第2章 20 女狐と愚かな男達 完結編
パアンッ!!
広場に平手打ちの大きな音が響き渡る。叩いたソフィーもエマ達やアラン王子達も驚愕の顔をしている。
「い・・痛った・・・い。」
私はとっさにソフィーがアメリアに手を上げようとした時に、彼女の前に立ちはだかり、代わりに左頬を平手打ちされたのだ。それにしても何というパワーのある平手打ちなのだろう。叩かれた瞬間に目から火花が飛んだ気がした。
「ジェ、ジェシカさん・・・。」
私の背後でアメリアが戸惑うように声をかけてきた。
「良かった・・・。私の名前を思い出したんですね?」
ひりつく頬を押さえながら私はアメリアにほほ笑んだ。
「な・・何故また邪魔をするのよっ!」
ソフィーが癇癪を起して私とアメリアを睨み付ける。
「どうしてソフィーさんはアメリアさんにいつも辛く当たるのですか?彼女に何の落ち度があったと言うのですか?もうアメリアさんに暴力を振るうのは辞めてください。」
私は言った。
「う・・・煩いわね・・っ!貴女に何が分かるって言うのよ・・。元はと言えば全ての元凶は貴女よっ!」
ソフィーはヒステリックに叫ぶと再び右手を振り上げた。
「止めるんだっ!」
その時、ソフィーの振り上げた右腕を掴んだ人物がいた。
「ア、アラン王子様・・・。」
ソフィーはアラン王子を見上げた。
「もう止めるんだ。ソフィー。俺はもうこれ以上君に醜態を晒させたくない。」
「そうだ。兎に角、あの男達の言っている事が事実であるならば、お前は彼等に誠意を見せなければならない。」
生徒会長がまともな事を言っている。
その時だった。
「ジェシカさんっ!」
エマ達が私に走り寄って来た。
「ジェシカさんっ!大丈夫ですかっ?」
クロエが私に声をかけて来る。
「酷い・・・こんなに赤く腫れて・・・。」
エマが私の赤く腫れた左頬にそっと手を当てて言った。シャーロットもクロエも心配そうに見つめている。
「ちょっと痛いけど、大丈夫。皆さん、本当に有難うございます。」
そして私はソフィーを取り囲んでいるアラン王子達を見た。
「ソフィーさん・・・どうするのでしょうね。」
シャーロットがポツリと言った。
「後はアラン王子達に任せましょう?あれだけはっきりとソフィーの取って来た行動が晒されたのだから、多分お金は返してくれると思うし・・・。」
私は少し離れたところでしょんぼりと項垂れて座っている3人の男子学生達を見ると言った。
「多分、彼等もソフィーに嫌気がさして、ソフィーの元を去るんじゃないかしら?後は男爵令嬢達次第ですね。」
うん、かなり色々トラブルはあったが、これで一件落着?と言った所だろうか。
「皆さん、それでは学院に帰りましょう?」
私はエマ達の方を振り向くと言った。
「え・・・?それでいいのですか?アラン王子達に声をかけなくても・・?」
リリスが尋ねて来た。
「ええ。もう私には彼等は関係ない人達だから。」
すると今まで黙っていたアメリアが突然私の手をギュッと握りしめてきた。
「ジェシカさん・・・。ごめんなさい・・・。私の代わりに・・・。」
アメリアはそこまで言うと俯いてしまった。
「いいの、気にしないで下さい。私が勝手に行動しただけの話なので。それで・・・余計なお世話かもしれないけれども、ソフィーさんとは、もう距離を置いた方がアメリアさんの為になると思うの・・・。気を悪くしたらごめんなさい。でも貴女の事が心配だから・・・。考えておいて下さいね。」
私は一度だけアメリアの手を強く握り返すと、そっと離した。
「それでは帰りましょう。私達の学院へ。」
エマに促され、私達は踵を返して歩き始めると周囲で拍手が起こった。
え?まだこんなに大勢の人達が見物していたの?!
