第10章 7 波乱の仮装ダンスパーティー開幕②

 コホン・・・。 

私は咳払いした。

「そ、それじゃマリウス、カーテンの奥でこのドレスに着替えて来てね。」


するとマリウスからとんでも無い台詞が飛び出してきた。

「お嬢様・・・申し訳ございませんが、着替えるのを手伝って頂け無いでしょうか・・・?」


はい・・・?今何と言った?私の聞き間違いではないだろうか?

「ごめんね、マリウス。もう一度言ってくれる?」


「はい、ジェシカお嬢様。どうか私の着替えを手伝って頂けますか?」

美少女マリウスは真顔で私に言う。


着替え・・・着替えを手伝う・・・?!

「ちょ、ちょっと待ってよ!私が手伝える訳ないでしょう?!何とか自分で着替えてよ!」

大袈裟に手を振りながら断る私。しかし、マリウスは困った顔で私に懇願する。


「けれど、そのような事を言われても私は女性のドレスは愚か、下着すら着たことが無いのです。何やらエマ様達が、<コルセット>なる物が必要だと言われて購入してみたのですが、このコルセットすらつけ方が分かりません。」


 た、確かに今は可憐な美少女へと変貌を遂げているマリウスではあるが、所詮は仮の姿。しかも後数時間もすれば男性へと戻るのである。そんなマリウスにコルセットの付け方など分かるはずも無く、エマ達もそこまで教えてはいなかったのであろう。

し、仕方が無い・・・。


「マリウス・・・そのコルセット、取り合えず私に見せて・・・くれる?」


「はい、分かりました。こちらです。」


 マリウスが差し出してきたコルセットをまじまじと見つめる。うん、確かにブラックのコルセットだ。デザインは・・・ほっ。良かった・・・。バックで紐を結ぶタイプか。これなら・・・何とか手伝ってあげられるかもしれない。


「マリウス。取り合えず下の服はそのままで、上半身の服を全て脱いだら、このコルセットと頭から被って、私を呼んでくれる?その際、必ず背中を向けていてよ!」

ここだけは念を押して置く。


「はい・・・分かりました。」


 マリウスは着替えを全て持つと、カーテンの奥へと消えて行った。ふう・・。それにしても、仮装ダンスパーティーの時間まで2時間を切ったのだが、色々あって既に疲れ切ってしまった。ああ・・・もうパーティーなど出ないで、寮の自室でゴロゴロして過ごしたい物である。

 等と考えていると、中からマリウスの声が聞こえてきた。


「お嬢様・・・取り合えず着替えて見ましたが・・・。」


「分かったわ。それじゃカーテンを開けるから、いい?マリウス。絶対背中を向けているのよ?私の方を見ないでよ?」


「はい、分かりましたが・・・けれども何故ですか?」


 マリウスの不思議そうな声が聞こえてくる。私だって、何故自分でそう思うのかと問い詰められても上手く理由が答えられない。けれども・・・今は女性の姿をしていても所詮、マリウスは男性。心は男性の着替えを手伝うのは何となく気がひけてしまうのだ。


「そ、それじゃ・・・カーテンを開けるわね。」

シャーッ。

カーテンを開けると、そこには背中を向けたマリウス(女性)の姿があった。真っ白な背中に細くくびれた腰・・・。やだ!どう見ても女じゃない!

「じゃあ、背中に・・ついているリボンで・・結んでいくから・・・ね。」


「はい、よろしくお願いします。」


素直にお礼を言うマリウス。私は震える手でコルセットの紐を縛り上げていく。

「は・・はい、出来たわ。後は・・ドレスを着たら声をかけてね。」


「ええ?!こんな複雑なドレスを自分1人で着ろと言うのですか?!」

何とも情けない声を上げるマリウス。


「だ、大丈夫よ!ほら、このドレスの構造をよく見て!この蝶の羽、良く見たらマントになってるじゃないの!だから先にこのドレスを頭から被って、脇の紐・・・は、私がまた縛ってあげるから、ね?その後、このマントを被ればオッケーよ!」

