第5章 6 それぞれのお見舞い ①

「でも、お嬢様。何故別の世界の<日本>と呼ばれる世界から突然ジェシカお嬢様の姿になって貴女はこの世界に現れたのでしょうね?」


 マリウスは不思議そうに首を傾げている。それは私が一番知りたい事だ。一体何故?どうやらマリウスの話ではジェシカは既に死んでいると思われる。その身代わりとして私が何らかの力でこの世界に引き寄せられたのだろうか?でも何のために?そもそも誰かが絡んでいるのかすら分からない。分からないけれど・・・はっきりしている事は、私が以前見た夢が正夢ならばジェシカは遅かれ早かれ悪女として裁かれる・・と言う事だけ。

 そう考えると、私にとってこの世界に戻って来てしまったのは不幸な出来事だ。

またいつの日か日本に帰れる日が来るのだろうか・・帰れる・・・?

私は元の世界に帰りたいと思っているのだろうか?あの時・・雑居ビルで激しい頭痛が起きた時、何故かこの世界に帰らなくてはと強く思った。でも何故私はあの場所に行ったのだろう?

赤城さんと待ち合わせしたのは駅前の花屋さんだったはず・・・?

そこでまた私は妙な違和感を抱いた。・・何かがおかしい。私は大切な事を忘れてる気がしてならなかった。


「お嬢様、大丈夫でしょうか?先程から様子がおかしいように見受けられます。やはり怪我のせいで体調がまだよろしくないのですね?今日はもう他の方々の面会は無しに・・・。」

 

マリウスがそこまで言いかけた時に、病室のドアがノックされた。


「おい、マリウス。ジェシカは起きてるか?今度は俺がジェシカに面会する番だぞ?」


あ・・・あの声はウィルだ。


「やれやれ・・・。全く図々しい少年ですね。お嬢様を拉致した挙句、危険な目に遭わせた張本人なのに。でもお嬢様を救うために魔界まで行って花を摘んできてくれたのですから、拒否する訳にも行きませんし・・。ですがお嬢様の体調を考えて面会はお断りさせて頂きましょう。」


マリウスが私にそう言ってドアを開けようと席を立ったのを私は引き留めた。

「待って、マリウス。折角お見舞いに来てくれたのに追い返すなんてウィルが可哀そうだよ。私は大丈夫だからウィルを呼んでくれる?」


「お嬢様・・・。」


するとまた何故かマリウスが私の顔をじっと見つめて頬を染めている。

え・・・?い、一体何よ・・・?


「ああ・・・やはり今のお嬢様が最高です・・・っ!こ、これほど誰かを愛しいと感じる事は私の人生の中で今迄一度もありませんでした。どうか一生お嬢様についていかせて下さいねっ?!」


そう言いながら両手を広げ、にじり寄って来るマリウス。

ヒイッ!な、何か怖いんですけど・・・!


「おいっ!いつまで人を待たせるんだよっ!開けるぞっ!」


 その時乱暴にドアが開かれ、ウィルが部屋の中へ入って来た。そして私がベッドの上でマリウスに追い詰められている姿を見て顔色を変えた。


「ウ、ウィルッ!」

何て良いタイミング!


「お、おいっ!お前、俺のジェシカに何やってるんだよっ!あいつが怖がってるじゃ無いかっ!」


ウィルが大声で抗議すると、マリウスがジロリと恐ろしい形相でウィルを睨み付けた。


「俺のジェシカ・・・?ウィル様。今・・・貴方は何と仰られたのでしょうか?私の耳にはお嬢様がまるで貴方の所有物のような言い方に聞こえましたが・・・?」


「ああ、そうかい?いいだろう。良く聞こえなかったようだからもう一度言ってやる。ジェシカは俺の女だ。勝手に手出しするんじゃねえ。」


「「は?」」


私とマリウスが同時にはもった。

え?ちょっと待って。ウィルは今何と言ったのだろう。俺のジェシカ?はて・・・いつからそのような事になったのだろうか・・?


「お嬢様・・・今の話は本当でしょうか・・?」


マリウスが恨めしそうな目つきで私を見る。


「し、知らないってばっ!そんな話。ねえ、ウィル。マリウスの前で誤解を招くような言い方はやめない?」


私は笑みを浮かべてウィルに話しかけた。するとウィルは私を見て顔を真っ赤に染めると言った。


「誤解を招くような事なんか言ってないぞ?お、俺はジェシカを将来俺のよ、嫁にしようと思ってるんだからっ・・!俺のせいでジェシカの身体を傷つけてしまった。せ、責任を取るのがお、男ってもんだ!」


