第2章 19 女狐と愚かな男達 ③

「さあ、ソフィーさん。自分の行いを認めたのだから、彼等を解放してあげてお金も返してあげなさい。」


エマは杖で掌をポンポン叩きながら言う。


「い・・・嫌よっ!だって彼等は自分達からお金を差し出したのよ?返す義理は無いわっ!」


もう先程からまるで昼ドラのような展開が繰り返されている。今や現場は完全にソフィーとエマの舞台と化しているようだ。それを表すかの如く、ますますギャラリーの数が増えていく。

そしてアラン王子達も、最早口出しすらしてこない。


「くっ・・・どうして・・?いつもいつも私の邪魔をしてくるわけ・・・・?」


ソフィーが恨みのこもった目で私を睨み付けて来る。ねえ!ヒロインがそんな目をするなんて聞いたことがないんですけど?!


「このままでは済まさないから・・・。」


ソフィーは私に向かって右手を伸ばして広げると言った。


「アイシクルッ!」


するとソフィーの手から太いつららが何本も出現し、私に向かって飛んできた。

え?嘘でしょう?!あのソフィーが攻撃魔法を使うなんて!

眼前に矢のように迫って来るつらら。けれど私の頭の中は死の恐怖よりも、何故あのソフィーが攻撃魔法を使えるのか、それが頭の中を占めていた。


「ジェシカさんっ!」


エマの悲痛な叫びが聞こえる。


「サラマンダーッ!」


 するとクロエが叫ぶ。途端に私の眼前に魔法陣が現れ、中から炎に包まれたオオトカゲが現れ、口から炎を吐いて全てのつららを一瞬で溶かしてしまった。

一斉に拍手が起こる。


「おおーっ!あの女、凄いトリックを使うなあ。」

「ねえ、他の人達も呼んできましょうよ!こっちの方が断然面白いから!」

「いいぞーっ!もっとやれーっ!」

等々・・・観衆は完全にお芝居だと思い込んでいる様だ。


 アラン王子達は心配そうに私を見ているが、ソフィーにまだ心奪われているのかもしれない。それよりも何故ソフィーが攻撃魔法を使えるのだ?私の小説の中の彼女は攻撃魔法は使えず、光の魔法と呼ばれる治癒魔法や、攻撃をサポートする魔法しか使えない設定で書いていたのに・・・。


「よ、よくも邪魔してくれたわね。」


ソフィーはよろめきながらクロエを睨み付けるが、彼女も負けじと睨み返して言う。


「友人のピンチを救うのは当然の事でしょう?」


「許さない・・・ジェシカさんに危険な事を・・・。」


おおっ!シャーロットが完全にやる気を出している!


「ヘルハウンドッ!」


するとグリフォンの姿が掻き消えたかと思うと、今度は真っ黒の身体を持つ巨大な犬が出現した。その眼はまるで真っ赤なルビーの様に輝いている。

犬は低く唸るとソフィーを威嚇し始めた。


「ヒッ!」


 流石にこの犬の威嚇に恐怖を感じたのか、ソフィーは後ずさりする。ねえ・・・流石にちょっとやり過ぎなんじゃないの・・・?


「おい!それ以上ソフィーを怖がらせるなっ!」


とうとう見ていられなくなったのかアラン王子が声を荒げて言う。


「何を言うのですか?アラン王子。先程のソフィーさんの攻撃をご覧になったでしょう?魔法を使えないジェシカさんに対して、あんな太いつららを何本も放ったのをご覧になりましたよね?私達がいなければ今頃ジェシカさんはつららに射抜かれて死んでいたかもしれないのですよ?」


