第10章 6 波乱の仮装ダンスパーティー開幕①
いよいよ本日は私の運命を決める?仮装ダンスパーティーの開催。
ここは匿名で借りた特別準備室である。私とマリウスは誰にも見つからないように別々にこの部屋にやってきた。最もこの部屋は今では殆ど使われる事の無い旧校舎を改装した部屋なので滅多に学生が足を踏み入れる事は無い。
私とマリウスの準備は余念が無かった。パーティーは18時から始まるが今の時刻は15時。早目に準備と打ち合わせをする事にしたのだ。私の衣装は真っ黒のワンピースに白いエプロン、頭にはホワイトブリムを被る。そして変装の為のメガネに、何故かマリウスから髪の毛をお団子に結い上げたシルバーのカツラを手渡されたのだ。
「ねえ・・・。マリウス、念の為に聞くけど、何故カツラがシルバーなのかな?」
マリウスにシルバーのカツラを渡された時、私は尋ねた。
「ええ?お嬢様。それを私に訊ねるのですか?そんなのは当然では無いですか。私の髪の毛の色がシルバーだからです。フフフ・・・。お揃いですね、お嬢様。」
ゾワゾワッ!またしてもマリウスが何やら気色悪い事を言ってきたが、ここは聞こえなかったフリをしておこう。
「ねえ、マリウスはどんな仮装をする事にしたの?」
私は興味津々に尋ねた。実はエマ達からもどんな仮装をするのか聞いていなかったのだ。
「はい・・・私がエマ様達にジェシカお嬢様に変装する話をしたところ、この衣装を勧められて・・・。」
マリウスが私に見せてきたのはまるでアゲハ蝶の様な模様が描かれたドレスであった。しかもご丁寧に肩から指先にかけて広げると蝶の羽の様なマントまでついている。
さらにマリウスは付属品ですと言ってアイマスクも見せてきた。一応、仮装ダンスパーティーでは、顔全体を隠す仮面は禁止されているが、目元を隠すアイマスクのみなら着用可となっているのだ。やはりこれもアゲハ蝶の様な柄になっている。
「こ、これは・・・。」
「はい、アゲハ蝶のドレスです。エマ様達のジェシカお嬢様のイメージは、どうもこの様なイメージらしく・・・。」
マリウスの言葉に私は苦笑するしか無かった。そうなのか。アゲハ蝶のイメージなんて、まるでキャバ嬢みたいだ。確かにこの外見ではその様に見られても仕方が無いか・・・。
「このアイマスクを着ければ誰か殆ど分からなくなりそうね。」
私は言った。ただ、メイドの姿をした私に注目されては意味が無いので、ある程度はマリウスを私に見えるように変装させなければ意味が無い。
何故ならマリウスにはもう一つ、重要な役割があるからだ。それはアラン王子をソフィーに引き合わせる事。
マリウスはそもそもソフィーの顔を知らない。ストロベリーブロンドの色をした髪色だとは説明してあるが、たったそれだけでソフィーの事を分るはずもない。
なのでソフィーが現れたら、私がマリウスに伝え、マリウスがアラン王子を誘導?して2人に運命的な出会いを与える・・・これが私の考え出したシナリオだ。
しかし、マリウスは私がソフィーの事を話すと、表情を曇らせた。
「お嬢様・・・本当にアラン王子とソフィー様を引き合わせて、良いのでしょうか・・・?何だか嫌な予感がするのです。」
でも本来の小説ではソフィーとアラン王子が中心でなければならないのだ。そして私は悪女のポジションで・・・。ただ、今の私は友人もいるし、私の味方になってくれそうな男性達もいる。だから、恐らく大丈夫・・・だと思いたい。
でも、もしマリウスの予感が当たったら?その時は・・・逃げるしか無い。
その為にも今から逃亡する為の準備はしておくべきだろう。でもあの夢通りなら私は逃げれない。
「お嬢様?どうされたのですか?」
急に黙り込んだ私を見てマリウスが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫、何でも無いから。それじゃ、まず私から着替えてくるね。」
私はメイド服を抱えると、カーテンで仕切られた隣の部屋へと移動する。
「はい。それにしても仮にも名門リッジウェイ家のお嬢様がメイドの格好をするなんて・・・。」
マリウスの嘆く声が聞こえてくる。ふん、余計なお世話よ。元々私はドレスを着たい等の願望は無いのだから。
まず黒の長袖ワンピースに袖を通す。このワンピースはスカート丈がくるぶしまであるロング丈のプリンセスラインのワンピースである。日本人の私にとってはこれだけで十分素敵だと思うのだけれど・・・?そしてフリル袖の長いエプロンを着用してみる。おおっ!我ながら似合ってるかも・・・。鏡の前でクルリと回ってみる。うん!すごくいい!
