第4章 3 脅迫している相手は?
「な・な・な・・何してるんだよ?!は・離せよっ!」
少年は耳まで顔を真っ赤にすると私の両手を振り払った。
「あ、ごめんなさい・・・・。」
あらま、真っ赤になってる。可愛い・・・。
私は思わず笑みを浮かべそうになったが、周囲の私を睨み付ける視線が気になり・・やめた。
「おい・・・女。お前・・ふざけてるのか?」
すぐ側で怒気を含んだジェイソンが私の背後に立っていた。
そうだっ!忘れていたっ!私の近くにはおっかないジェイソンが立っていたのだっ!
「やめろっ!ジェイソンッ!」
しかし、それを止めたのが先程の少年だった。
「し、しかし・・・。」
尚も言い淀むジェイソン。だが少年はビシイッと言った。
「いいか、この女は俺達に取っての大事な人質だ。だから絶対に傷一つ付ける事はこの俺が許さないからなっ?!」
少年の声に周囲の男達は一斉に返事をする。
この子供、凄いなあ・・・。周囲にいる大人達を一喝するなんて。
そして少年は改めて私の方を振り向くと言った。
「いいか、この島は俺達の隠れ家になっている。夜のうちにこの島に上陸して船を隠さないとならない。と言う訳だから・・・おい、すぐにこの船から降りるぞ!ついて来い!」
少年は偉そうに言うと、私の返事を聞かずにくるりと背を向けて歩き出す。仕方が無い・・。背後にいるジェイソンが怖いので私は黙って後を付いて行った。
船から降りて振り返ると、やはり全員がぞろぞろと下船し、船の周囲に集まって行くのが見えた。彼等はこれからどうするのだろう・・・?
「おい、何してるんだ?早くついて来い。」
足を止めていた私を少年が前方から声をかけて来た。やれやれ・・・。軽くため息をつくと、小走りで少年の後を追った。
鬱蒼とした木々を払いのけるように歩いて行くと、突然目の前が開けてレンガ造りの大きな館が現れた。
「こんな所に家が・・・。」
私が感嘆の声をあげていると、少年が声をかけてきた。
「早く中へ入れ。」
「おじゃましま・・・す・・。」
こんな場所に建てられてた館なので、さぞかし中は蜘蛛の巣や埃まみれだろうと思っていたのに、内部はとても綺麗に手入れが行き届いていた。家具や調度品と言ったものは殆ど無かったが、まるで今もこの家を使っているような、生活感に溢れている。
「ほら、この部屋に入れよ。」
少年はドアを開けると中へ入るように促す。中へ入って見渡すと、20畳ほどの広さの部屋で、暖炉が置かれている。他に古びたソファや長椅子に長テーブルがあった。
少年はマッチで暖炉に火を付けている所である。
「あの・・・この家は・・?」
まさかあの船に乗っている人達が済んでいる訳では無いよね~。
「ああ、俺とあいつらが住んでいる屋敷だ。ほら、そこの椅子に座れよ。」
暖炉に火を付け、テーブルの燭台に火を灯すと少年は言った。
「ええ?あなた達・・・海賊なのよね?海賊は海の上で暮らすものだと思っていたわ。」
私は椅子に腰を降ろすと話を続けた。
「海賊は・・・俺の父さんだった・・。俺と母さんは・・この家で暮らしていたんだ。」
少年はドサッと椅子に座り、どこか寂しそうに言った。
「勿論、海賊って言っても俺の父さんは義賊だったんだ。善人ぶって裏では貧しい人達から税金を踏んだくって国外に出ようとした時や、時には犯罪に手を染めた物資や宝石なんかの類を運ぶ船を俺の父さんが船に乗って奪い、分け与えていたんだ。」
「え・・・?」
義賊・・・本当にそんな人達が存在していたんだ・・。
「だけど・・俺が12歳の時、とうとう父さんは捕まって・・・裁かれて、それで・・。」
少年は下を向いて何かを堪えるように言った。最後まで聞かなくても、理解は出来た。この少年の父親は、もういないのだ。
「母さんは・・・ショックで心を病んでしまって・・・父さんが死んだ1年後に病気で死んでしまったんだ。それで、アイツらが全員俺の面倒を見る為にこの家に住むことになったのさ。皆、俺の・・家族みたいなもんだよ。」
少年は寂しげに笑った。
「ねえ・・あなた、今何歳なの?」
私はどうしても気になる事があって尋ねた。
「な、何だよ。いきなり・・・15だよ。悪いか?」
