第8章 3 襲撃事件の裏で起こったからくり

「う~ん・・・・。」

私は外に出ると思い切り伸びをした。やっと煩わしい生徒会長の部屋から(正確に言うと謹慎室)解放されて安堵する。

制服の中のポケットに手を入れるとカサッと紙片の触れる音がした。さあ、さっさとこの手紙を焼却炉で燃やしてしまおう。

辺りはすっかり暗くなっていたが、学院内の至る所にはガス灯が灯っているし、周囲には大勢の学生が行き交っているので、まだまだ賑やかな時間帯である。


 焼却炉の前に着いた私はポケットに入っている生徒会長からの手紙を取り出した。そこで火を付ける道具を持って来るのを忘れてしまった事に気が付く。

「え~と・・・何か火を付ける道具は・・・?」

辺りをキョロキョロ見渡していると、突然背後から声をかけられた。


「どうしたの?リッジウェイさん。こんな場所で。」


 振り向くとそこに立っていたのはジョセフ先生だった。先生とはクラスの授業で会ってはいたが、直接話をするのは久しぶりだ。


「こんばんは、ジョセフ先生。実はちょっと燃やしたい物があって焼却炉に来たんです。でも火を付ける道具を何も持って来ていなかった事に気が付いて・・・。」


「その為にわざわざ焼却炉まで来たの?ゴミ箱に捨てておけばいずれ用務員さんが焼却炉に運んで燃やしてくれたのに。」


不思議そうに尋ねるジョセフ先生に私は曖昧に返事をした。


「はあ・・・まあ、確かにそうなんですが・・・ちょっと人目につくと困ると言うか・・。」


 私の手に持っている手紙に気が付いたのか、ジョセフ先生は小さく笑うと、ポケットからマッチを取り出し、手渡してきた。


「はい、どうぞ使って。」


「あ・・・ありがとうございます。」

もしかすると、先生は煙草を吸うのだろうか?何だか意外な気がする。


「言っておくけど、僕は煙草は吸わないよ。」


私の表情を見て取ったのか、笑みを崩さずジョセフ先生は言った。


「そう・・だったんですか・・。所でジョセフ先生は何故ここにいらしたのですか?」



「うん、実は確認しておきたい事があってね。でも・・・まだ残っているかな?てっきりそれでリッジウェイさんもここに来ていたのかと思っていたんだけど、目的は違っていたんだね。」


そして先生は焼却炉の脇に置いてある火掻き棒を手に取り、焼却炉の中を覗き込んで灰を次々と掻きだしていく。


「あ、あの・・・先生、一体何を・・?」


私の問いかけに返事もせず、先生は灰で身体が汚れる事も厭わずに一生懸命何かを探している。が、やがて・・・。


「あった!」


先生が灰の中から拾い出したのは2枚の薄い金属?のまるでトランプのようなカードだった。


「ジョセフ先生・・これは一体何ですか?」


「リッジウェイさんは知らないかな?これはマジックアイテムなんだよ。」


そう言うと先生は灰で真っ黒になったカードを白衣のポケットから取り出した布で一生懸命に拭いて、ススを落していく。

やがてススが取れると、そこには表側と裏側でそれぞれ違う絵柄が掘られたカードだと言う事が分かった。


「これはね、表と裏側でそれぞれ違う意味合いを持つカードなんだよ。取り合えず、もう少し明るい場所へ移動しようか?」


先生の提案で私達は人通りの少ないガス灯の下に設置されているベンチに座った。


「ほら、これが表のカード。」


先生が見せたカードには丸い球がまるで炎をまとっているかのような絵が刻まれている。


「そしてこれが裏のカードだよ。」


裏側にはまるで弓を打つ時の的のようなデザインが刻まれていた。


「あの・・このカードって一体何ですか?」

私には先生が何を言いたいのかさぱり分からないので質問してみた。


「リッジウェイさんはあまりマジックアイテムの事を知らないのかな?まあ、すごく高価な物ばかりだから、このアイテムの事を知ってる人はあまりいないかもしれないね。特にこの『遠隔攻撃カード』はとても貴重なアイテムだから滅多に買えるような代物じゃないんだ。それに、攻撃力と打てる魔法弾の数によって値段は大きく変わるんだよ。う~ん・・・・。このカードを見る限り・・・ランクは下の方なのかもしれない。そしてこのカードの種類は炎の遠隔攻撃をすることが出来るみたいだよ。」