「すごい!最高の舞台だったぜっ!」
「こんなにリアルな演出を見たのは初めてだったわ。」
「また新しい舞台を見せてくれよなっ!」
等々・・・
様々な歓声が沸き起こったのだった。どうもここにいるギャラリー達は最後まで何かの舞台だと思っていたみたいだ。騒ぎにならなくて本当に良かった・・・。
歩きながら私は胸を撫でおろすのだった。
「カンパーイッ!」
私の掛け声と共に皆は一斉にグラスを持ち上げて隣同士で乾杯し合った。
時刻はまだ午後2時ではあるが、女同士でアルコールも飲めるカフェに来ている。
メンバーはエマ、クロエ、リリス、シャーロット。そして私に助けを求めてきた準男爵のミリア、ハンナ、クレアの合計8人の大所帯。
今回の件が無事に解決したので全員で女子だけの打ち上げをする事になったのだ。
「本当にありがとうございました。」
クレアが私に頭を下げてきた。
「本当に、ジェシカさんのお陰です。あの後すぐに私に許して欲しいと泣きついて来たんですよ。」
ハンナは嬉しそうに言った。
「もう今回の件で私が主導権を握れるようになったんです。次に何かしたら只では済まないからと脅しておきました。」
ミリアはクスクス笑いながら言った。
「それにしても情けない男達でしたわね~。」
エマがワインを傾けながら言う。
「本当にそうですね。あんな女と関わるから腑抜けにされたに決まってるわ。」
グイッとワインを一気に飲み干すとクロエが言った。
「私がヘルハウンドで脅した時のソフィーのあの顔・・・思い出すだけでおかしくって・・・。」
ニコニコ笑いながらおつまみに手を伸ばすシャーロット。
「本当に、お金をだまし取られた男性達が目の前に現れた時の彼女の表情・・・みものでしたねえ~。」
リリスが頬杖を付きながら恍惚の表情を浮かべる。
う~ん・・・。確かに今回の件はすごく胸がスカッとしたし、ソフィーにとってはいい薬になったのでは無いだろうか?
それにアラン王子達だって、今回の件で目が覚めてソフィーを見る目が変わってくれば・・・私の未来もおのずと変わってくるはずっ!それなら学院を去らなくても不幸な未来に怯えず学院生活を送れるのでは・・・?
私は淡い期待を抱いていた。
しかし・・・いくらソフィーがとんでもない女だったとしても、こうしてアラン王子やソフィーを酒の肴にお酒に興じる私達って・・・傍から見たら完全にヒロインを虐めるキャラクターになっていない?!
でもエマ達は私の大切な親友であり、全ての行動は私の為に行ってくれた事なのだから、ここはやはり素直に感謝の気持ちを述べるべきであろう。
そこで私は・・・。
「エマさん、クロエさん、シャーロットさん、リリスさん。」
彼女達の顔を順番に見つめると言った。
「本当に有難うございました。皆さんを友人に持てた私は本当に幸せです。」
そして頭を下げた。
「ジェシカさん・・・。」
エマが瞳をウルウルさせ、次の瞬間私に抱き付くと言った。
「何言ってるんですかっ?!ジェシカさんのような方を親友に持つことが出来た私達の方が幸せですよっ!」
「そうですよ。ジェシカさんのお陰で成績もすごく上がったんですよ?お陰で赤点も免れたんですから。」
シャーロットが力説する。
「私なんかジェシカさんに比べれば爵位もかなり低いのに、すごく親切にしてくれて・・感謝しているんですから。」
リリスはじっと私を見つめながら言った。
「ジェシカさん、私達はジェシカさんが大好きなんです。本当にお役に立てて良かったです。」
「クロエさん・・・。」
3人の男爵令嬢達も次々と私にお礼を述べ、もし迷惑でなければ友達になって貰えないかと尋ねてきたので、私は2つ返事でOKしたのであった。
うん、やっぱり私はこの学院が・・・彼女達のいる学院生活が大好きだ。
逃亡するならいつでも出来る。
今はもう少しだけ・・・。
彼女達と一緒に過ごしたい—。
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