「別に悪くないけど・・・15歳なら学校に行ってるはずだよね?ちゃんと行ってるの?」
「う、煩いな!が、学校なんて行けるはずないだろう?さっき言ったばかりだろう?俺の父さんは海賊だったって。海賊の子供が・・・学校なんて行けるはずないじゃないかっ!」
半ば自棄になったかのように少年は言った。
「あ、ご・ごめんなさい・・・。」
どうしよう、知らなかったとはいえ、私は目の前の少年を傷付けるような事を尋ねてしまった。
「別に謝って貰う必要は・・・って言うか、何で俺お前にこんな余計な話してるんだよ?!」
少年は怒ったように言うと、そっぽを向いてしまった。
でも・・・困った。こんな話を聞いてしまったら、つい同情してしまいたくなる。
「ねえ・・貴方の名前、教えてくれる?」
「俺の名前?ああ、そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺の名前はウィリアム・ロックハートだ。」
「ウィリアム・・・そうだ、貴方の事ウィルって呼んでも大丈夫?」
私はパチンと手を叩いて尋ねた。
「!」
一瞬ウィリアムはピクリと肩を震わせたが・・・溜息をつくと言った。
「別に・・・好きな様に呼べよ。」
丁度その時、扉をノックする音が聞こえた。
「ウィリアム坊ちゃん、食事の準備が出来やしたぜ?」
言いながら中へ入ってきたのはでっぷりと肥え太った白いコックコートを着た中年の男性がカートを押して入って来た。え?食事?私の分もあるのかな?
表情が顔に出ていたのだろう?コックコートを着た男性が言った。
「お嬢さん、あんたの分もちゃんとあるぜ?」
男はテーブルに次々と料理を並べていく。主に魚料理がメインの食事がズラリと並んだ。おお!流石は元海賊シェフッ!
「ほら、お前も食えよ。」
ウィルは言うと、ナイフとフォークで器用に魚料理を食べ始めた。
私もウィルに習ってメインディッシュの魚料理を取り分けて、口に入れ・・・・・。
「お、美味しい!」
「だろう?うちのシェフのアダムはすごく料理が上手なんだ!」
ウィルは気を良くしたのか、ようやく笑みを浮かべた。お腹が空いていた私は無言で食事を食べ続け・・・気が付いた時にはテーブルの上の料理は全て綺麗に平らげられていた。
ウィルは呆れたように言う。
「お前・・・女のくせによくそれだけ食えるな?」
「し、仕方ないでしょう?美味しすぎるんだもの!」
本当は船酔いで吐いてしまった為に胃の中が空っぽだったから・・・・とはとても言えなかった。
すぐにアダムがやってきて、食器の山をカートに乗せて去って行き、再び部屋には2人きりとなった。
よし・・・尋ねるなら今だ。
「ねえ、ウィル。この島は・・・セント・レイズシティがある場所からは凄く遠いの?」
「いや、そんな事は無いさ。今は夜で見えないが、明るくなれば対岸に大きな陸地が見える。そこがお前がいた場所さ。せいぜい80㎞程しか離れていないぜ。」
そこまで言うと、ウィルはニヤリと笑った。
「ただなあ・・・。」
「ただ?」
「この周辺は大小さまざまな島が20以上ある。しかもその島は全て木々で覆われているからな。簡単には俺達のアジトを見つける事なんて難しいぜ?」
つまり・・・ウィルが言いたい事は・・・。
「そう簡単には・・・助けが現れないって事?」
私が尋ねるとウィルは満足そうに頷いた。
「ああ、だからお前は諦めて人質としてこの島に留まるんだな?俺達の要求を奴らが飲めばちゃんと解放してやる。」
そこで私は疑問に思った。一体誰を脅迫しているのだろうか?目的は一体何なのだろうか?
「ねえ・・教えて。貴方達が私を人質に取って、脅迫している相手って一体誰なの?それ位、人質の私には知る権利があると思うのだけど?」
「う~ん・・・。確かに言われてみればそうかもな。いいか、良く聞けよ?俺達がお前を人質に取って脅迫する相手は、リッジウェイ家とゴールドリック王家だっ!」
えええっ?!な、何て事を彼等はしてくれたのだ—!
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