※第8章 5 夢の世界で私の記憶が戻る時(大人向け内容有り)

「え?ずっと私を待っていた・・・?」

私は目の前の老女をじっと見つめた。


「ああ、そうだよ。それにしても随分待たされた気がするねえ。ずーっとここであんたが来るのを待っていたから、お陰で私もこんなに年を取ってしまったよ。」


老女は笑いながら言う。


「お、おい!言ってる意味が全く分からないぞ?説明してくれっ!」


アラン王子は早口で言った。


「説明も何も・・・。今話した通りの事なんですけどねえ・・・。」


相変わらず老女は意味深な事を言う。


「「「「・・・・?」」」」

私達は全く意味が分からず、只戸惑うばかりだった。


「さて、私が用があるのはこのお嬢さんだけだから、殿方達は出て行ってくれるかな?」


「「「え?」」」


そして彼等は有無を言わさず外へと追い出されてしまったのである。


 2人きりになると老女は言った。


「まあ、取り合えずはこの椅子に座ってよ。」


うん?何だか急に老女の口調が変わった気がする。気のせいだろうか?

私は勧められた椅子に座ると言った。


「さてと。今日私の所へ来たのは、貴女が無くした記憶を取り戻したいからここにやってきたんでしょう?まあ、最も皆何処からかその噂を聞きつけてやってくるのだけどね。それで私の所へ来た人たちにはこの店の事を色々な人達に教えて上げてと頼んでるわけよ。いわゆる口コミってヤツかな?」


「はあ・・・。」

何だろう?この話し方のギャップ感は半端では無い。おまけに口コミ?なんでそんな単語を知っているのだろう・・・?


「私の事・・・怪しい年寄り女だと思っているでしょう・・・?」


突然私の事を見透かしたかのように老女は言った。


「い、いえ!そんな、とんでもないです!」

私は慌てて手を振ったが、老女はそれを意に介さず話を続けた。


「本当なら私の過去見はすごくお金を取るんだけどね・・・・貴女の場合は特別無料にしてあげる。だって、こんなに年を取る程長い事待っていた自分の運命がようやく動き出すんだから・・・。本当にこの日が来るのをどれくらい待ち望んでいたことか・・。」


「え・・・?それは一体どういう意味ですか・・・?」

何故だろう?この老女と話をしていると心がざわついて落ち着かない。老女の話している言葉の意味が私には少しも理解出来なかった。


「あ、あの・・・。」

私は緊張しながら声をかけると、老女は言った。


「ああ、ごめんなさい。あまりに興奮してしまって、つい今は全く関係ない話をしてしまって。さて、貴女の無くした記憶についてだけど・・・。ほら、今自分の両耳にピアスが付いているだろう?」


「は、はい。」

私は右耳のピアスに指で触れた。


「ちょっとそのピアスを貸してくれる?」


老女が掌を出したので、私は両耳のピアスを外して彼女の掌に乗せた。

すると老女は何事か呪文のようなものを唱えると、ピアスを返してきた


「よし、これで大丈夫。このピアスをして眠れば今夜夢の中で忘れていた記憶を取り戻せるはずだよ。本当ならその場で記憶を引き出すトリガーがあれば、催眠暗示で過去に遡らせる事が出来るのだけどね・・・貴女の場合はかなり深層部まで潜らないと記憶を呼び戻せないから・・。」


