第5章 10 一種即発
その後・・・・私の訴えとグレイの進言が功を成したのか、ジェイソンは極刑を免れ、刑がぐっと軽くなり3年間の懲役刑と決まった。
私がその事を知らされたのは里帰りをする当日の朝、駅まで見送りに来てくれたレオとウィルからだった。
「ジェシカ、色々ありがとうな。お前のお陰でジェイソンは極刑を免れたよ。なのにあいつ、ちっともお前に感謝していないんだぜ。」
ウィルが面白くなさそうにしている。
「別に感謝して貰うために刑を軽くして貰ったわけじゃ無いからそんな事いいよ。」
私は苦笑しながら言った。
「でもなあ・・・幾ら何でも3年の懲役刑なんて軽すぎるぜ。何て言ったってあいつはジェシカを一度死なせたんだぞ?」
レオが言うと、マリウスもそれに賛同した。
「ええ、全くあの男は外見もさることがながら、性格も怖ろしく醜く歪んだ男です。あのような男は社会に出ても迷惑をかけるだけの存在です。本来であれば極刑の罰を与るべきだったのに・・・お嬢様の温情で刑を免れるとは。あのような男は流刑島へ送って一生島から出られぬように閉じ込めておくべき悪しき存在だと私は思います。全く、何て忌々しい・・・。」
マリウスはペラペラと恐ろしい事を一気に喋り、私とレオ、ウィルは思わず背筋が寒くなった。
余程、ジェイソンよりもマリウスの方が恐ろしい・・・。この男こそ、切れると何をしでかすか分かったものでは無い。それをアラン王子達は気付いているのだろうか?
「おい、ジェシカ・・・やっぱりお前の下僕って恐ろしい男だな。俺・・・こんな男相手に喧嘩売ろうとしてたのか・・・。脅迫状出さなくて本当に良かったよ。」
ウィルが私の耳元でボソリと呟いた。うんうん、私も本当にそう思うよっ!
そこへアラン王子がグレイとルークを引き連れてやってきた。
「ジェシカ、これから国へ帰るのだろう?」
アラン王子はマリウス達には目もくれず、真っすぐに私に向かって歩いてくると手を取った。アラン王子の背後には荷物を持たされたグレイにルーク、そして一緒にやってきた5人の騎士達もいる。・・・結局あの騎士達が話をしている姿は見たことが無かったなあ・・・。
「は、はい。今から国へ帰ります。」
するとアラン王子はとんでもない事を言って来た。
「ジェシカ、マリウスと2人きりで旅をするのはあまりに危険過ぎる。どうだ?この俺を一緒にお前の国へ連れて行く気は無いか?俺がお前をマリウスの魔の手から守ってやるぞ?それに、ジェシカの両親にも挨拶をしたいしな。」
はあっ?!いきなり何を言い出すの?アラン王子は・・っ!しかし私が声を発する前に反応したのはマリウスだった。
マリウスはアラン王子から引き剥がすように私を奪うと、自分の背後に隠しながら言った。
「アラン王子、朝から何を寝ぼけた事を仰っているのですか?どうやら睡眠不足と見受けられます。その分ですとまだ頭が起きていられないご様子ですね。悪い事は申しません。今からまたお泊りのホテルへ戻られて休まれてはいかがでしょうか?その間に私はお嬢様を連れて国へ戻りますので。」
マリウスは顔色一つ変えずに、一気に喋った。
それを聞かされたアラン王子は見る見るうちに怒りで顔を真っ赤にし、全身を震わせている。グレイやルークだけでなく、その場に居た全員が凍り付いた。
うっわっ!マリウス・・・相手は王子様だよ?しかも大国の、いずれは国王になられるお方なんだよ?それを分かっていて、そんな口を聞くわけ?!そこまで言えば侮辱罪で訴えられるんじゃないの?!
「マ、マリウス・・・貴様・・・ッ!よくも、この俺をそこまで馬鹿にしたな・・・?!」
アラン王子が右手を宙に向けると、そこからバチバチと光る弾が出現した。
え?え?ちょっと待ってよっ!今ここで魔法弾を使うつもりなの?冗談じゃないっ!