でもこの姿では単にメイドの服を着ただけに過ぎない。私だとバレバレだ。
そこで自分の髪の毛を纏めて縛ると、マリウスが用意したシルバーのカツラを被る。すると一気に雰囲気が変わった。更にメガネをつけ・・・実はこのメガネはマジックアイテムでこのメガネを装着すると瞳の色が変化するのだ。私はこのメガネで自分の瞳の色を青色に変える事にした。
「どう?マリウス。」
カーテンを開けて出てくるとマリウスはポカンとした顔で見て、やがて頬を真っ赤に染めると言った。
「お、お嬢様・・・お美しい・・・何てお似合いなんでしょう・・・っ!素敵すぎです。どうか私に『ほらっ!さっさと飲物を選びなさいよ、このグズッ!』と言いつけて下さい!」
メイドの格好しただけで、またマリウスのMのスイッチが入っちゃったよ。いや、今はそんな事をしている場合では無い。
「そんな事よりもどう?まだ私だとばれちゃうかな?」
「ええと・・・そうですね。お嬢様は美し過ぎるので、メイドには見えないオーラを発していますね。う〜ん・・・そうだ!まずその口もとのホクロを化粧で隠して、ソバカスを描いてみてはどうでしょうか?私が試してますよ。」
マリウスの提案に私も乗ることにした。
「そうね、マリウス。お願い。」
「はい、お任せ下さい。ではお嬢様、少しの間、目を閉じて頂けますか?」
言われた私は素直に目を閉じる。
マリウスが私の顎を掴み・・・いつまでもたっても化粧をされる気配が無い。
「?」
何だろう、目を開けて私は心臓が止まる程驚いた。何と眼前に同じく目を閉じたマリウスが私にキスしようとしているでは無いか!
「キャアアアアッ!!な、何しようとしてるのよ!馬鹿、変態!」
私は大声で叫び、2m程一気に後退った。
「あ、申し訳ございません。ついこの間のお嬢様との口づけの余韻が・・・。」
マリウスは悪気が無さそうに言う。こ、この男は・・・っ!ひょっとすると、私が今一緒にいて、貞操の危機を感じる相手はマリウスなのかもしれない。
紆余曲折あったが、マリウスのアイデアでほくろを消し、ソバカスを付けた私は何処から見ても、私だと気付かれないだろう。
さて、次はいよいよマリウスの番だ。
「では、お嬢様。薬を全て飲みますね。」
マリウスは女性化するドリンクの蓋を開けると、一気に飲み干した。固唾を飲んで見守る私。すると徐々にマリウスの身体に変化が起き始めた。まず身長が縮み、身体が丸みを帯びて、ほっそりしてくる。髪の毛は肩先迄伸びて瞳は大きくなり、唇はふっくらとピンク色に染っている。
まさにそこにいるのは絶世の美女だ。マリウスのあまりの美しさに思わず私は見惚れてしまった。
「いかがでしょうか?お嬢様。」
頬を染めて、私を見つめるマリウス。か、可愛すぎ・・・こんなに可愛いのだから、わざわざ私の姿に変装する必要は無いのではないだろうか・・・?
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