第9章 6 美少女には優しく
「アンジュッ!」
私が王立図書館へ行くと、既にアンジュは図書館の入口の前で待っていた。
「おはよう、ハルカ。もう少し待っていて来ない様だったら、先に中へ入ろうかと思っていたんだよ?」
ニッコリ微笑むアンジュ。おおっ!美少女が微笑むと、周りの空気が何だかキラキラ輝いて見える・・・。
「あ、ありがとう。アンジュ。・・・ねえ、やっぱり中へ入るには受付を済ませないといけないのかな?」
恐る恐る尋ねてみた。
「うん、そうだけど・・・。あ、でもね。ボクは許可証を持っているから毎回受付しなくてもこの許可証を見せれば中へ入れるんだよ?」
アンジュは言いながら首から下げている名札のようなものを見せてくれた。
「へえ~こんなのがあるんだ。でもこの許可証、どうやってもらえるの?」
「これはね、1カ月間毎日この図書館へ通い続ければ貰えるんだよ。」
ニコニコしながら物凄い事をサラリと言ってしまうアンジュ。
「ええ~っ!そんなあ・・・・1カ月間毎日?!」
そんな、絶対に無理に決まっている。大体後半月後には私は学院へ戻らなければならないのだ。しかもその前に色々やって置かなけれなばならない事が沢山残っている。
「どうしたの?ハルカ?」
落胆した私を覗き込むアンジュ。
「い、いや・・・・流石に1カ月間毎日図書館へ来るのは無理かな・・・と思って。」
「え?何で来れないの?」
アンジュは首を傾げている。
「ほら、アンジュも気付いていると思うけど・・・私はセント・レイズ学院の学生なの。今冬休みで帰省中なのよ。でも後半月もすれば授業が再開されるから戻らないといけないし・・・。」
「そっか、ハルカはセント・レイズ学院の学生だったんだね?それならボクもそっちへ行こうかな?ここの図書館より魔界の門があるセント・レイズ諸島の方が役立つ情報を仕入れられそうな気がするし。」
その言葉を聞いて私は驚いた。
「ええ?!本気なの、アンジュ。ここからセント・レイズ諸島は4500Kmも離れた場所にあるんだよ?一体どうやってそこまで行くつもりなの?それに親御さんがいるんでしょう?何と言って来るつもりなの?」
「ボクには親はいないよ。」
アンジュの言葉に瞬間私は凍り付いた。
「え?アンジュ・・・?」
「ボクには親はいないから、いつだって好きな時にどんな場所だって行く事が出来るよ。」
「ア、アンジュ・・・。」
目の前の少女に向かって私は何て残酷なことばを言ってしまったのだろう。
私はアンジュの頭の後ろに手をやると、グイッと引き寄せ自分の胸に抱きしめた。
「え?ハ・ハルカ・・・・?」
アンジュの戸惑う声が聞こえる。
私はアンジュを抱きしめたまま言った。
「ごめんね、私何も知らないで随分無神経な事言ってしまって・・・・。」
「嫌だな~。ハルカったら・・・。ボクは別に同情を買う為にこんな言葉を言うつもりなんか無かったのに・・。」
アンジュは笑い、そして私に言った。
「やっぱりハルカは優しいね・・・。」
その後、王立図書館で私は受付を済ませた。てっきりまた城へ呼び出されてしまうのだろうか?しかし、そんな心配は稀有に終わった。
「ねえねえ、ハルカ。どうしてさっき受付でビクビクしてたの?」
2人で並んで座り、本を読んでいるとアンジュが話しかけてきた。
「ああ・・・じつはね・・。昨日ちょっと知り合い2人に・・さっきの場所で受付をしたら呼び出されてしまってね。それで今日も呼び出されたらいやだなあって思って。」
「ふ~ん・・。そうなんだ・・・。もしかして男の人?」
アンジュがテーブルに自分の頭を乗せる姿で私を見つめてきた。
「う、うん。まあそんな所・・・。」
「ねえ、その2人はハルカにとってどんな存在なの?恋人候補?」
何だろう?やけにしつこく尋ねて来る。
「恋人候補なんかじゃ無いってば。そ、それにこんな話はまだ子供のアンジュには早いから、この話は終わり。」
「子供・・・か。」
寂しげにポツリと言うアンジュ。
「え?」
「ねえ、やっぱりボクは子供に見える?」
真剣な瞳で見つめて来る。
「うん・・・見える・・けど・・。でも、大丈夫よ。すぐにこの年齢の子は大きくなるから大丈夫。でもね、まだアンジュは子供なんだから1人でセント・レイズ諸島へ来るのは無理だよ。だってご両親はいなくても、親戚が誰かと住んでいるんでしょう?」
「・・・・。」
アンジュは何故か視線を逸らして応えない。・・・やっぱり図星なのかな?