「あ、ありがとうございますっ!」

私は頭を下げて、帰ろうと背を向けた時。


「どういたしまして。むしろ感謝しているのはこっちの方だから。それじゃあね。

川島遥さん。また運命が合えば元の世界で会えるかもね?」


「え?!」

その余りにも衝撃的な言葉に振り返ると、そこにいたのは老女では無く、黒髪セミロングの見覚えのない若い女性が座っていた。


「!」

慌てて目を擦ると、突然周りの景色がグニャリと歪み・・・最後に女性の声が脳内に響いた。


<今度は私の事を忘れる番だよ・・・・・。>




 目を開けると私はベッドの中にいた。

「あれ?私、いつの間にか・・・・眠っていたんだ。」

確か、公爵がまだ具合の悪そうな私を心配してベッドまで運んでくれて・・・。

そこまで考えていた時、ノックの音がした。


「ジェシカ、俺達だ。起きているか?」


公爵の声が聞こえたので私は返事をした。

「はい、大丈夫です。中へどうぞ。」

ドアがカチャリと開けられ、3人が部屋の中へ入って来た。


「ああ、良かった。ジェシカ・・・すっかり顔色が良くなっているな。」


真っ先に駆け寄ってきて私の手を取ったのはアラン王子だった。


「アラン王子、勝手に私のお嬢様の手を握るのは止めて頂けますか?」


当然の如く?アラン王子の手をはたき落すマリウス。


「マリウスッ!お前は・・・!!」


文句をいいかけたアラン王子を止めたのは公爵だった。


「2人とも、病み上がりの病人の前で騒ぐのは止めて貰おうか?」


「「・・・。」」


それを聞いて大人しくなる2人。おおっ!やはりこの中では公爵が一番大人だ。3人とも同じ18歳だと言うのに・・・。

「あの、公爵様。もう体調は良くなったので今日は自分の家に帰ろうかと思います。マリウス、私を城まで連れ帰ってくれる?」

私がマリウスの方を見ると、パアアアッとマリウスは頬を赤く染めた。


「はい!勿論でございます!お嬢様。体調がよろしければ半月ほど私と2人きりで旅をした後、リッジウェイ家に戻りませんか?」


ピシッ!その場の雰囲気が凍り付く。


「マリウス・・・貴様・・・!ジェシカと2人きりで旅をするだと?お前のような危険人物にジェシカは任せられん。俺が連れて帰る!ジェシカ、俺の城へ来い!」


はあ?一体何故アラン王子の国へ行かなくてはならない訳?!

駄目だ、この2人には自分の身を任せられない。


「ド、ドミニク様・・・。」

私は縋るような眼つきで公爵を見ると、彼は頷いた。


「ああ、分かった。ジェシカ、俺がお前を城まで送ってやる。」

そして私を抱きかかえると、アラン王子とマリウスが文句を言うのを無視して、移動魔法を使い、一瞬で私はリッジウェイ家の門の前に公爵と2人で立っていた。


「ジェシカ、まだ体調が良く無いのだから今夜はしっかり休むんだぞ?」


「はい、色々ありがとうございました。」

お礼を言うと、公爵は笑みを浮かべて再び移動魔法で私の前から姿を消した。

「ふう・・・。」

私は溜息をつくと、重い足取りで城の中へと入って行った・・・・。



 その日の夜は自室で軽い食事を取り、早々に私はベッドの中へと入った。

何だか身体がだるくて仕方が無かったからだ。

頭を枕に付けた途端、今までに感じた事の無い急激な眠気に襲われて、私は一気に夢の世界へと落ちて行った―。




 ベッドの中で目を開けると、そこには月明かりに照らされて私を愛おし気に見るノア先輩の姿がある。

あれ・・・?私今一瞬記憶が飛んでた気がする・・・。

私がぼんやりとノア先輩を見つめると、ベッドの中で先輩は私をしっかり抱きしめ、髪を撫でながら耳元で囁いた。


「ありがとう、ジェシカ。最後に・・・僕のお願いを聞いてくれて・・。」


最期・・・その言葉に再び胸が締め付けられる。


「最後なんて・・そんな言い方しないで下さいっ!わ、私は・・・絶対にノア先輩を諦めません。例え、目が覚めて先輩の事を忘れても・・必ず先輩の事を思い出して、そして魔界まで助けに行きますから!」


私はノア先輩の背中に腕を回した。

いやだ、私の命を助ける為にノア先輩が犠牲になってしまうなんて。

誰かを犠牲にしてまで自分が助かりたいとは思わない。

だから、私は言った。


「先輩、どうか私に・・・マーキングをして下さい・・・っ!」


「ええ?!そんな事をしたら君はマリウスやアラン王子に何を言われるか分からないよ?!」


ノア先輩は私の瞳を覗き込んで言った。


「だからこそです・・・。アラン王子やマリウスに問い詰められれば、きっと私も彼等も原因究明の為に行動するはずです・・・。それに、私にノア先輩のマーキングがついていれば、いざ魔界へ先輩を探しに行った時に私を見つけ出す事が出来ますよね?!だから・・・。」

最期の方は泣きそうになって言葉にならなかった。


ノア先輩はフッと笑うと言った。


「分かったよ・・・。ジェシカ・・・僕のマーキングを受けてくれる?」


私は黙って頷くとノア先輩は言った。


「愛しているよ・・・ジェシカ。」


ノア先輩の美しい顔が近付いてくる。私は目を閉じて、先輩の口付けを受け・・ノア先輩は再び私を抱いた—。


 私は強く心に誓った。絶対にノア先輩を助け出すのだと・・・。











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