第9章 9 私の本当の魔力とは

 お腹一杯先生の手作りランチを食べ、2人で散々泣いた後は妙にすっきりした私達。

そこで私は先生に尋ねてみる事にした。

「あの、ジョセフ先生。一つお聞きしたい事があるのですが・・いいですか?」


「うん。いいよ。僕に何を聞きたいの?」

先程の悲し気な声とは反対に明るい声の先生。


「ジョセフ先生・・・。先程リングの付いたネックレスを握りしめていましたけど、あれはもしかすると結婚指輪だったのですか?」


私が質問すると先生はきょとんとした表情を見せた。

「え?もしかして・・僕はそんな事していたの?」


「先生、気が付いていなかったんですか?」

今度は私が驚く番だった。


「そうか・・・無意識のうちに僕はネックレスを握りしめていたんだね・・。」


言うと先生は再びネックレスの先に付けられたリングを強く握りしめた。


「そうだよ。リッジウェイさんの言う通り。これは僕の妻の形見の品なんだ。ネックレスは僕が妻に結婚前にプレゼントとしたもので、このリングは結婚指輪だったんだ。僕に残され妻の遺品は・・これだけだったんだ。残りは全て彼女の両親が持ち去ってしまったからね・・。」


「ジョセフ先生・・・。」

ど、どうしよう。また先生の辛い過去を掘り返してしまった!


「フフ。そんなに慌てた顔をしなくても大丈夫だよ。リッジウェイさんのお陰で、妻の思い出だけでも僕はこの先やっていけそうな気がするから。」


そう言ってほほ笑むジョセフ先生にはもう以前のような陰りのある笑顔では無くなっているように感じた。


 その後も2人でたわいのない話をしている内に気が付けばもう午後の魔法の補講訓練が開始される時間となっていた。


「先生、午後の訓練がそろそろ始まるので、私もう行きますね。お昼ご馳走様でした。とっても美味しかったです。」

お礼を言って立ち上がると、先生が私を呼び止めた。


「リッジウェイさん、僕も一緒に行ってもいいかな?」


「え?ジョセフ先生が・・・ですか?」

急に何を言い出すのだろう?


「うん、実はね。僕が持ってきたマジックアイテムで君の魔法の能力の鑑定を魔法学の先生と一緒に検証したいと思ってね。


おお~っ!それは素晴らしい考えです!確かに魔法学の先生に私の魔法の能力がどのようなものかを見て貰えれば、私の特性に合わせた訓練を考えてくれるかもしれない。




「先生、どうぞよろしくお願いします!」

そして私は今、教室でジョセフ先生と午後から担当が変わった魔法学の男の先生と一緒にマジックアイテムを使い、魔法能力鑑定を行おうとしている。


「ほう・・・これは今迄見たことが無いアイテムですねえ。」


 口髭を生やし、まるでマジシャンのような衣装を着た年齢不詳の先生が感心したように言った。

 ジョセフ先生が持ってきたマジックアイテムはまるで地球儀のような形をしていた。台座に丸い大きな水晶が周囲を軸のようなもので囲まれ、上下で水晶が固定されている。しかもその丸い水晶の中にはさらに二回りほど小さい球体が閉じ込められている不思議な構造をしていた。


「このマジックアイテム『アプレイザル』に触れると、触れた相手の能力に反応して様々な色に発光するようになっているんだ。魔法の能力はオーラの色によって決まっているんですよね?」


ジョセフ先生は魔法学の先生に尋ねた。


「ああ、そうだな。ちなみに私は水の属性が強い魔法能力を持っているので、オーラカラーは当然ライトブルーだ。」


「では、試してみてください。まずはこの水晶に触れてみてください。」


ジョセフ先生に言われた、魔法学の先生は頷くと水晶玉に手を添えた。すると途端に水晶玉の中央に埋め込まれている球体から青い海のような色が滲みだし、徐々に水晶玉全体を水色に染めた。


「おおっ!確かに間違いない!こんなマジックアイテムアあるとは知らなかった!」


魔法学の先生はすっかり興奮している。


「ちなみに僕のように魔力が無い人間が触っても、この『アプレイザル』は何の反応もしないんだよ。それじゃ、リッジウェイさん。君も試してごらんよ。」


ジョセフ先生に勧められる私。


「は、はい・・・・。」

しかし、返事をしたものの私は触れるのをためらってしまった。もし私が触れても何の反応も無かったら?すぐに学長に話が届き、よくて退学、最悪この学院を騙したと言う事で裁かれてしまうのでは・・・?けれども迷っていても仕方が無い。ここは覚悟を決めよう。

