第9章 6 紛糾する会合

 目覚ましの音で私は目が覚めた。でもいくら寝ても、ちっとも疲れが取れていない。

これもそれも全ては昨夜の会合のせいだ・・・。今日から2日間魔法の補講訓練が始まると言うのに・・・。朝から重苦しいためいきをついた。


 昨日は何故かカフェテリアを貸し切って?(正確に言えば他の学生達が異様な雰囲気の私達に恐れて逃げ出した。)決起集会の様な会が行われたのだった。




それは昨夜の事・・・。

 その会合はいきなり開催された。今迄不在で、何も話を聞かされないまま呼び出されたマリウスは訳が分からないという感じで座らされている。

私は何故か、お誕生日席の様な場所に座らされ、私から向って右の席に手前からアラン王子、ダニエル先輩、グレイ、ルーク。そして左側の前から順にノア先輩、ライアン、マリウス、おまけで生徒会長が、席に着いていた。

 生徒会長は何故自分が末席に座らなければならないのだと文句を言っていたが、誰もが聞こえないフリをしていた。

 マリウスは先程から、チラチラと私を見つめ、一体これはどういう事かと目で訴えて来ている。う・・そんな目で見ないでよ。こっちが知りたい位なんだから。

 私とマリウスが目を合わせている事に気付いたのか、アラン王子が抗議する。


「こら!そこの2人、見つめ合うなっ!ジェシカ、お前が見つめていい相手は俺だけだっ!」


出たっ!俺様王子。本当にどんな育ち方をすればこんなに、我が儘になるのだろう?


「アラン王子、僕の恋人を怒鳴る権利は貴方には無いけどな。」


嗜めるように話すダニエル先輩。あの、いつまで恋人設定続くのですか?


「僕の女神を恋人呼ばわりするとは、相変わらず君は図々しいね。」


ダニエル先輩を挑発するように語るノア先輩。


「な、何?!ジェシカ、恋人ってどういう事だ?それに女神って何の事だ?」


驚くライアン。そりゃあそうだよね。今迄こんなやり取り聞いた事が無ければ誰だって戸惑うに決まってる。他のメンバーはもう何度もこんな会話を繰り返し聞いているので最初の頃はいちいち反応していたが、今では会話の中心人物以外はスルーしている。う~ん・・・すっかり慣れ合いの仲と化しているようだ。


「うるさい!新参者は黙っていろっ!!」


鬼畜な生徒会長が一喝する。仮にもまともなライアンにあんな口を叩くのは許されない。

「いいえ、黙って頂くのは生徒会長、貴方です。」

私はピシャリと言ってやった。


「ジ、ジェシカ、何故俺にだけ意見するのだ?何故だ?何故なんだあっ?!」


 例の如く大袈裟によろめいて喚く生徒会長。あ〜もう相変わらず鬱陶しい。いっそ生徒会長など辞めて演劇部に入部して下さいと言ってやりたい。いつもいつもその上から目線と大袈裟な態度が気に入らないのよ。 

大体何故1番邪魔なアラン王子と生徒会長が偉そうにこの場にいるのだろう。 


「「生徒会長、お静かにして下さい。」」


グレイとルークが綺麗にハモる。おおっ!あの生徒会長に意見したよ。少しは見所が出てきたじゃないの。よし、このまま頑張れ、グレイにルーク。


「あ、あの〜。一体これは何の集まりなのでしょうか・・・?そろそろ教えて頂けませんか?」


 ついに痺れを切らしたマリウスが、恐る恐るその場の全員に声をかけた。


「よし、ならこの俺から説明してやろう。」


 偉そうにアラン王子がしゃしゃり出る。やっぱり出てきた俺様王子。でもはっきり言って一番この場にいて欲しくない人物なのだが・・(生徒会長も含めて)。


「今度の仮装ダンスパーティーでジェシカは我々に秘密の仮装をしてパーティー会場に潜り込む。そのジェシカを見つける事が出来た男が冬の休暇、クリスマスを2人きりで過ごす事が出来ると言う賭けをする事になったのだ。」


話を随分簡単にまとめたが、言ってる事は間違えていない。と言うか、私は一言も承諾しておりませんけど?!何故誰も私に意見を聞かないし、発言の場すら与えてくれないのだろう?こんなの理不尽極まりないし、どうせ私の話に耳すら傾けないのなら、今私はこの場にいる必要は無いだろう。

 

 しかし、マリウスはアラン王子の話を聞いて顔色を変えた。


「何ですって?!皆さん、落ち着いて下さい。お嬢様は本当にそれを承諾しておいでなのですか?!」


おおっ!マリウスが今この場で神様に見える。そうよ、今私にこの場で発言権を与えてくれるのはマリウスしかいない。普段はどうしようも無いM男が今はとても頼りがいのある男性に思えて来る。


