第11章 4 デンジャラスな男

 思えば、あの時から小さな異変が始まっていた・・・・。

しかし能天気だった当時の私はその事に全く気が付いていなかったのだ・・・。



「どうやら決着がついたようですね。」


マリウスがカフェテリアから彼等の様子を伺いながら言った。


「うん、そうだね。結局はアラン王子の勝ちかあ・・・。」

私はつまらなそうに言った。窓の外ではアラン王子がアメリアの腕を取り、他の全員を追い払う仕草をしている。生徒会長を含め、他の男性達は肩を落としてすごすごと何処へともなく去って行った。さらにアラン王子は残されたグレイとルークにも何かを話し、彼等もその場を去って行ったのである。


「お嬢様・・・アラン王子が勝った事が気に入らないのですか?」

マリウスが何故か目を伏せながら言う。


「そう言う訳じゃ無いけどさ、ただ・・・ね。アラン王子がアメリアを独占出来なかったときの反応を見たかったんだよね~。どれだけ暴れるか・・とか、強引にアメリアを奪って逃げるか・・・とか、色々考えられるでしょう?」

ウキウキしながら言うと、マリウスに白い目で見られた・・・気がする。


「お嬢様・・意外と悪趣味ですね。」


「そうかなあ?」

私は追加で頼んだミルクコーヒーを飲むと言った。


「でも・・・これで安心しましたっ!」


何故か嬉しそうなマリウス。


「安心?」


「はい!これで入学した時と同じ元通りの状況に戻れたわけです!私はお嬢様を独占する事が出来、今まであったお嬢様と1日付き添える権利というくだらない制度も廃止され、席替えも戻して私はお嬢様の隣の席で一緒に学べる。横を向けばいつでもお嬢様のお顔を拝顔する事が出来、時々私を冷えた目で詰って貰えると言う素晴らしいあの日々を・・・っ!」


はあっ?冗談じゃないっ!どうして私がマリウスと一緒にいなければならないのだ?

特に最近のマリウスは色々な面で危険極まりない。初期の頃ならばその変態Mぶりだけにうんざりしてるだけで済んだのだか、今のマリウスはありとあらゆる面で危険で恐怖を感じる。


 特に危険なのが私に対する過剰な接触だ。私とマリウスの間に恋愛めいた良い雰囲気が出た事等、あった試しが殆どといって良い位何もないのに何故?

主である私を平気で抱きしめたり、あまつさえキスまでしてくる事が出来るのだ?

これでも私は主だ。その主に対してあのような真似をしてくるとは・・・!

このままマリウスの側にいれば、常に自分の貞操が危機にさらされている状況になってしまう。まずい、これは非常にまずい、何とかマリウスの魔の手から逃れなければ・・・!


「あのね、マリウス。入学当時も言ったと思うけど、ここは学院。主と下僕の関係なんか無いの。だから貴方は私に構わずにこの学院生活を謳歌して欲しいのよ。素敵な恋人だって見つけて欲しいって願ってるし・・・。」

そこまで言いかけて、私は口をつぐんだ。マリウスの身体から何やら黒いオーラ?の様な物がにじみ出ているような気がする・・・?


「お嬢様・・・。まだそのような事をおっしゃられるのですか?私の全てはお嬢様の物だと言う事をどうすれば分かって頂けるのでしょう?こうなれば身を持ってお教えするしかないのでしょうか?」


 逃がさないぞと言わんばかりにガシッと私の両腕を握りしめ、睫毛が触れ合う位の距離まで顔を近づけるマリウス。

ひえええええっ!!こ・怖い・・・っ!


その時だ。


「おい!何をしているんだ、マリウス!ジェシカから離れろっ!」


声の主はルークだった。そしてその後ろにはグレイもいる。おおっ!天の助け!何て素晴らしいタイミングでこの私の危機的状況の中、助けにきてくれるなんてっ!


「チッ!」


し、舌打ち・・・今、マリウスが舌打ちしたよ。しかも彼等に聞こえよがしにわざと大きな音で・・。本当に一体マリウスはどうしてしまったのだろう?