私はドレスをあちこち見ながら、必死でマリウスを説得した。


「分かりました・・・。では試してまいりますね・・・。」

マリウスは再びドレスを抱えるとすごすごとカーテンの奥へ消えて行った。


「ふう・・・・。」


 溜息をついて、椅子に崩れるように座ると天井を仰ぎ見た。全く・・何故こんな面倒臭い事になってしまったのだろう・・・。


「お嬢様、着てみました。どうでしょうか?」


 マリウスが若干興奮気味にカーテン奥から出てきた。その衣装は本当に今のマリウスに良く似合っていた。


「おお~っ!凄い!何てよく似あっているの!まるでマリウスの為に作られたドレス見たいじゃ無いの!」

私は心から感心して拍手をするが、当の本人はあまり嬉しくなさそうである。


「そんな風に褒められても、何故か複雑な気分ですよ・・・。」


そういうものなのだろうか?本当にすごくよく似合っているのに。


「お嬢様、きちんとドレスを着る事が出来ているか確認して頂けますか?」


マリウスがお願いするので、私は前後左右をくまなく調べる。うん、大丈夫みたいだ。

「平気よ、何の問題も無く着こなせているわ。はい、後はこのマントを羽織って・・・。」

私はマリウスの背後に回り、マントを被せようとして・・・いきなり前を向いたマリウスが振り向き、突然強く抱きしめられた。


「ち、ちょっと!!な、何するのよ、マリウス!」


「ジェシカお嬢様・・・私は今女性です。なので女性同士なら構いませんよね?」


そう言うと、私を抱きしめたままグググッと顔を近づけて来る。な、何を考えているのよ、コイツはッ!!


「は、放しなさいってば!」

何とかマリウスを押しのけようとしても、同じ女性なのに信じられない位に力が強い。しかもよく見れば身長だって私よりは高い。う・・・っ!流石元々は男だ。しかしこれでは身長でアラン王子にバレてしまうのでは?等と今マリウスに襲われかけているのに違う事を考えている自分がいる。


「おや?どうしたのですか?お嬢様。今私と2人きりなのに・・・もしや別の男性の事を考えたりしていませんか?」


 言いながら、尚も私に迫って来るマリウス。な、何なの?!マリウスって本当はこんなキャラだったわけ?!

「い・・いい加減にしなさいよ!ふざけないで!今、こんな事している場合じゃ無いの分かってるでしょう?!」

マリウスの腕から逃れようともがきつつ、必死で叫ぶ私。


「それでは無事仮装ダンスパーティーでジェシカお嬢様を守り抜き、アラン王子をソフィー様と引き合わせる事が出来れば構わないのですよね?」


マリウスは私を強く抱きしめたまま、耳元で悪魔のように囁く。


「そ、そうね!本当にそんな事が出来ればね!」


気付けば私は解放してもらいたい一心で捨て鉢な気持ちで叫んでいた。

はっ!し、しまった・・・・。


するとマリウスは私の身体を放し、笑みを浮かべると言った。


「ではお嬢様、私がお役目をきちんと務め上げた暁には・・・先程言った約束、必ず守って頂きますよ?」


 ヒイイッ!こ、怖い・・・またマリウスが得体の知れない人物へと変貌してしまった。最近のマリウスは絶対におかしい!まるで何かに操られているようだ。大体こんなキャラじゃ無かったでしょう?!貴方は!

 ジェシカに虐められ、踏みつけられるのが好きだったはずなのに・・・もしかしてMのスイッチが入り過ぎて、とうとうおかしくなってしまったのだろうか?

 それにしてもどう転んでもこれでは私には悲惨な結末しか残されていないではないか。アラン王子達の誰かに捕まれば、その男性とクリスマスを過ごし、結婚を前提?としたお付き合いをしなければならない。もし、この相手がアラン王子や生徒会長だとしたら私の人生は終わりだ。

 かと言って、マリウスの手助けで私が仮装パーティーの時間を逃げ切り、尚且つ、ソフィーとアラン王子をマリウスが上手く引き合わせる事が出来たなら、私を自分の好きにするとでも言うのだろうか?

 私はつくづく思った。 

ああ、本当にこのまま逃げたい・・・・と。









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