第9章 7 衝撃的な手紙

 私達は温かい日差しの良く当たる公園のベンチに座ってサンドイッチを食べていた。


「ハルカ、このサンドイッチ美味しいねえ。」


アンジュは、ニコニコしながら食べている。その笑顔はまるで天使の様だ。

か・可愛すぎる・・・。私は思わずアンジュに見惚れてしまった。


「どうしたの?ハルカ。ボクの事じっと見つめて。」


「あ、ご・ごめんなさいっ!あ、あんまりアンジュが可愛かったから、つい・・。」

顔を赤らめて慌てて視線を逸らす。うん、やはりこの少女は本当に可愛い。


「そう?ありがと。」


にっこり微笑むアンジュ。ああ・・・こんな妹が欲しいな~。

私は話題を変える事にした。

「ねえ、アンジュ。貴女・・・今は何処に住んでるの?今日は教えてくれるよね?」


「ええと・・・。」


アンジュは中々言い出そうとしなかったが、私があまりにもじ~っと見つめるので観念したのかようやく口を割った。


「あのね、実はボク・・・。今・・住んでるところ・・無いんだ・・。だからあちこち色んな場所で野宿してるの。どうしてもいろんな国の図書館の本が読みたいから、皆の許可を貰って旅を続けている最中なんだよ。」


「えええ?!それ、本当なの?!」

何て事!こんな美少女が野宿をしているなんて!人攫いか、悪い男に掴まってしまったら大変だ!


「ねえ!アンジュッ!」

私はガシイッとアンジュの両肩を掴むと言った。

「駄目よ!貴女みたいなが野宿なんて!何かあったらどうするの?!

いいわ、私の家においで!」


「え?!でも、それじゃ家の人達に迷惑なんじゃ・・・。」


アンジュは驚いた様に言った。


「大丈夫、大丈夫。私がちゃんと家の人達には説明するから。それよりアンジュが心配でたまらないもの。」

そして私はそのままアンジュを連れて城へと連れて帰ってきてしまったのだった。




「まあ、アンジュって言うお名前なの?本当に可愛らしくて天使みたいね~。」


アンジュを見た母はその美少女ぶりにすっかり魅了されてしまった。


「駄目よ。貴女みたいな可愛らしい女の子はもっと素敵なドレスを着なくっちゃ。幸いジェシカが貴女位の時に着ていたドレスが沢山あるから、是非それを来て頂戴な。」


言うが早いか、母は私からアンジュを奪い取ると衣裳部屋へと行ってしまった。

私は母の態度に思わず呆然としていると、1人残された私の元へミアがやって来た。


「ジェシカお嬢様、お帰りをお待ちしておりました。」


「ミアッ!良かった・・・・。マリウスに私のお世話係を外されてしまったと聞いていたから・・・。」


「はい、ご迷惑をおかけしましたが、もう大丈夫です。再び私がジェシカお嬢様のお世話係になる事が決まりましたので。それよりジェシカお嬢様宛てにお手紙が何通も届いておりますのでお持ちしました。」


「え・・・?何通も・・・?」


「はい、ジェシカお嬢様は本当に人気がおありの方だったのですね。」


 ミアはニコニコ笑いながら手紙の束を渡すと去って行った。

アンジュもあの調子だと多分母から当分解放されないだろうから、ひとまず私は手紙を抱えて自室に戻る事にした。


デスクの前の椅子にすわり、手紙を眺める。取り合えず私にとって最優先すべき手紙から順に並べてみた。


エマ・リリス・シャーロット・クロエ・ダニエル・グレイ・ルーク・ライアン・ケビン・そして・・・生徒会長。


 う~ん・・全部で10通もある・・・。取り合えず女友達の手紙は全て目を通して返事を書きたいし、ダニエル先輩にはどうしてもノア先輩の事で何か記憶が無いか確認したい。グレイやルークはアラン王子の事で恐らく手紙を書いてきたのであろう。