「で、では・・触れてみます・・・ね・・。」

そ~っと手を伸ばし、水晶にピタリと触れる。

2人の先生は私の左右から水晶玉を覗き込み、事の成り行きを見守っている。


 すると・・・徐々に水晶玉に変化が表れ始めた。

水晶玉の中央からじわじわと赤い色が滲み始め、やがては水晶全体に広がり始めた。

さらに赤い色が水晶玉を完全に満たすと、何と今度は水晶玉からピンク色のモヤが漏れ出してきたのである。

えええ?!な、何よ!これ!まるで部屋中がピンク色のスモークをたいているかのような状態になっていく。


「お、おい!君!早くその水晶玉から手を離すのだ!ピンク色の煙のせいで何も見えんぞ!」


もはや部屋中はピンクの煙に包まれ、お互いの姿が見えない状態になっていた。


「リ、リッジウェイさん!水晶玉から手を放して!」


見えない場所でジョセフ先生も慌てている。


「は、はい!」

手を離すと、すぐに辺りに立ち込めていたモヤは掻き消え、いつもの見慣れた教室に戻っていた。


「い、今のは一体・・・?」

訳が分からず呟く私。すると、魔法学の先生が大声で叫んだ。


「な、何てことだ!君・・確か名前はリッジウェイさん・・・でいいんだっけ?」


「はい、そうです。」

先生・・・補講を受け持っている生徒の名前、きちんと覚えてくださいよ。


「君の魔力は・・・『魅了』だ。しかも魔力がダダ洩れ状態じゃ無いか!これでは君の魔力にあてられ、魅了されてしまう人間がいてもおかしくはない。何か心当たりは無いかね?」


「はあ・・『魅了』の魔力ですか・・。」

でも、待って。確かに心当たりならあり過ぎる。アラン王子や生徒会長、そしてその他の男性陣達・・・・私は無意識のうちに彼等を魅了の魔法にかけてしまっていたと言う訳なのか?でも、はっきり言ってそんな魔力なら私は欲しくない。


「君の持つ『魅了』の魔力が強すぎるので、他の魔法の能力を開花させる事が恐らく出来ないのだろう。」


何だか絶望的な事を言われている気がする。

「そ、そんな・・・それじゃ私これからどうすればいいのですか?」


「う~ん・・・。」


魔法学の先生は腕組みをして、暫く考え込んでいたがやがて言った。


「それは分からん。」


「「ええ?」」


私もジョセフ先生も困惑した声を思わず上げてしまった。しかし、私達の困惑を気にする事も無く魔法学の先生は言った。


「まあ、君が強い魔力保持者だと言う事は取りあえず分かったのだから、良しと言う事にしておこう。訓練を続けて行けばその内、別の魔力にも目覚めるかもしれないし・・・。と言う事で、今日の訓練は終わりにしよう。何だか君の魔力にあてられたようで、フラフラするのでね。」


 そして魔法学の先生は私の返事も聞かずによろよろと教室を出て行ってしまった。

後に残されたのは私とジョセフ先生。でもどんな魔力がある事は確認出来たので、私は先生にお礼を言った。


「ジョセフ先生、ありがとうございました。先生の持って来てくれたマジックアイテムで私が魔力保持者である事が確認出来たので、取り合えず退学は免れそうです。」


「うん、それは良かったよ。でも・・・これで納得出来た。」

ジョセフ先生は私を見つめると言った。


「え?納得出来た・・・ってどういう意味ですか?」


「うん、初めてリッジウェイさんを見た時、何故か懐かしさを感じたんだ。あの時はどうしてそんな風に感じたんだろうって思ったけど・・・今になってようやく分かったよ。リッジウェイさん・・・。君は僕の妻だった女生と同じタイプの魔力保持者だったんだね。だから、こんなにも強く・・・僕は君に惹かれてしまったのかもしれない。」


え?先生、今何を・・・?

そしてジョセフ先生は私の耳元に口を寄せると言った。


「君が好きだよ。」

と―。






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