第8章 4 事件の幕引き

 ジョセフ先生の名推理で、ここから先は驚くほどにトントン拍子に事件は解決へと向かって進んだ。

遠隔攻撃用カードのマジックアイテムは、購入時に必ず身分証明書を店で提示しなければならない。学生達が簡単に行き来出来る町と言えば「セント・レイズシティ」でしか無く、そしてその店はたった1軒しか存在していない。

 早速店へ向かったジョセフ先生は店主に今回の件を説明し、購入者名簿を見せて貰うよう頼んだ。

始めは名簿を見せるのを渋っていた店主だったが、犯罪に関わる事になるかもしれないと、ちょっとだけ?脅すと、途端に青くなった店主が店の奥から名簿を持って来たそうだ。名簿を確認してみると、炎の攻撃カードを2人の学生が購入していった記録が残されていたらしい。(攻撃用カードは1人につき1枚しか販売できなという規則がある。)

名前が挙げられたのは2名の男子学生で、やはり生徒会役員だった。

そして、今彼等は生徒会室へと呼び出されている。



「さて、君達2人が今回ライアンを襲った事に間違いは無いね?ここに2人の名前が名簿に残っているからね。」


 2人の学生を前に購入記録の写しを見せながら質問をしているのはノア先輩。

おお~こんな風に真面目な先輩は滅多にお目にかかる事はないだろう・・・。私は感心しながらノア先輩を見つめていた。

 生徒会室にいるのは、私、ノア先輩、ジョセフ先生、そして襲撃犯男子学生右からA、Bとしておこう。ついでにマリウスとルーク、謹慎室から出された生徒会長もいた。

 最初、生徒会長は何故A、Bを尋問(?)するのが自分では無いのだと騒いでいたが、今はまだライアン襲撃の疑いが完全に晴れていないので、任せられないと無理やり役員達に押さえつけられて、渋々納得した次第である。


「はい・・・。」

「その通りです・・・。」


証拠となる購入者名簿の写しを見せられたからだろう。学生A、Bはあっさりと罪を認めた。


「何故だ!何故俺を嵌めるような真似をした?!それ程この俺に恨みでもあるのか?!」


これに激怒したのは生徒会長だ。すると2人は開き直ったのか、ギラッと生徒会長を睨み付けると機関銃の如くまくしたてた。


「貴方に恨みですって?ああ、そうですよ!恨みだらけです!どれだけ俺達が貴方に恨みを持ってるかなんて、貴方には一生分かるはずなんてありませんよ!この際だからはっきり言わせてもらう!あんたはいつも生徒会の予算編成の会議で、経費と称し、自分の思うように自由に予算を使って、完全に私物化していたじゃないか!」


学生Aが言う。


「そうだ!他の倶楽部がギリギリの予算で運営しているから、もっと予算を回してくれと頼んでも、今まで一度もあんたは訴えを聞き入れたことが無かったよな!その為、俺達がどれだけ逆恨みされて、クラスでも居心地の悪い立場に置かれていたか等あんたは知る由も無いだろう!」


学生Bが言う。


「しかもあんたは面倒な仕事は全て俺達下っ端に押し付け、優雅にコーヒーや自分の好きな菓子を運営費で購入し、生徒会費を横領していたよな!」


学生A。


「ああ、そうだ。俺達を顎でこき使い、誰一人として意見を述べても聞く耳なんか一度も持ったことが無い身勝手な人間だ!貴様には生徒会長を務める資格など一切無い!」


学生B


 学生A、Bの生徒会長への言い分はますますヒートアップしてくる。もう誰も彼等を止められない。と言うか、あそこにいる役員は何やら彼等を応援しているようにも見えるけど?でもそういう私も密かに心の中で彼等の事を応援しているのだけどね。