 それにライアン、ケビンに至っては私の事を心配しながら国に帰ってしまったのだから返事は書いておかないと。

残りは生徒会長か・・・出来れば読みたくも無いし、返事を書く気も起きない。この手紙は余裕があった時だけ対処しよう。




 さて、ではまずは一番の親友エマの手紙から・・・。



ジェシカさんへ


お元気ですか?私は国に帰ってから婚約者と正式に婚約式を行いました。

毎日、彼と一緒にいられて幸せな日々を送っています。

それでもやはり思い出されるのはジェシカさんやシャーロットさん、リリスさん、クロエさんの事です。早く、皆さんにもお会いしたいです。

あ、すみません。婚約者が私を呼んでおりますので、もうペンを置かないと。

彼ったら少しでも私の姿が見えないと不安になってしまうんですって。

それでは新学期にまたお会いしましょうね。


                             エマ・フォスター



 ふふ・・・。手紙からエマと婚約者のラブラブぶりが良く分かる。これは新学期になったら詳しく話を・・・。そこまで考えて私の中に暗い影が落ちる。

そうだ、新学期になったら恐らく私は今迄のように平和に暮らしていく事は敵わなくなるだろう。

深いため息をつくと、私はリリスの手紙を手に取った。




ジェシカ・リッジウェイ様


 お元気にしてらっしゃいますか?私はとっても元気です。ジェシカさん、聞いて下さい。ビッグニュースがあるんです!私、ついに婚約したんです!お相手は同じ学院の方で、一度ジェシカさんもお会いしたことがある方なんですけど。お名前等は新学期にお会いした時に紹介させて頂きますね。恐らく在学中に結婚する事になりそうです。式には是非参加して下さいね。今から新学期が楽しみです。それではまた


                              リリス・モーガン




 えええっ?!リリスが婚約?そしてまさかの結婚宣言とは!まるでジェットコースター並みの急展開でびっくりだ。でも、余程嬉しいんだろうな。用件だけ簡潔に伝えてある手紙から彼女の様子が伺えた。新学期か・・・。ここでも私の心の中に暗い影が落ちるのを感じざるを得なかった。

 私は気を取り直して、今度はクロエの手紙を手に取った。




ジェシカ様


 毎日、いかがお過ごしですか?私は国へ帰ってからは毎日魔法の勉学にいそしんでおります。ジェシカ様。雪のパレードの日の事覚えてらっしゃいますか?

あの時は本当に痛快でしたわね。愚かな男共に正義の鉄槌を下した時のあの爽快感、思い出すだけで今も胸がスカッとしますわ。またあのような機会があれば是非私にまた声をかけて下さいね?その為にも魔力の腕を磨いておりますので。

それではまた新学期に。 

                             クロエ・ネルソン



・・・・。

私は固まってしまった。ま、まさかクロエにこのような過激な一面があったとは・・いや、あの雪のパレードの日をよく思い出してみよう。私の友人達はあの時、まるで全員人が変わったように男性陣達を攻撃していたでは無いか。しかも高笑いをしながら・・・。うん、彼女達は味方にしておくと心強いが敵にすると恐ろしいと言う事を良く覚えておかないと。

残りはシャーロットの手紙かな?私は手紙の封を切った。



ジェシカ・リッジウェイ様へ

               

 毎日寒い日が続きますが、いかがお過ごしですか?こう寒いと、外出するのも億劫になり、家に引きこもる日々が続いています。

 久しぶりの家の食事が美味しくてつい、食べ過ぎてしまい少しだけ体重が増えてしまいました。新学期私に会っても驚かないで下さいね。

あ、それよりもちょっとしたニュースがあります。聞いて下さいますか?

ナターシャ・ハミルトンを覚えていますか?

ほら、ジェシカさん達に嫌がらせをした事がバレて学院を去って行った・・・。

その彼女の事である噂を耳にしました。彼女、離婚されて実家へ戻ったらしいですよ。何でもその離婚された理由が強烈なんです。

どうやらナターシャさんは結婚相手との夜の生活を(これって中々恥ずかしい表現ですね)拒んでいたのに妊娠したらしいんですっ!

それで相手の方が不義を働いたナターシャさんに激怒して追い出したらしですよ。

今では親からも縁を切られて、教会にいるそうなんですが・・・。

一体、ナターシャさんのお相手の方って誰だったんでしょうね?

それでは来学期、またお会いしましょうね。


                            シャーロット・ベル 



「・・・・。」

気が付くと私は手紙を落していた。

ナターシャが妊娠?しかもそのお腹の子供の父親は結婚相手では無かった?

となると、もう相手は1人しかいない。

「ノア先輩だ・・・。」

先輩はナターシャから真実を聞きだす為にわざと彼女に近付き、誘惑して身体の関係を持った。

その事はノア先輩の口から、ナターシャを抱いたと私ははっきり聞いているのだ。


そんな、まさか・・・。

私はいつしか震えていた―。





       


 













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