クロエが物騒な事を言ったが、確かにそうだったかもしれない。私1人だったら・・・死んでいたかも・・・。

思わずぞっとして自分の両肩を抱える。


「し、しかし・・・大勢で寄ってたかって1人のか弱い女性を攻撃する等・・。」


生徒会長が間に入って来る。


「それなら、あなた方も応戦したらどうですか?私達、皆さんの事も非常に腹を立てているんですよ?」


エマが言うが早いか、魔法のステッキを上空に振りかざすと叫んだ。


「スモールメテオライトッ!」


ヒュルルル~

何かが上空で降って来る音が聞こえてきた。私達は全員空を見上げると、何と大量の小さな何かが地上目掛けて降って来る。


「な、何だ?!あの女正気じゃないっ!」


アラン王子の焦る声が聞こえた。


「フフフフ・・・ッ貴方達には天罰が必要ですよね?大丈夫、威力は下げてありますから安心して下さい。」


「シ、シールドッ!」


アラン王子の叫び声と同時に彼等を包む金色の光。次々と降って来る隕石がシールドに当たって、あちこちに飛散る。・・・が、不思議な事に私達にも周りのギャラリー達にも何の被害も出なかった。見事に隕石は避けて地面にめり込んでいる。


「お・・おいっ!君達、幾ら何でもやりすぎだろう?!」


ダニエル先輩が舞い上がる埃にむせながら叫んだ。


「おおっ!今のは凄い技だったっ!」

「いや~危ない。肝が冷えたぜ。でもスリルを味わえたな。」

「あの女の子達、カッコいいわね~。」


さぞかし、今の荒業でギャラリー達は怯えるかと思ったが、何故か皆興奮している。


「どうしたんです?私達にやられっぱなしでいいんですか?」


エマが勝ち誇ったかのように腕組みをしている。


「う・・煩い!僕は女性とは戦わない主義なんだっ!」


ノア先輩は埃で汚れた口元を袖で拭いながら言った。へえ~中々見所があるんじゃないの?でもエマ達の攻撃にいつまで耐えられるんだろう?

そう思っていた時だ。


「「「ソフィーッ!」」」


突然彼女の名前を呼ぶ男性達の声が聞こえて、私達は一斉に振り向いた。

あ、あれはソフィーに騙された男子学生達だ。


「な、何で貴方たちが・・・・?」


ソフィーが今までにないほど焦りの表情を浮かべた。


「ソフィーッ!頼む!君に渡した金を返してくれないか?!」

「実家から連絡がきたんだ!お前に渡してある金で里帰りしろと、君に渡したから無一文なんだよっ!」

「このままだと勘当されてしまう!な、頼むよ!」


3人の男子学生は悲痛な声でソフィーに訴えて来る。


「ちょっとっ!いい加減にしてよ!私は貴方達なんて知らないし、お金の事だって何の事かさっぱり分からないわ!」


ここまできて未だに白を切りとおすのか?ある意味凄い女だ・・・。私は妙な所で感心してしまった。

でも・・・どうして彼等がこの場所を知っていたのだろう・・?


その時、私の眼前にリリスが立っているのが見えた。


「リ、リリスさん?」


「良かった・・・間に合って。私が彼等を探してここへ連れて来たんです。」


リリスは駆け寄ると私の手を握り、言った。

「え・・・?でも今日はデートだったんじゃ・・?」


「やっぱりこんな大切な日にデートなんてしてられませんよ。他ならぬジェシカさんの為ですから。」


「リリスさん・・・。」

私は胸が熱くなった。ああ、やっぱり私はこんなに大切な親友たちがいるのに学院を去っていいのだろうか?


一方のソフィーはますます自分の立場が危うくなってきていた。今や、男性陣に包囲されて質問攻めに遭っていた。

もう自業自得だ。・・・放って置こう。でもこれでアラン王子達の目が覚めてくれることを祈ろう。私の大切な未来を守る為にも!


「い・・・いい加減にして下さいっ!」


突然のソフィーの大声に私達は驚いて彼女を振り向く。ソフィーは顔を真っ赤に染め、これ以上は無い位に激怒しているように見えた。


「ち、ちょっと通してくださいっ!」


ソフィーはアラン王子達を掻き分けていく。・・・・何だろう?すごく嫌な予感がする。

私はソフィーに向かって走り出した。


ソフィーはアメリアに大股で近付くと彼女を怒鳴りつけた。


「アメリアッ!元はと言えば全てあんたのせいよ?!あの時ツタになんか足を絡まれたりして・・・本当に使えない女ね!」


そうして右手を振り上げた。


いけない—っ!


パアンッ!!

広場に平手打ちの大きな音が響き渡った・・・。












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