第5章 7 それぞれのお見舞い ②
「・・・。」
レオは何故か部屋の入り口付近に立ったまま私を見つめている。
「座らないの?」
見かねた私が声をかけると、ようやくレオは我に返ったように私を見た。
「あ、ああ。それじゃ・・・。」
レオは先程ウィルが座っていた椅子に座ると言った。
「本当に・・・悪かったな。ジェシカ。俺をかばって矢に撃たれて・・・。俺はお前を疑っていたのに。」
レオの表情は暗い。
「もしかしたらずっとその事を気にしていたの?」
「あ、当たり前だろう?そのせいでお前は一度死んだんだぞ?お前が俺の目の前で矢に撃たれて・・・大量に、吐血した時は・・・もう・・・だ、駄目かと・・。」
レオは俯くと続けた。
「俺たちが魔界から解毒薬の花を手に入れ、魔法薬に詳しい薬師に解毒薬を調合して貰ってこの病院に戻ってきた時には、お前の心臓が既に止まっていて・・・!」
その時の事を思い出したのか、レオの身体が震えている。
私が元の世界に戻っていた時にそんな事が合ったとは・・・。
「もう、あの時は駄目かと思った・・・。」
レオは鼻声で言う。ひょっとして泣いているのだろうか・・・?
「レオ?」
名前を呼ぶとレオは顔を上げた。レオの顔は涙で濡れていた。
レオはそっと私の右手を両手で包むと言った。
「ジェシカ、俺は約束する。この先、お前に危機が迫った時には俺の命を懸けてお前を守る。お前の盾になる事を誓う。」
私はクスリと笑うと言った。
「まるで騎士の誓いみたいだね?」
「ああ、偽物の騎士かもしれないけどな?」
ようやくレオは笑った。
「だったら・・・もしも、いつか私が何処かに囚われた時は・・・その時は助けに来てくれる?」
そう・・・夢の中のあの時のように実際に牢獄に囚われてしまった時は・・・。
「ジェシカ?」
私の真剣な様子にレオは首を傾げたが、言った。
「ああ、俺はたとえお前がどんなに高い塔に囚われようが、強固な見張りがいる場所だろうが、必ず自分の命に代えてもお前を助けに行くと誓う。」
レオがそう言ってくれれば、本当に約束を守ってくれそうな気がする。
「ありがとう、レオ・・・。」
「だから、そんな不安そうな顔はするな?俺も、ボスも、仲間も皆ジェシカの味方だから。」
レオの話を聞いて私はジェイソンを思いだした。
「ところでジェイソンはどうしたの?」
レオを狙ったとは言え、最終的にマリウス達の目の前で矢は私を撃たれたのだ。
相当酷い目に遭ったに違いない。
「ああ、あいつはお前の仲間達が縛りあげて、今はこの町の牢獄に入れられているよ。え〜と・・・アラン王子だっけ?が物凄く激怒していたから、あいつ・・・ひょっとして極刑になるかもな。」
レオは恐ろしい事を言った。
「き、極刑って・・・ま、まさか死刑になるって事?」
「ああ、そうだ。当然だろう?あいつはお前を一度殺した。死刑になって当然だろう?」
「な、何でそんな事平気で言えるの?仲間でしょう?!」
私が必死になって言うと、レオは不思議そうな顔をした。
「仲間?冗談じゃない。俺はあいつを仲間と思った事は今迄一度も無いぞ。まして・・・ジェシカを傷つけたような奴は・・・。」
「そ、そんな・・・。」
淡々と語るレオに私は信じられない気持で聞いていた。
「で、でも駄目だよっ!私はこの通り無事だったんだから。どうか酷い刑だけは与えないように言ってっ!」
「ジェシカ?何であんな奴の為に必死になるんだよ?」
「だ、だって・・い、嫌なのよ。私のせいで誰かが死ぬなんて事は・・・。」
私は下を向いた。仮に毒矢に刺さったのがレオだったら?きっとジェイソンは死刑に等ならないだろう。元々ジェイソンは私を狙った訳では無い。レオを狙ったのだ。
けれど私がレオを庇った為に、矢に撃たれ・・・そのせいで死刑になってしまうのだとしたら、ジェイソンは最後まで貴族を嫌って、恨んだまま死ぬことになってしまう。
「だけどな・・・俺がアラン王子に話したところで、ジェイソンの死刑が免れるはずが無い。むしろ、ジェシカの口から頼んだ方が効果があると思うけどな?」
「レオ・・・・。」
言われてみれば、それが一番なのかもしれない。撃たれた本人がジェイソンを極刑にだけはしないで欲しいと頼むのが一番効果があるはずだ。
「分かった・・。私からアラン王子に直接頼む事にするわ。」
そこまで話した時だ。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
私が返事をすると、遠慮がちに外から声がかけられた。
「ジェシカ、次の面会は俺の番なんだが・・・。大丈夫か?」
それはルークの声だった。一体今日は何人面会があるのだろう?
