカ。」
「え?いいの?」
「うん、勿論。それが俺の今の役目だからね。だけど、・・・いいかい、これは忠告だ。今後暫くの間は絶対に1人で行動しては駄目だからな?あの女がずっと君を狙っていると言う事を忘れないように・・ね。」
「う、うん・・・。分かった。ありがとう、1人きりにならないように気を付けるね。」
「ああ、それでいい。それじゃ、教室へ戻ろうか?」
私を教室の近くまで送り届けてくれるとマシューは言った。
「よし、この辺りでいいだろう。すまないが、俺はここで帰らせて貰うよ。今日はこれから門の見張りをしなくてはならない当番日なんだ。」
「え?そんな大切な日に?!ご、ごめんなさい・・・!」
「大丈夫だって、気にする事は無いさ。だって俺からミス・ジェシカの護衛を名乗り出たんだからさ。それじゃあなミス・ジェシカ。」
「あ、待って。マシュー。私の事はミス・ジェシカじゃなくてジェシカって呼んでくれる?」
「分かったよ。ジェシカ。」
マシューが私の頭の上に手を置いた時、彼の顔色がサッと変わった。
次の瞬間、私はいきなり背後からグイッと誰かに引き寄せられた。
「!」
驚いて見上げると、そこに立っていたのは公爵であった。
「ド、ドミニク様・・・。」
しかし、公爵は私の呼びかけに返事をせずに険しい顔でマシューを睨み付けている。
「ジェシカに・・何をしていたんだ?」
公爵は低い声でマシューを威嚇するかのように言った。
「ま、待って下さい!ドミニク様。彼は・・・。」
しかし公爵は言った。
「ジェシカには聞いていない。俺はこの男に尋ねているのだ。」
「何をしていたかって?それはね、今まで俺はジェシカの護衛をしていたんだよ。生徒会からの依頼でジェシカの護衛役になった聖剣士さ。君は見た所、ジェシカのナイトみたいだけど・・・仮にナイトを名乗っていたいなら、ジェシカから目を離したら駄目じゃないかな?彼女はもう何度もある女によって危険な目に遭わされているんだよ?本当にジェシカが大事なら彼女から離れない事だね。」
「!」
公爵が息を飲む気配を感じた。マシューはそれを見届けると黙って背を向けて去って行く。
「マシュー!ありがとう!」
私がその背に向かって呼びかけると、マシューはこちらを振り向く事も無く手を振って歩き去って行った。
やがてマシューの姿が見えなくなると公爵は言った。
「ジェシカ・・・今の話は一体どういう意味・・・。」
公爵が私に言いかけた時、本鈴が鳴り響いた。
「ほ、ほら、ドミニク様。授業が始まるので教室へ戻りましょう?」
私は無理やり公爵の背を押して教室の中へと入って行った。
午後の最後の授業が終了すると、アラン王子とマリウスが懲りもせずに私の元へ駆け足でやって来た。
「さあ、ジェシカ!授業が終了した。これから2人きりで夜まで一緒に過ごそう!」
「いいえ、アラン王子。お嬢様は私と一緒にこれから過ごすのです。どうです?お嬢様。2人で図書館にでも行きませんか?新しい本が入荷されたようですよ?」
あ~あ・・・また始まったよ。この不毛な時間が・・・。私はいい加減うんざりして聞いていると、公爵が割って入って来た。
「いや、これからジェシカは俺と一緒に過ごすのだ。ジェシカには聞かなければならない事があるからな・・・。いいだろう?ジェシカ。」
公爵はじっと私の目を見つめながら言った。
「は、はい・・・。分かりました。」
私は返事をした。確かにまだ公爵に肝心な事を話していなかったから―。
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