仮装ダンスパーティー裏話 その③

アラン王子の場合


 グレイにルーク・・・あいつらは俺の従者のくせに最近生意気だ。俺が思いを寄せているジェシカをあの2人も狙っているからだ。従者のくせに・・・っ!

あいつらにだけは絶対にジェシカを渡す訳にはいかない。なのでこの俺自身が直々に衣装を用意してやった。それは海賊の衣装だ。海賊と言っても下っ端が着るようなみすぼらしい衣装だ。あいつらに当日はこの衣装を着るようにと手渡したら、グレイもルークも嫌そうな顔を隠しもせずに受け取っていたっけ。

 この俺の前であのような表情をするようになったとは、大分人間味が出てきたようだ。しかし、悪かったな。ジェシカを好きになったお前たちが悪いのだ。他の誰かだったなら俺だって祝福したし、力になってやれた。なのに何故だ?何故お前たちは寄りにもよってジェシカを好きになった?

 正直に言うと・・・俺は不安だったのだ。どうも俺に対するジェシカの態度が違う気がする。他の連中には緩い態度を取っているのに、何故か俺に対しては居心地が悪そうな、困ったような態度を見せるのだ。ジェシカはそれを隠しているつもりなのだろうが・・・こう見えても俺は勘が人一倍鋭い。もっともっと強引にジェシカに迫らないと、きっと彼女は俺から逃げて行ってしまうだろう。

 俺の何が不満だと言うのだ?それをはっきり言ってくれれば俺はお前の為に努力をするのに・・・。だから今回の仮装ダンスパーティーは俺とジェシカの仲を一気に深めるチャンスなのだ。悪いが、他の奴等には絶対にジェシカを渡す訳にはいかない。

 

 俺は仮装ダンスパーティーに黒の上下のタキシードに黒いマント、そしてシルクハットをかぶって会場へと足を運んだ。今回の俺の仮装のコンセプトはずばり、マジシャンだ。その為にマジックの練習もしてきた。

上手くジェシカを誰よりも早く見つける事が出来たら、2人きりになれる場所へ移動し、シルクハットから大輪の薔薇の花束を出す。

よし、これでばっちりだ。練習だって散々したのだから、本番にしくじるようなへまはしない。


 それにしても、すごい人混みだ。うん?あそこにいるのはダニエルか?何故か女生徒達に囲まれて困惑している。あいつにもジェシカは渡せないな。あいつの元へ行けば将来的に見ると、愛人の1人にされてしまいかねないからな。


 グレイとルークは・・・お、いたいた。それにしてもあいつらはあんな壁際にいてジェシカを探す事が出来るのだろうか?多分あの2人はもう賭けを諦めているのだろう。俺の作戦は上手くいった。


 向こう側では何事か騒がしいようだ・・・。ああ、納得だ。あれは生徒会長ではないか。威厳を保とうとしているつもりなのだろうが、どうにも俺と衣装が被っているような気がしてならない。だが、生徒会長の着ている衣装は全身黒づくめの軍服だ。

それにしても腰に付けているあの皮の鞭は一体何なのだ?意味が分からない。

 あんな仮装をしていれば逆にジェシカから恐れられると言う事に気が付かないのだろうか・・・?本当におかしな生徒会長だ。


 ライアンとかいう男は何故かボーイの格好で働いているから、多分あいつにもジェシカを見つける事は不可能だろう。マリウスはこの賭けには参加しないと言ってるし・・となると、俺の今一番厄介な相手は今ここに姿を現していないノア・シンプソンかもしれない。一体あの男は何処にいるのだ・・・?


 その時、俺は1人の女性と目が合った。

まさかジェシカか?

彼女に雰囲気がよく似ている・・・。暫く見つめあっていると、やがて彼女はゆっくりと俺に近付いてきて、俺の眼前で足を止めた。

アイマスクの下にある目は、ジェシカによく似た釣り目。更に口元にはジェシカと同じホクロがある。

 とても美しい女性だった・・・。


「ジェシカか?」

俺は恐る恐るその女性に尋ねてみると、何故か彼女は頭をゆっくり左右に振る。

今のは一体何を意味しているのだろう・・・?