「次の面会の男が来たようだな・・・。それじゃ、ジェシカ。早く傷を治してくれよ。お前が里帰りする時は見送りさせてくれよな。」
そうか・・・里帰りの事・・・忘れていた・・・。
「うん。その時は連絡するね。」
「ああ、それじゃあまたな。」
レオは笑顔で部屋を出て行き・・・それと入れ替わるようにルークが顔を覗かせた。
「ジェシカ・・・本当に具合は平気か?もし辛いなら言ってくれ。そしたら俺は今すぐ帰るから。元々ジェシカの顔だけ見たら、帰ろうかと思っていたんだ。」
部屋に入るや否やルークが言った。本当に相変わらず生真面目だなあ・・・。
そこで私は言った。
「大丈夫だよ、身体が辛くなったらその時は言うから。今のところ、具合はそれ程悪くないから平気。」
「そうか・・・なら、いいけど・・・。」
あ、ひょっとしたらルークならジェイソンの事、何か分かるかもしれない。
「ねえ、ルーク。ジェイソンはどうしているの?」
「ジェイソン・・・?」
ルークは眉を潜める。あ、もしかして私を弓矢で撃った相手の名前知らないのかな?
「ジェイソンって言うのは私を弓矢で撃った・・・。」
そこまで言うと、途端にルークの顔が憎悪で歪む。
「ああ、あの男か?あいつならこの町の地下牢に入れられている。まあ、ジェシカを一度は殺したんだ。おまけに反省の色がちっとも見られなかった。地下牢に入れられながらも、貴族など全て滅んでしまえばいい等と物騒な事を言って騒いでいるし・・
恐らくは極刑になるんじゃないか?それよりも俺はジェシカに聞きたい事が・・?」
「駄目・・・・だよ。」
私は小刻みに震えながら言った。
「駄目って何がだ?」
ルークが私を覗き込んでくる。私は顔を上げると、驚くほどルークは至近距離にいた。そして私の顔を不思議そうに見つめている。
「お願い、ルーク。ジェイソンを極刑にするのだけはやめて。ひょっとして極刑にする理由は私を撃ったからでしょう?でもジェイソンは私を狙った訳じゃないんだから、どうか見逃してあげてよ。」
私は先程レオに言った言葉をそのまま繰り返した。
「何でだよ。ジェシカ。例えあの男が狙った相手はジェシカじゃ無かったとしても、実際弓矢で撃たれたのはジェシカなんだぞ?庶民が貴族を狙ったと言うのがどれほど一大事件なのか分かっているのか?ましてや、お前は公爵家と高位貴族の爵位を持つ人間なのに・・・。」
ルークの言葉に私は驚いた。まさか・・・身分の低い庶民が貴族の命を狙ったというだけで、これ程重い罪に問われてしまう事になるとは・・・。
「どうした、ジェシカ?顔色が悪いぞ?やはりまだ体調が良くないんだろう?俺はこの辺で行くよ・・・。」
立ち上ったルークの袖を私は思わず下を向いて
掴んでいた。
「ジェ、ジェシカ・・・?」
ルークの戸惑った声が聞こえた。
「お願い、ルーク。ルークからもアラン王子に頼んでくれる?どうかジェイソンを極刑にするのはやめて欲しいって。」
私の言葉にルークは目を見開いた。
「お、おい。ジェシカ・・・本気で言ってるのか?大体この世界では庶民は貴族に絶対逆らってはいけない法律があるのをお前は知らないのか?」
え・・・?そんな法律私は知らない。私は小説の中で魔法を扱えるのは貴族だけで、庶民は魔法を使う事が出来ないという設定にはしたが、ここまで酷い身分制度など書いた覚えはない。
その時、私は一度元の世界へ戻った時に自分のパソコンに残されていた「another」というフォルダの事を思い出した。
やはり・・・私の知らない所で物語の世界が歪められている―?
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