「「いや、ジェシカの意見など必要は無い!」」

 

 何故か全く同じタイミングで同じ発言をするのはやはり俺様王子と暴君生徒会長だ。流石に残りのメンバー全員は黙って私を見つめている。それでも今回ばかりはマリウスは引かない。


「お嬢様の意見が一番尊重されなくてどうするんですか!それに、ジェシカお嬢様、旦那様に何と説明されるのですか?ご自宅に戻らずに他の方の領地でクリスマスを過ごされるなど、とても旦那様がお許しになるとは思えません!」


必死で言うマリウス。そうか、ジェシカの父親という人物の事は小説でも触れなかったので全く不明だが、娘を溺愛する父親なのかもしれない。それなら心配するよね。大事な娘がクリスマスを他所の男の家で過ごすようなものなのだから、当然黙って見過ごすはずは無いだろう。


するとそこへアラン王子。


「ふん、我々はもう子供では無いのだ。親の言う事等いちいち聞く必要は無い。手紙で断りを入れるだけで十分だろう。何の問題も無い。」


いやいや、問題だらけでしょう。手紙で『クリスマスは他の男性の家で過ごします』等の手紙を出したところで家族が許すはずは無い。それなのに・・・。


「確かに、アラン王子の仰る通りですが・・。」


口籠るマリウス。何いいっ?!手紙で断るだけで大丈夫なのか?!何て緩い世界なのだろう・・・。


「そ、それなら・・・どうしても皆さんがそう仰るのなら、条件が一つあります。」


意を決したように言うマリウス。え?何々?何かこの状況から逃げられる良いアイデアが浮かんだの?


「私は訳あって、皆さんの仰る賭けに参加する事は出来ませんが・・・その代わり、賭けに勝った方の領地にお嬢様が行く際は、私が同行する事が条件です!そしてパーティーが終了するまでに仮装したお嬢様を見つけられなかった場合は、お嬢様は私がご自宅へ連れて帰らせて頂きます!」


 マリウスの話に異議を唱える者は誰もいなかった・・・・。

こうして紛糾?した会合は終了したのだった。



 私は昨夜の出来事を振り返り、本日何度目かのため息をついた。つまり結局はかけに勝とうが、負けようがマリウスは必ず私についてくると言う事だ。

その事をだれもが疑問に思ってもいない事に私は改めてマリウスの話術の巧みさに恐れをなした。

本当は一番食えない人物はマリウスなのかもしれない・・・。


 さて、他の皆はそろそろ町への門が開く時間なので思い思いに休暇を楽しんでくるのだろう。私は制服に着替えると、1人静まり返った女子寮を出た時に、太陽を背に誰かが立っており、私を見ると大股で近付いてきた。え?あの人は・・・?


「お早う、昨夜は悪かったな。」


私を待っていたのはライアンだった。


「あ、お早うございます。ライアンさん。」


「少しだけ話せる時間・・・あるか?」


「ええ、いいですよ。でもこれから町へ出掛けるのですよね?お友達が待っているのでは無いですか?」


「ああ、いいんだ。あいつらは先にもう行ってるんだ。待ち合わせ場所も決めてあるし。」


「それならいいんですけど。」

そして私はライアンを見上げて言った。


「それで、お話って言うのは?」


「ああ・・・俺がジェシカにクリスマスは俺の住む領地に来て欲しいなんて事をアラン王子に聞かれてしまって、あんなことになってしまっただろう?だから申し訳ない事をしたと思って・・・謝りに来たんだ。」


気まずそうに言うライアン。ああ、そんな事か。相変わらず真面目なんだなあ。

「別に気にしなくていいですよ。いつもの事なので。」


「ええ?!いつもあんな調子なのか?!」


驚くライアン。確かに普通の人達から見たら非日常的かもしれないね。


「はい、いつもの事です。」


「そうか・・お前・・苦労してるんだな・・・。」


しみじみ言うライアン。だとしたら言う事は一つだけだ。


「そう思うなら、お願いです。絶対アラン王子と生徒会長にだけは先を越されないで

下さいね?私絶対にあの2人だけはお断りなので。」

この際、あの2人以外なら誰に見つかっても構わないと思っている。

しかし、何を勘違いしたのかライアンは嬉しそうに言った。


「ああ、任せておけ!ジェシカの為に必ず俺が誰よりも早く見つけてやる!」


何だか果てしなく彼は勘違いしているようだが・・・あの2人以外なら誰に見つかっても構わないからここは黙って頷く事にしよう―。






 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る