第4章 4 ウィルの衝撃的な過去

 ま、まさか本当にウィルはリッジウェイ家と・・・よりにもよってアラン王子の国を脅迫するつもりなのだろうか?

ジェシカの家を脅迫するのはまだ理解出来るとして、何故私と無関係な王家を脅迫するのだろう?私にはさっぱり理解出来ない。

大体王家が公爵家の為に動くわけが・・・そこ迄考えて、私は嫌な予感がした。

も、もしやウィルが脅迫する相手はアラン王子なのでは・・・?

それにリッジウェイ家が私の為に動く相手と言えば、あの最もデンジャラスな男、マリウスしかいない。

た、大変だっ!マリウスとアラン王子・・・この2人が動けば、ここにいる彼等は絶対タダでは済まない。

どうしよう、私は先程ウィルの話を聞いてしまった。今、目の前にいる少年に深く同情している。何とかしなければ・・・。

「ね、ねえ。何でリッジウェイ家とゴールドリック家を脅迫するの?私の家ならともかく、王族を脅迫って、とんでもない事だって分かってる?捕まれば、それこそ反逆罪でどんな酷い罰を与えられるか分からないのよ?最悪死罪だって・・・。

あ、ひょっとしたらお金なの?お金なら私が持っているから・・それで私を解放してよ。」

するとウィルは憤慨したように怒鳴った。


「う、うるさいっ!馬鹿にするなっ!俺が金の為だけにこんな事をしてると思ってるのか?!」


えええっ?!違うの?!

ウィルは立ち上がると、さらに続けた。


「いいか?俺の父さんは王族の息がかかった裁判官によって、死刑を言い渡されたんだ。そりゃあ確かに海賊家業で強奪してきたのは悪い事だけど・・・父さんのお陰で助けられ人達は大勢いたっ!なのに、あいつ等・・・首を吊られた父さんに、皆で石を投げつけ・・・。」


ウィルは下をむき、最後の台詞は言葉が途切れてしまった。

私はあまりの衝撃的な話に言葉も出ない。ウィルはたった12歳の時にその現場を見てしまったのだ・・・。


「だから、俺は王族が嫌いなんだ。あいつ等に一泡吹かせてやらないと、俺の気持が・・・って、な・何でお前が泣いてるんだよっ?!。」


ウィルが困惑したように私の方を見ている。

「だ、だって・・・。」

私は目をゴシゴシこすった。


「全く、馬鹿な女だなあ。俺より年上のくせにメソメソ泣いて・・・。」


呆れたように言いながら、ウィルはハンカチを取り出し、ゴシゴシと乱暴に私の顔を擦る。


「全く・・・誘拐されているってのに、その誘拐犯に同情して泣くなんて・・どうかしてるぜ。」


ウィルは私から視線を逸らすと言った。


「でも・・・サンキュ。」


「え?」


「お前だけだよ・・・。俺の話を聞いて涙流した人間なんて・・。」


どこか照れたようにウィルは言った。

その時、玄関から騒がしい声が聞こえて来た。


「お、あいつ等。戻って来たみたいだな!」


ウィルはさっと部屋を出て行く。そしてドアの入口で言った。


「いいか、お前はその部屋から動くなよ?」


そしてドアをバタンと閉めて出て行ってしまった。


「・・・全く、今日はなんて日なの・・・。」

溜息をついて、ソファの方に移動して深く腰を降ろす。

「今何時なんだろう・・・。」

この部屋には時計が何処にも無いので今の時間がさっぱり分からない。

それにしても、アラン王子とマリウスを脅迫するなんて、余りにも大胆過ぎる。


 ぼんやりとソファに座り、部屋の中を見渡す。・・・本当に必要最低限の物しか置かれていない。もしや・・・かなり生活に困窮しているのかもしれない。

ウィルたちは私を誘拐してリッジウェイ家とゴールドリック王家から身代金を取ろうとしているのだろうか?でも、そもそもどうして私がジェシカ・リッジウェイだと分かったのか?何故王家まで脅迫して身代金を取ろうと考えた?どうして私があのホテルに泊まっている事を知っていたのだろう?


「フワアアア・・・・。」

駄目だ、考え事をしていたら眠気が・・・。次第に瞼が重くなり、やがて私の意識は薄れて行った・・・。


 誰かが私の髪や頬に触れている気配を感じる。ん・・?誰だろう・・?