だって気持ちはすごく良く分かる。私も生徒会長と知り合ってから、どれだけストレスが溜まっている事やら・・・。

 しかし・・話を聞けば聞くほど、やはりこの生徒会長はクズ人間だった。こんなでよくもまあ、今まで暴動が起きなかったものだとつくづく思う。

ほら、ジョセフ先生なんかドン引きしてるし、ノア先輩だって開いた口が塞がっていませんよ。先輩、美しい顔をしてるのですからどうぞお口は閉じておいて下さいね。

 彼等も余程腹に据えかねていたのだろう。最初は貴方と呼んで敬語も使って話しているのに、最期は貴様呼ばわりで敬語どころか、最早完全に喧嘩を打っているかのような口調だ。



「お、おい・・・お前らさっきから一体何を言ってるのだ?それではまるで俺が最低な人間みたいな言い方じゃないか・・?」


生徒会長がいつもと違い、語気を弱めている。おや?やはり心当たりがあるようだね?


「「そうだ!!」」


綺麗にハモる2人。


「ねえ、君達・・・ちょっと冷静になろうよ。今はそんな事を話しているんじゃないよね?2人がライアンを襲った事に間違いが無いって事は確認出来たんだから。」


その場を収めるように言うノア先輩。そして、黙って頷く学生A、B。


「じゃあ、何故マリウスとルークがナターシャの下着を盗んだと思わせる為に、2人の鞄に女性用下着を入れたんだ?」


ノア先輩の質問に、2人は中々答えない。


「答えないと、ますます罪が重くなるよ?」


ニコニコしながら言うその言葉とは裏腹にノア先輩は恐ろしいほどの強い緯線で2人を射抜く。


「そ、それは・・・。」

「頼まれた・・・からです・・・。」


「頼まれた?誰に?」


両手を顎の下で組み、質問を続けるノア先輩。


「ソ・・。」


言いかけた学生Aが頭を押さえる。


「ソ?」


首を傾げるノア先輩・・・だが私は気が付いていた。きっと彼等の背後にはソフィーがいるのだ。でも・・何か暗示でもかけられているのだろうか?名前を言おうとすると、酷く彼等は苦しみ始める。


「ナ・・・ナターシャに頼まれました・・。マリウス・グラントに恥をかかされたから・・その主人であるジェシカ・リッジウェイにも恨みがある・・と・・。」


学生Bが顔を歪めながら言う。


「ええ?!私がですか?!」


突然自分の名前を出されて素っ頓狂な声を上げるマリウス。あ、そう言えばいたんだっけ。あまりにも静かだからその存在を忘れる所だった。


「ええ?それじゃあ俺は?!」


ルークが小声で驚いたように言う。ごめんね、ルーク。貴方は完全に私達の巻き添えになってしまったのよ・・・。恨むならどうかマリウスを恨んでね。私だってマリウスのせいで散々な目にあっているのだから。


「ふ~ん・・本当にそうなのかな?君達・・誰かを庇っていない?」


その時、今まで一度も口を開かなかったジョセフ先生が言った。


「い、いえ!とんでもありません!」

「はい、ナターシャに頼まれたのです!」


学生A、Bは顔を真っ赤にしてむきになっているようにも見える。


「何故、自分たちが罪を犯してまでナターシャの悪だくみに乗ったわけ?」


じっと2人を見ながら問い詰めるノア先輩。


「「彼女を愛していたからです!!」」


 あ・・・今この2人堂々と嘘をついているよ・・・。でもこれ以上追及しても恐らくソフィーの名前が彼等の口から出てくることは無いだろう。

ノア先輩も深いため息をつく。きっと先輩も分かっている。これ以上こんな茶番劇に付き合っていられないのだろう。


「分かったよ。それで2人がマリウスとルークの鞄に下着を混入した情報をライアンに握られたので、生徒会長の仕業に見せかけて君たちがライアンを攻撃したと言う事だね?」


ノア先輩の言葉にあっさり頷く学生A、B。


「はい。」

「その通りです・・・。」


「分かった、それじゃ君達の事は学院長に報告させて貰うよ。ライアンを攻撃し、その罪を生徒会長に被せた罪は重いよ。覚悟しておくんだね?」


がっくり項垂れる学生A、B。


こうして事件は解決した。

生徒会長は元の役職へと復帰し、怪我が回復したライアンも無事復学する事が出来、今回の件は幕引きとなったのである・・・。








 

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