第10章 4 新たな情報
翌朝私が目覚めた時には、既に自分のベッドの中だった。
今回も公爵は私が眠っている間に転移魔法で私をここへ連れて来たのだろう。
ふとベッドサイドのテーブルに目をやると手紙が乗っていた。
「・・・?」
開封して、手紙を読んでみる。
ジェシカへ
昨夜は申し訳無い事をしてしまった。
お前の話を聞いて、俺は両親に会って事の真相を確かめてこようと決心した。
もし仮に、お前の考えていた通りだとしたら俺は彼女に会ってみようと思う。そして彼女も俺と同じ気持ちだったなら・・・彼女に結婚を申し込んでくる。
ありがとう、ジェシカ。俺の背中を押してくれて。
ドミニク・テレステオ
そうか、公爵はやっと決心したのか。
「うまくいくといいな・・・。」
そうなれば、もしかすると私の運命も変わって来るかも・・・。
アラン王子はいつの間にか、国へ帰っていたし、フリッツ王太子もアラン王子が国へ帰ってからはピタリと静かになった。ひょっとするとアラン王子に対抗して私に冗談で結婚を申し込んで来ただけだったのかもしれない。何となく悪戯好きな人に見えたし。
後、残りはマリウスだ。彼は未だに戻って来るどころか連絡すら無い。何かあったのだろうか?でもマリウスがいないだけで私の周囲は静かである。
これについてはアリオスさんに感謝しなければ。
手紙を引き出しにしまうとカレンダーを見た。後2週間もすれば新学期が始まる。
「皆、元気にしてるかな。でも私は・・・。」
新学期が始まったらすぐにやらなければならない事がある。
平穏に暮らしていけるのは恐らく、この冬期休暇の間だけ・・・・。
その時ノックの音がした。アンジュの声だ。
「ハルカ、いるの?」
「うん、いるよ。待ってね、今ドアを開けるから。」
私は素早くドアを開けると言った。
「おはよう、アンジュ。」
するとアンジュは部屋に入るや否や私に飛びついてきた。
「ハルカッ!良かった・・・帰ってきていたんだね?夜になっても帰って来ないから、ボク本当に心配して・・・でもハルカの家族は誰も心配していないんだよ?!なんでのかな?!」
アンジュは憤慨したように言う。それを聞いて私は思わず苦笑してしまった。きっとジェシカの両親が心配しないのは以前のジェシカが外泊など日常茶飯事だったから心配しないのだと教えてあげようかと思ったが、自分の名誉を守るために、ここは伏せておいて私は曖昧に笑った。
「ボク、本当に心配で中々眠る事が出来なかったんだよ?でもどうやっていつの間に帰っていたの?」
どうしよう・・・アンジュには正直に言った方が良いかな?
「実はね、私つい最近まで婚約者がいたの。でも最近白紙に戻してたばかりなのだけど、昨夜は元婚約者に用事があって2人で会っていたの。それでその彼が昨夜私を転移魔法で部屋迄送ってくれたのよ。」
「ええっ?!ハルカ・・・婚約者がいたの?!」
よほど驚いたのかアンジュは目を見開いた。
「うん、でも終わった話だから。」
「そうなんだ・・・。でも転移魔法で気配を消してハルカを連れて来るなんて・・・相当魔力が強い相手なのかもしれない。」
アンジュはぶつぶつと言っている。
そう言えばマリウスも以前似たような事を言ってたっけ・・・。
「だけど。」
アンジュは言った。
「ボクが公爵の立場だったら絶対ハルカとの婚約を白紙にするなんて事しないのにな・・・。」
瞳をキラキラさせるアンジュ。
う!な、なんて可愛いの・・・!!