やがてパチッと目を開けると、驚くほど間近かでレオが私を見つめている。

「え?」


「おう、姫さん。やっとお目覚めかい?あまりにも起きないから、今キスでもして起こしてやろうかと思っていたところだったんだぜ?」


レオがニヤニヤしながら言う。全く何処まで本気で言ってるのか・・・。

「結構です。」

目をこすりながら私は言った。


「あん?随分あっさりした反応なんだな?もっと恥ずかしがると思っていたのに・・・。」


何処かつまらなそうに言うレオ。


「すみません。ご期待に沿えず・・・。」

大体私は普段からそれ以上の事を色々な男性からされているのだ。もういい加減免疫がついてしまっている。


「ふ~ん・・・。深窓の令嬢と思っていたが、やっぱりあの話は本当だったようだな。」


ボソリと呟いたレオの言葉を私は聞き逃さなかった。え?ちょっと待って。

「あの、一体今の話はどういう事ですか?!」

私はレオの襟首を捕まえて尋ねた。

何だか聞き捨てならない様な話をレオが何者から聞かされている予感がする。


「お、おい。落ち着けってっ!」


レオは私を宥めるように言った。


「それに・・・・私は肝心な事を聞かされていませんよ?どうしてあなた方は私を狙ったのですか?それに顔も名前も知っていたし、何より私があのホテルに泊まっている事を知っていました。ひょっとして・・・誰かが私の事をあなた方に教えたのでは無いですか?」

私は尚もレオに詰め寄る。


「あ~・・・。俺の口からはそんな事言える訳ないだろう?どうしても知りたければ、何とかボスを口説き落として聞きだすんだな?姫さんならお得意だろう?」


またしても不敵な笑みを浮かべるレオ。口説き落とすという言い方は心外だが、ここは何とかウィルの信頼を得て、彼の口から聞きだすしか無いだろう。早くしないと今に、あのデンジャラスなマリウスに彼等は酷い目に遭わされるかも・・・?

その時、私は以前マリウスが言った台詞を思い出した。

マーキングが消えてると・・・。

と言う事は、マリウスは私の居場所を特定する事が出来ない?少しは時間稼ぎになるかもしれない。よし、なら何としてでもウィルの信頼を勝ち取り、こんな事は辞めさせるように説得しなくては・・・。


「おい?どうしたんだ?さっきから1人でブツブツ何か呟いて。」


レオが不思議そうに私に尋ねて来た。


「いえ、早速どうすればウィルの気持ちを動かす事が出来るのか考えていた所です。」


「え・・?姫さん・・・。ボスの事、ウィルって呼んでるのか?」


意外な程に驚いているレオ。私がウィルと呼ぶことがそれ程驚く事なのだろうか?

「ええ、ちゃんとウィルと呼んでも良いという許可を頂いたので。あの・・・それが何か?」


「い、いや。何でもない。それより、姫さんの部屋が用意してあるから俺についてきてくれ。」


レオはアルコールランプを手に取ると、私を手招きした。


2人で薄暗い廊下を歩きながら私は言った。

「あの、レオさん。私の事は姫と呼ばずにどうぞジェシカと名前で呼んで頂けますか?」


「え?名前で呼んでも構わないのか?」


レオは振り向いて尋ねた。


「ええ。当然です。だって私は姫なんかじゃありませんから。」


「そうかあ?俺には十分姫のように見えるぜ?波打つようなウェーブのかかった長い髪に、華奢な身体にその美貌。まさに庇護欲をそそられるような姫に見えるぜ?」


何とも歯の浮くような台詞を言うレオ。海の男と言うのは皆こんな感じなのだろうか?


「ほら、部屋に着いたぜ。」


レオはドアを開けなあら言った。

・・・そこは誰かが以前に使用していたのだろうか?この部屋だけは生活感に溢れていた。しかし、何年も使用されていないのか、ドアを開ける時にさび付いた音が確かに聞こえた。

「あの・・・この部屋は・・・。」

そこまで言い、私は言葉を飲み込んだ。いつの間に来ていたのか、ウィルが部屋の前に立っていたのである。しかも何故か悲しそうな顔をしていたからである。


「ああ、ボスも来ていたんですね?」


レオはウィルに声をかけた。


「ああ。この女の様子を見に来たんだ。」


そしてウィルは私を見ると言った。


「暫くの間、お前はこの部屋を使え。数日後にリッジウェイ家とゴールドリック王家に手紙を送る準備が整うまではな。」


そして暗闇の中を去って行った。再び、私とレオの2人になると彼は言った。


「今日から俺が姫さんのお世話係になったんだ。よろしくな。ジェシカ?」


そしてレオは嬉しそうにウィンクをしたのである。









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