俺もどんな態度を取れば良いのか分からず、佇んでいると突然女性は俺の袖を引っ張った。

「何処かへ連れて行くつもりか?」

俺が尋ねると、今度ははっきりと頷く。そうか、ジェシカはこの女を使って、俺を自分の元へ連れてくるつもりなのだな? そう思った俺は黙って女性の後を付いて行く。そこは園庭だった。ジェシカは・・・いない。

「おい、ジェシカは一体どこにいるのだ?」

そこにいたのはピンク色がかかったブロンドの女生徒に、眼鏡をかけた気の弱そうな女生徒だ。

それにしても・・・あのピンクの髪の女の衣装は一体何だ?野暮ったいグレーの衣装にツギハギだらけの衣装だ。いくら仮装だとしても、あれは少しやり過ぎだ。受付で入場を拒否されたのではないだろうか・・・?


 そう考えていた矢先、事件は起こった。突然ピンクの髪の女が眼鏡の女生徒の頬を

平手打ちしたのだ。


 何故か、その姿を見た時に俺の血が沸騰するかのような怒りを感じた。

そして叩いた女の顔を憎悪を込めた目で睨み付ける。女はビクリと震え、目に涙を浮かべたが、そんなのは知った事では無い。


「君、大丈夫か?このハンカチを濡らして冷やしたほうが良い。」

気付けば俺はメガネの女性に寄り添い、優しく言葉をかけていた。一体何故なのだろう?更に噴水のある場所に移動するべく、俺は彼女の肩を抱いて歩き出していたのだから・・・。まるで自分の身体がコントロールできないかのような行動を取っている事に驚くばかりだ。

 噴水のある公園まで彼女を連れて移動すると、俺はハンカチを濡らしてそっと赤く腫れてしまった女生徒の頬に当てた。

途端にビクリと震える彼女。


「そ、そんな。アラン王子様、自分で出来ますわ。」


 戸惑う彼女。眼鏡をかけたこの女性はけっして美しい容姿をしている訳ではない。人並みレベルと言ったところで、絶世の美女であるジェシカの足元にも及ばない。

だが、それなのに俺はこの女性がたまらなく愛しく感じてしまう。

一体何故なのだ・・・?今夜初めて会ったばかりだというのに・・・。


 もう俺の中でジェシカを探す事等はどうでも良くなっていた。今はこの女性の側にいたい・・・。気が付けば俺は彼女を抱きしめていた―。




マリウスの場合


 本当に女性というものは不便だとつくづく思いました。こんな歩きにくいドレスに靴を履かなくてはならないなんて。

 お嬢様には悪いですが、私は随分遅れて会場入りをしました。そして中へ入ると同時に何人もの男性に声をかけられましたが、慌てて逃げる有様です。

他の男性陣達になるべく姿を見られないように移動しながら、ジェシカお嬢様の仰っていた園庭を見ると、そこにいたのは正にストロベリーブロンドの女生徒です。

 こうしてはいられない!私はアラン王子に近付くと、何とか彼を園庭へと連れ出す事に成功しました。

しかし、あのような結果になるとは誰が予想したでしょう。ジェシカお嬢様が仰っていた女性はかなり気が強い方のようで、一緒にいられたお友達の頬を思い切り叩いたのですから。


 いえ、それも驚きなのですが、一番衝撃的だったのはアラン王子です。平手打ちされた女性の元へ真っ先に駆け寄ると、優しく声をかけるので、我が目を疑いました。

その方を見つめるアラン王子の目は正に恋する男性のようにも見えました。

本当に驚きです。王子はお嬢様一筋だと思っていたのに、その女性に恋に落ちてしまったようです。

只、お嬢様の予想していたお相手ではありませんでしたけど・・・。


 ともかく、無事お嬢様は賭けに勝ったのです。

本当に良かった・・・・。


これで私の以前から立てていた計画を実行する事が出来るのだから―。













 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る