マリウスに謝らせようと思い、私はマリウスを振り返ると、そこで私は再び驚く事になる。な・何でマリウスも魔法弾を出現させているわけ?!
グレイやルーク、騎士達もどうしようもできないのかオロオロしているばかりだ。
「面白い・・・覚悟は出来てるか、マリウス?」
「ええ。その台詞、そっくりそのまま貴方にお返しいたしますよ、アラン王子。」
駅には大勢の人々が鉄道に乗る為に来ていた。まずい・・・、こんな人混みの中でそんな危険な魔法弾を使うなんて・・・っ!
私はアラン王子の前に飛び出してマリウスの方を見ると言った。
「やめて!マリウスッ」
「お、お嬢様・・・?何故止めるのですか?最初に魔法弾を出現させたのはアラン王子ではありませんかっ!」
「だけどっ!それはマリウスがあまりにアラン王子に対して失礼な事を言ったからでしょう?あんな言い方をされれば誰だって・・・っ!」
「ジェシカ・・・お前、自ら俺の前に身体を投げ出してマリウスを止めようとしているのか?魔法も使えないか弱いお前が・・・。」
私はチラリとアラン王子を振り返ると、何やら酷く感動している様子のアラン王子がそこにいた。
いいえっ!そんなではありません。ただ私はこんな場所で争いごとをして、騒ぎを起こしたくなかっただけです!
「え、ええ・・・。まあ、そんな所です。」
私は曖昧に答えるとアラン王子に向き直った。
「アラン王子、マリウスに変わりまして私が代わりに謝罪致します。どうかお許しください。そして、先程のアラン王子の提案ですが・・。申し訳ございませんが今回はお断りさせて下さい。」
私は頭を下げた。
それを聞いたマリウスがフフッと小さく笑ったのを私は聞き漏らさなかった。
一方のアラン王子は相当ショックを受けている様子で、しつこく食い下がって来る。
「何故だ?!俺はどうしてもお前の国へ一緒に行き、是非ジェシカのご両親に挨拶をさせて貰いたいのだ!頼む!この通りだっ!」
言うとアラン王子は何と私に頭を下げて来た!
すると・・・
「おいっ!それはどういう意味だよ?!だったら俺だってジェシカに付いて行くぞ!」
ウィルが大声で喚きだした。
「ボス、抜け駆けはいけませんぜ。なら俺だって行きますよ。」
レオまでおかしなことを言い始めた。
「アラン王子、当然俺達も付いて行きますよ!」
グレイが言うと、ルークは黙って頷いている。そして、そんな彼等をオロオロしながら見守っている5人の騎士達・・・。
もう辺りは凄い事になっている。
「ああ、もう煩くて溜まりませんね。こうなったら致しかたありません。」
マリウスは私達の荷物すべてを自分の足元に引き寄せ、さらにグイッと私の肩を掴み抱き寄せると言った。
「それでは、皆さま。ご機嫌よう。来年また学院でお会い致しましょう。」
「え?何をするつもりなの?マリウス。」
そしてマリウスは口の中で何やら聞いたことも無い呪文を唱え始め・・・。
それに気づいたアラン王子が焦った様子で叫んだ。
「ま、待てっ!マリウスッ!」
しかし、次の瞬間—
呪文が完成したのか、私はマリウスに抱きかかえられたままアラン王子達の姿が一瞬で消えるのを見た。
次に私が目にした光景は今迄一度も見たことが無い場所だった。
広大な土地にはのどかな田園風景が広がっている。そして遠くの方に巨大な城が建っているのが見えた。あれはまさか・・・?
「ねえ、マリウス。あの城はもしかして・・・。」
マリウスを振り返ると、驚いた。何と、あのマリウスが地面に倒れて荒い息を吐いていたのだ。しかも顔色は真っ青でまるで死人の様だった。
「どうしたの?マリウスッ!ねえ、マリウスッ!しっかりしてっ!」
私は必死で揺さぶったが、マリウスが返事をする事は無かった—。
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