「ありがとう、アンジュッ!」
またまた私は彼女をギュウギュウに抱きしめるのだった・・・。
朝食後、アンジュは私の部屋に来ていた。
どうやらアンジュから魔界へ行く方法について、大切な話があるらしい。
「ねえ・・・。やっぱり今も魔界へ行くって言う気持ちは、変わらないんだよね?」
2人で本を読んでいると、ふいにアンジュが声をかけてきた。
「うん、勿論。どうしても助けなくちゃならない人がいるから。」
「そうなんだ・・・・。ねえ、ハルカ。実はね、ボクまだハルカに話していない重要な話があるんだ。」
「何?重要な話って。」
「実は・・・人間界と魔界の間には『狭間の世界』と呼ばれる世界が存在しているんだよ。」
「え?『狭間の世界』?そんな・・・私、小説の中でそんな設定はしていなかったけど?!」
アンジュは言った。
「ハルカの書いた小説の世界と、この世界では少しずつ色々な歪みが生じているんだよね?『狭間の世界』もその歪みの一部じゃないかな?」
確かに言われてみれば一理あるかもしれない。
「それで、その『狭間の世界』がどうしたの?」
「うん、この『狭間の世界』には人間でも魔族でもない者達が存在しているんだよ。例えば召喚獣もこの『狭間の世界』から呼び出されているんだ。」
「ええっ?!そうだったの?!」
何てこと、びっくりだ!
「この話は恐らく誰にも知られていないと思うんだけど・・実は鍵の種類は2つあって、魔界へ続く門を開ける鍵と、『狭間の世界』へ続く門を開ける鍵が存在しているんだよ。だからまずは『狭間の世界』の門をあけて、そこに住む住民達に力を貸して貰って準備を整えてから魔界へ行くべきだと思うんだ。」
アンジュの話は今回も驚かされる事ばかりだった。
だけど・・・。
「2種類の鍵か・・。魔界の鍵さえ見つかっていないのに、ましてや『狭間の世界』の鍵なんて見つかりっこない気がするな・・・。」
私はため息をつきながら言った。
「うん、確かにそれは言えるよね・・・。いっそ、鍵が無いなら作ってしまえばいいのだろうけど、そんな簡単に鍵が作れるとは思えないし。随分昔はこの世界にも錬金術師がいた、っていう伝説が残っているみたいだけど・・。」
アンジュも腕組みをしながら言う。
「錬金術・・・?」
何処かで聞いた事がある話だが、錬金術師と呼ばれた人々がどのような事をしていたのかはさっぱり分からない。
「ねえ、アンジュ。錬金術師って何をする人たちなの?」
「錬金術師って言うのは、様々な物質を使って、どんな物でも作り上げてしまう人々の事を言うんだよ。でもこの錬金術師は魔力だけに留まらず、色々な条件が揃った人達しかなれなかったんだって。だから今ではもう人材が減ってこの世に存在していないんだよ。」
「そうなんだ・・・。錬金術師って呼ばれた人達がもういないんじゃ、この話は無理だよね・・・。」
「うん・・・。残念だけどね。」
「だけど・・・。」
私はアンジュの肩に手を置くと言った。
「本当にアンジュって博識だよね。『狭間の世界』の話どころか錬金術師の話まで知ってるなんて・・・!本当に驚きだよ。どこでそんな情報を手に入れたの?」
すると何故か視線を逸らして、ソワソワしている。
「アンジュ・・・?」
「う、うん。じつはね、この話はハルカの家にある図書館の本に書いてあったんだよ。ひょっとするとハルカのご先祖様は錬金術師だったんじゃないかな?」
「え?それじゃ『狭間の世界』の話もそこに書いてあったの?}
「う、うん。そんな感じ。」
「そうなんだ・・・。でも魔界へ行く前に『狭間の世界』と呼ばれる場所に行く事が出来れば・・・そしてそこに住む住民たちが力を貸してくれれば、何とかなるかもしれないんだよね?」
「うん、そうだよ。」
アンジュは頷いた。
「う~ん・・・だけど・・仮にその『狭間の世界』へ無事に辿り着く事が出来たとしても、協力してくれるかどうかも分からないんだよね。大丈夫かなあ?今から余計な心配事が増えちゃったわ・・。」
私が溜息をつくとアンジュが言った。
「大丈夫、ハルカならきっと誰かが助けてくれるよ。」
そしてアンジュはにっこりと私に笑いかけるのだった—。
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