「ああ・・・そういう意味ですか・・・。」


マリウスは腕組みをすると言った。


「それならご安心下さい。私が一生お嬢様の御側にいて面倒を観させていただきますので、ウィル様の出番はありません。この先もずっと。」


「な・・・何だとっ?!お前には関係無い話だっ!早く出て行けよっ!今は俺の番なんだからなっ!」


「しかし・・・今のお話を伺って、貴方をお嬢様と2人きりにするわけにはまいりませんねえ。」


何だか私をそっちのけで2人で口論を始めている。それにしても意外だ。まさかマリウスがこんな少年相手にむきになっているなんて・・・。でも、いい加減この辺で止めないと。


「ねえ、待ってよ。マリウス、今は確かにウィルとの面会時間なんでしょう?だったら、私とウィルの2人にさせてよ。」

私が言うと、ウィルは大喜びで私の傍へとやってきた。


「ほら、ジェシカも言ってるんだから、お前は早く部屋から出てけよ。」


ウィルはマリウスに出て行くように言った。


「仕方ありませんね・・・約束は約束ですから・・。では私は行きますが・・。」


マリウスは病室を出る直前に言った。


「私の大切なお嬢様に手出しでもしようものなら、只ではすみませんからね?」


怖ろしい声で言うと部屋から出て行った。



「こ・怖え~っ。な・何だよ、あいつ・・・。あれがジェシカが前に言ってたマリウスって男か?」


ああ、そう言えば以前一度だけ私はウィルにマリウスの事を話したことがある。

私の下僕はイケメンで優秀だけど、色々な意味で怖い人間だと。


「うん。そう、彼がマリウス。」


「くそっ・・・・確かに顔は・・・悔しいがいいと認める。それに身長も・・・俺はチビだけどあいつは・・。」


悔しそうにウィルが呟いている。


「ねえ?ウィルはまだ子供なんだから、身長なんてすぐに伸びるってば。あんまり気にする必要は無いんじゃないの?」


「お、俺を子供扱いするなよっ!」


何故か怒ったように言うウィル。あ・まずい事言っちゃったかな。

「ご、ごめんなさい。ただ私はウィルはこれからまだまだ伸び盛りだよって言うつもりで・・・。」

しかし、私の台詞を制止するようにウィルが言った。


「なあ、ジェシカッ!お前・・年下の男は・・・嫌か?」


「はい?」


「だ・だから、年下の男には興味持てないのかって聞いてるんだよ。」


「う~ん・・・。そんな事今迄考えた事無かったなあ・・・。でも相手の事好きになれば年上も年下も関係無いんじゃないかなあ?」

私は深く考えずについ、恋愛一般論を語った。


「ほ・・・本当か?それじゃ、相手が俺でもいいんだなっ?!」


「ええ?!」

ウィルは突拍子も無い事を言って来た。ま・まさかさっきの話は冗談だったのではなかったのだろうか?

私はウィルを見ると、彼は真剣な目で私を見つめている。


「あ・・・あのね、ウィル。さっき私を自分のせいで傷つけたって言ってたけど、そんな事気にしなくていいんだよ?だって私を矢で撃ったのはウィルじゃない。傷つけたのはジェイソンなんだから。」


「え?ジェシカ・・・誰がジェシカを撃ったのか知ってたのか?」


ウィルが意外そうな顔で言った。

しまった!この話は私が元の世界でノートパソコンに残されていたメモの内容を読んで知った話だった・・・。


「う、うん。か・顔がチラリと見えたから・・。」


「り・理由はそれだけじゃないぞ?俺は・・・俺はジェシカが大好きだっ!俺と将来結婚してくれっ!」


そして言うなり、私をギュッと抱きしめて来た。

な・・・何とあまりにもストレートな告白、そしてプロポーズ!まさかウィルが私をそんな目で見ていたとは・・。私はウィルを可愛い弟のようにしか見ていなかったのに、余りの突然の出来事で私は固まってしまった。


 するとそこへ・・・・。


「ゴホンッ!」


咳払いが聞こえた。

え?私はウィルに抱きしめられたまま部屋の出入り口を見ると、そこには私達を

意味深な目でじ~っと見つめているレオの姿だった・・・。



「ボス・・・。一体何をしているんですか?」


相変わらずウィルは私を抱きしめたまま言った。


「見て分からないか?今ジェシカに結婚を申し込んでいる所だ。」


「はいはい、分かりましたよ。でもボス、ボスの面会時間はもう終わりですぜ?次は俺の番ですから、どうぞ部屋から出て行って下さい。」


レオは呆れたように言うと、ウィルは渋々私の身体を放すと言った。


「ジェシカ・・・俺本気だからな?」


そう言うと、ウィルは私の額にキスをした。


「なっ?!」


突然の出来事に驚くレオ。そんなレオをしたり顔でウィルは見ると言った。


「じゃあな、ジェシカ。またな。」


「うん、またね。」

私はウィルに手を振ると、彼は病室から出て行った。


そして私は不機嫌そうに立っているレオを見つめた—。




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