第5章 9 それぞれのお見舞い ④
え?
な、な、何を・・・っ!
私は驚きのあまり固まっていると、アラン王子は何を勘違いしたのか、よりディープなキスをしかけて・・・そこでようやく我に返った私は強くアラン王子を押しのけると言った。
「い、いきなり・・・な、何するんですかーっ!!」
私は手の甲で口元を押さえながら叫んだ。
「え?もしかすると・・・嫌・・だったのか?」
一方のアラン王子は訳がわからないという感じでキョトンとしている。
「い、嫌も何も・・・い、いいですか?アラン王子。例え王子様でも、い、いきなりキスするなんて、しかもあんな・・・っ!こ、これは立派なセクハラですよっ?!」
「セクハラ・・・?一体それはどういう意味だ?初めて聞く言葉だが。」
アラン王子は首を傾げている。そうだった・・・。この世界にはセクハラという言葉は存在していなかった!
「セ、セクハラと言うのは・・・あ、相手の同意なしに身体的に過剰な接触を強引に行う事を意味して・・・。い、いわゆる犯罪行為です。」
「は、犯罪だって?!それはあまりの言い方じゃないか?!」
犯罪と言われてアラン王子は驚いているようなショックを受けているような複雑な表情で私を見た。
「大体、俺とお前はもう今迄とは違う。お互いに深い関係になった仲だろう?だから・・・。」
アラン王子の言葉を制するように私は言った。
「そ、それとこれとは話が別ですっ!私とアラン王子は別に恋人同士では無いのですから・・・あんな突然のキスはもう止めて下さいっ!いいですね?」
私は顔を真っ赤にさせて言うと、今度こそアラン王子は悲しみの表情を浮かべた。
「こ、恋人同士では無い・・・?は、はは・・。そ、そうか。俺達は恋人同士では無いと・・。」
ガクッと首を垂れるアラン王子。その落ち込み具合があまりにも激しいので、何だか私が酷く傷つけてしまったようで罪悪感が湧いてくる。
でも確かにアラン王子が勘違いしてしまうのも無理は無いだろう。普通に考えれば相手に対して特別な感情を持たない限り、あ・あんな行為は・・・・。
けれども全くと言っていいほど、サロンでお酒を飲んだ後の記憶がすっぽり抜けている私には、未だにアラン王子と関係を結んだのかどうかが信じられないでいる。
「あの~アラン王子・・・?」
恐る恐る声をかけるが、アラン王子は無反応だ。駄目だ・・・完全に落ち込んでいる。この調子だと、とてもじゃないがアラン王子にジェイソンの刑を軽くして欲しいなんてお願い出来そうな雰囲気ではない。
もうこうなったら謝って機嫌を直して貰うしかないかな・・・?
「アラン王子、すみませんでした。先程は・・・言い過ぎました。あ、余りに突然だったので驚いてしまったので、ついあんな言い方をしてしまったんです。どうか・・機嫌を直して頂けませんか?」
私はそっとアラン王子に触れると言った。するとアラン王子は顔を上げて私を見た。
「本当に・・・驚いただけ・・・なのか?それでついお前は俺と恋人同士では無いと言ってしまっただけなんだな?」
うん?そこまでは言ってるつもりないんだけど?
「え?あの別に私はそこまで話してるわけでは・・・。」
どうも話がかみ合っていないような気がしてきた。
「そうか、俺とのキスがそれ程恥ずかしかったと言う訳か?よしよし、ジェシカは本当に・・・可愛いな。」
言いながらギュッとアラン王子は私を自分の胸に抱きしめると、髪に顔を埋めてきた。
「!」
その時、一瞬私は断片的にアラン王子との記憶が蘇った。そうだ・・・やっぱり私はあの日の夜、アラン王子と・・!