それに、私はこれから門を開けるという大罪を犯して公爵に裁かれてしまう未来が待っている。そんな姿をアンジュには見られたくは無かった。
「はい、それじゃこの話は終わり。じゃあまた魔界についてのお話聞かせてくれる?」
話題を変えると、アンジュはようやく調子を取り戻したのか、私に言った。
「うん、いいよ。昨日はジェシカから沢山話を聞いたから、今日はボクからお話してあげるね。」
そしてこの日もお昼の鐘がなるまで、私達は魔界についての話を沢山した―。
「ねえ、アンジュ。今日はね、サンドイッチを作って持ってきたの。今日は日差しが合って温かいから公園のベンチにでも座って一緒にお昼を食べない?」
私は持っていたバスケットを見せながらアンジュに言った。
「本当?!嬉しいな~。それじゃ、一緒に行こう!」
2人で手を繋いで王立図書館を出ると、背後から声をかけられた。
「「ジェシカ。」」
う・・・あの仲良くハモった声は・・・嫌な予感がする。
ゆっくり振り返ると、やはりそこに立っていたのはアラン王子とフリッツ王太子であった。2人とも防寒着のマントを羽織り、腕組みをしながら立っている。
「こ、これはこれはアラン王子とフリッツ王太子様・・・。ご機嫌用。アラン王子はまだこちらに滞在されていたのですね。」
愛想笑いを浮かべながら2人に挨拶をした。
「おい、ジェシカ・・・・お前はまた俺に会って最初に言う言葉がそれなのか・・?」
あ、アラン王子の目がまたウルウルしてきてる。いやだな~これじゃまるで私が虐めているみたいだ。心の中で溜息をつく。
そしてそんな私を楽しそうに見つめるフリッツ王太子。
「てっきり本日はお2人はいらっしゃらないかと思っておりましたが、お城にいらしたのですね。」
「ああ、いたとも。何故いないかと思ったのだ?」
フリッツ王太子が尋ねて来た。
「それは・・・昨日は図書館へ入る前に呼び出されたからです。」
「ああ、昨日ジェシカは俺達にどうでも良い話で自分を呼んだのかと言っていたよな?」
今度はアラン王子が話す。
「はい、確かに言いましたが・・・・。」
「だから、俺達はお前の用事が終わるのを待って声をかけたのだ。」
アラン王子は胸を逸らせるように言う。
あ~そうですか・・・。
すると今まで黙っていたアンジュが口を挟んできた。
「ねえ、ジェシカ。一体この人たちは誰なの?」
「何だ?お前は俺の事を知らないのか?」
フリッツ王太子はアンジュの顔をジロジロ見ながら言う。
ええ?!こんなに美少女のアンジュを平然とした顔つきをしている!
「それより・・・お前は誰だ?随分馴れ馴れしくジェシカと手を繋いでいるが・・・。」
アラン王子は面白くなさそうにアンジュに文句を言っている。
何故?何故彼等はこんな美少女を前にそんな台詞を言うのだろう?
しかし・・・いくらイケメンでも可憐な美少女にそのような態度は許せない。
「あの、アラン王子にフリッツ王太子様。私はこれからアンジュと2人でお昼を食べに行きますので、これで失礼致します。さ、行きましょう。アンジュ。」
私はアンジュの手をしっかり握りしめると、何か言いたげな二人の王子を残してその場をさっそうと立ち去った―。
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