「大丈夫か?ジェシカッ!」


グレイは私を自分の方に引き寄せるとマリウスに言った。


「おい。マリウス!お前一体ジェシカに何をしようとしていたんだ?!」


するとマリウスは事も無げに言う。


「何をしようとしていたかですか?簡単な事です。お嬢様にキスしてマーキングしようとしていました。」


ちょっとっ!やっぱりまた同じ事をしようとしていたのね?!はっきり言ってマリウスのやろうとしている事は犯罪だっ!

私が物凄い剣幕で睨み付けると、うっとりとした目で私を見つめている。


「「はあ・・・・?キスだあ・・・?」」


綺麗にハモるグレイとルークはマリウスを睨み付ける。


「あなた方には関係の無い事ですよ?グレイ様にルーク様。これは私とお嬢様の問題なのですから。」


「お、お前なあ・・・っ!」


グレイは今にも飛び掛かりそうだったが、マリウスの一言で動きが止まった。


「貴方がた、何もご存じないのでしょう?本日お嬢様は4人組の男性に襲われかけて非常に危険な目に遭ったのですよ?私がマーキングしておいたお陰でお嬢様を無事助け出す事が出来たのですから・・・ね、お嬢様。」


「ほ・・本当なのか?ジェシカ・・・?」


ルークが私に問いかけて来るので黙って頷く私。


「ほら、御覧なさい。あなた方がアラン王子の警護についていた間、恐ろしい目にお嬢様は遭っていたのですよ。」


確かにその言う通りだ。あの時、マリウスが現れてくれなければ今頃私は・・・。しかも考えてみれば私はまだお礼すら言ってなかったっけ。


「ごめんなさい、マリウス。言い過ぎたわ。そして・・・ありがとう。まだお礼も言ってなかったわね。」


「お嬢様っ!私の気持ちを分かって頂けたのですね?!」


別に分かったつもりは無い、無いが・・・身体を張って守ってくれたのだからお礼を言うのは当然だ。


「では、お嬢様。そろそろ出ましょうか?」


私は黙って頷くと、グレイとルークに言った。

「ごめんね。心配して駆けつけて来てくれたんでしょう?ありがとう。」


するとマリウスはこれ見よがしに私の肩に手を置き、グイッと自分に引き寄せると言った。


「では、失礼致します。グレイ様、ルーク様。」


そして戸惑う彼等を残し、マリウスは私を連れてさっさと歩きだすのだった。



「ね、ねえ!ちょっと一体何処へ行く気なのよ?!」

私はマリウスに手を引かれながら必死で尋ねる。


「さあ・・・何処が良いでしょう?最近新しく出来た遊園地があるのですよ?そこへ今から行ってみましょうか?それとも動物達と触れ合えるアニマルパークと言う場所もここ最近話題のスポットですし。」


そしてそこまで言うとマリウスは何故か足を止めた。


「それとも・・・これを機に、もっと2人の距離を縮めるのはいかがですか?ここはまさにぴったりの場所ですよ?」


マリウスは上を見上げながら言う。


「?」

私もマリウスにつられて上を向いて・・・固まってしまった。もう嫌だ、我慢の限界だ。冗談にしては行き過ぎている。


「マ・・・マリウスの・・バカーッ!!」


バッチーンッ!!

セント・レイズシティに平手打ちの音が響き渡るのだった・・・。



 寮へ戻ると、私は自分のバッグをベッドの上に放り投げた。バフンッ!鈍い音を立ててバッグはベッドの上でバウンドする。

全く、今日は最悪の1日だった。変な4人組の男に狙われるわ、マリウスが助けに来てくれたのは良いが、その後はずっと一緒であまつさえ、最期に連れて行かれた場所が・・・っ!まずい!非常にまずい!このままでは本当に私の貞操の危機が・・っ!

それともあれはマリウスなりの冗談だったのだろうか?本当にマリウスがますます分からなくなってくる。あの男はデンジャラスな危険人物なのだろうか・・・?


 結局マリウスに付きまとわれていた為、大好きなお酒も買って帰る事が出来なかった。なので・・・・。


「よし、サロンへお酒を飲みに行こう!」

私はショルダーバッグを持ってサロンへと行き、そこで初めて衝撃の事実を知る事になるのだった―。









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