途端に顔が思わず真っ赤に染まり、早まる心臓の鼓動。ま、まずい・・・。私の心臓は傷ついたばかり。れ、冷静にならなければ・・。
でも今なら私のお願いを聞いてくれるかもしれない。
「あ、あの。私アラン王子にお願いがあるのですが・・・。」
「なんだ?ジェシカの願い事なら何だって聞いてやるぞ?」
「ほ、本当ですか?」
アラン王子の胸に抱きしめられているので、私はくぐもった声で尋ねた。
「ああ、勿論だ。」
「では・・アラン王子。お願いですからジェイソンの罪を軽くして下さいっ!たった今私の願い事なら何でも聞くとおっしゃいましたよね?」
「あ、ああ・・・。確かに言ったが・・・。ジェイソン・・?まさかジェシカを撃った男か?!あいつを助けろと言うのか?」
アラン王子は私を抱きしめたまま離さない。いい加減離してくれないかなあ・・・。
と、その時・・・。
「何をしておられるのですか?アラン王子。お嬢様は病み上がりなのですよ?そのような方に手を出すとは中々良い度胸の方ですねえ?」
見上げると、怒気を含んだマリウスがアラン王子の真後ろに立っていた。
「何だ、マリウス。今は俺とジェシカとの面会時間だ。お前の番では無いだろう?」
アラン王子は私の身体を放すと言った。
「いいえ、今私がこのお部屋に伺ったのはお嬢様の下僕として、ジェシカお嬢様に不埒な事をする輩がいないか確認をしに来た次第ですが?」
「ほう・・・。俺を不埒な輩と言うのか・・・?」
激しく私の病室で火花を散らす2人。あの~喧嘩なら他所でやって欲しいのですが・・。
「あ、あの。2人とも落ち着いて。ここは病室なので・・・。」
恐る恐る声をかけるとアラン王子は言った。
「ああ、確かにここは病室だ。」
「ええ、病室ですね。」
「俺は以前からマリウスとじっくり話をしたいと思っていた。」
「偶然ですね、私もアラン王子とお話しをしたいと思っておりました。」
「それでは外に行くか?」
「ええ。勿論喜んで。」
そして2人が出て行こうとする直前に・・・私はアラン王子に言った。
「アラン王子!約束、ちゃんと守って下さいね?!」
「あ?ああ・・・分かった。」
アラン王子は不思議そうな顔をしながらも返事をしてくれた。やったっ!どさくさに紛れてジェイソンの罪を軽くしてもらう事を約束させたっ!これでもう安心して国元へ帰る事が出来る。
そう思っていた矢先に・・・ダニエル先輩がやってきた。
「ジェシカ、もうすっかり顔色が良くなったみたいで安心したよ。」
ダニエル先輩は私を見ると笑顔で言った。
「はい、お陰様で。これも全て皆様のお陰です。特にダニエル先輩は解毒薬を作るために魔界へ続く門まで行って下さったそうですね。本当に有難うございます。」
「いや・・・僕は何もしてない。たまたまこの日門番をしていた聖騎士が魔界の門をくぐる事が出来る人物で七色の花を摘んで来てくれたお陰だよ。本当に・・・運が良かっただけなんだ・・。」
どうもダニエル先輩の歯切れが悪い。一体どうしたというのだろう・?
「ダニエル先輩、何だか元気が無いように見えますが・・・どうかされましたか?」
「い、いや。そんな事はないよ。ただ・・・。」
「ただ?」
「あの日以来、何だか胸の中で何かが欠けてしまったかのような感覚を感じているんだ・・。自分でもよく分からないけどね。」
ダニエル先輩は躊躇いがちに言った。そう言えば・・・私にも似たような感覚を目覚めた時から感じていた。
「ダニエル先輩もですか?実は私もなんです。何だか忘れてはいけない大切な事を忘れてしまったような、無くしてしまったような変な感覚を感じるんです。そして、そういう気持ちを持つたびに・・胸が苦しくなるような・・。あ、これは弓矢で刺された後遺症って訳では無いですからね?」
「そうなんだ。ジェシカも僕と同じような気持ちを抱いていたんだね・・・。でもその内思い出せる日が来るかもしれないよ。仮にどちらかがその何かを思い出せたときには、教え合おう。約束だよ?」
「はい、約束ですね。」
そして私とダニエル先輩は互いに指切りをした―。
「それで、結局アラン王子はジェイソンの事、どうしたの?」
夕方—
私の言った言葉通り、グレイが面会に訪れた。
「ジェイソン?ああ、ジェシカを撃った奴か?う~ん・・どうなったんだろう?随分機嫌悪くして帰ってきたから話を聞く事が出来なかったんだよな・・。一体何があったんだろう?」
う・・・きっとそれはマリウスとあの後口論したせいかもしれない。
「ねえ。グレイ達はいつまた国へ帰るの?」
何とかアラン王子が国へ帰る前にジェイソンの罪を軽くしてもらい、出来れば牢獄から出して欲しい。
「そう言えば、アラン王子からは何も聞いていなかったなあ・・・。一体いつ国へ帰るつもりなんだろう?まあ、いつかは帰るだろう。」
なんとアバウトな・・・。グレイも呑気な物だ。
「ねえ、グレイはそれでいいの?早く国へ帰りたいとかは思わないの?」
「う~ん、でも一応里帰りは済ませたし・・。それにひょっとすると今回も移動魔法で戻るなんて言われた日には、たまったものじゃ無い。ジェシカはまだしばらくはここに残るんだろう?だったら別に俺は帰る日にちを早めなくてもいいと思ってるんだけどなあ?」
「え?私は3日後には帰るけど?だから、グレイからもジェイソンの件でアラン王子にお願いしてくれる?どうも私からお願いすると、アラン王子に何か条件付けられそうなんだよね・・・。」
すると、それを聞いたグレイが素早く反応した。
「な・・・何だって?!よ、よしっ!それなら俺から何とかアラン王子に進言してみせるっ!これ以上ジェシカをアラン王子の毒牙にかける訳にはいかないからなっ!」
グレイ・・・仮にも雇い主である王子にあのような口を聞くとは・・・。
でも、頑張ってね、グレイ。陰ながら応援してるからね?!
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