穴が空くのではないかと思う位、じっくりカードを見つめていた先生は、やがて顔を上げると私に言った。


「先生・・・すごくマジックアイテムについて詳しいんですね・・・。」


「うん、実は僕の両親はね・・マジックアイテムの店を経営してるんだ。小さい時から色々なマジックアイテムに接して来たから知ってるだけの事だよ。」


何故か寂しげに笑う先生。


「先生は・・・お店を継がなかったんですね・・。」


「うん。僕は両親の事は大好きだったけど・・・どうしても父の仕事だけは好きになれなかった。だってマジックアイテムは便利な品物も多いけど、それだけじゃない。中には人を傷つけたり、時には戦争を起こしかねないような強い力を持つアイテムだってあるからね・・。」


「ジョセフ先生・・・。」


先生の横顔は凄く悲し気に見えた。


「誰かが、この仕事をしなければならなかったんだ。僕の住んでいた町はあまり裕福では無くて・・・僕の町を治めていた領主様から直々に言われたんだよ。町の収益を上げるためにマジックアイテムの店を開業してくれって。僕の父親は町長だったんだ。だから皆が嫌がる仕事を引き受けて、店を開く事になったんだよ。」


皆が嫌がる仕事を率先して引き受けたジョセフ先生の両親・・・多分今まで色々と嫌な目に遭った事もあるに違いない。だから私は言った。

「先生・・・私は・・先生の両親は立派だと思います。だって皆が嫌がる仕事を引き受けたのだから、それってすごい事ですよ。だから・・・先生はもっとご両親の事を誇っていいと思います。」


「ありがとう、リッジウェイさん。」


ジョセフ先生は照れたように笑うと言った。


「それでこのカードの使い方なんだけどね。」


ジョセフ先生はターゲットのマークか刻まれている裏側を見せた。


「ほら、ここに名前が刻まれているのが分かるかい?」


え・・・?そこにはライアンの名前が刻まれていた。


「ジョセフ先生・・・一体これはどういう事ですか?」

未だに状況が良く理解出来ていない私は戸惑いながら先生に尋ねた。


「うん、このカードを持つ人物はターゲットとして名前を書かれた人物を遠隔で攻撃する事が出来るんだ。最も使う範囲には制限があるんだけどね。多分半径1Km圏内なら使用可能なんじゃ無いかな?使い方は意外と簡単で、表側には自分の名前を刻み、裏側にはターゲットの相手の名前を刻む。そして例えば冷気の攻撃をターゲットに与えたいなら、冷気攻撃専用のカードを冷やせば相手は冷気の攻撃を受けるし、熱の攻撃専用のカードを熱すれば熱風や炎の攻撃を相手に与える事が出来るんだ。

ただ・・・このカードの弱点は攻撃をする相手の姿が何故か幻影として周囲に映し出されてしまうって事かな?だから相手には誰が自分を攻撃したのかが、すぐにバレてしまうのが弱点のマジックアイテムだよ。」


「そうなんですか・・・。」

全然そんなマジックアイテムの事等知りませんでしたよ。この小説の原作者であるという私なのに・・。


「このカードは使い捨てなんだよ。・・・多分カードのレベルから考えると効果が続いたのは10秒程だったのかもね。」


カードをまじまじと見つめながら真剣な表情で語るジョセフ先生。


「多分犯人たちはあらかじめこのカードを入手しておき、シュタイナー君に呼び出された日に、焼却炉でカードを混ぜたゴミを燃やして貰うよう生徒会長に頼んだんだろうね。」


ジョセフ先生は一旦ここで言葉を切ると、続けた。


「そして何も知らない生徒会長は頼まれた通りにゴミを燃やし・・・。炎で焼かれたマジックアイテムの効力が発動してシュタイナー君に向けて炎の弾が飛んで行き、攻撃を受けてしまった・・・と考えるのが真実なんじゃ無いかな?」


私は黙ってジョセフ先生の推理を聞いていたが、確かに先生の話は全てつじつまが合う。何故なら生徒会長はライアンに向けて残虐に炎の魔法攻撃をし続けたというのだから・・・

 でもおかしな点がある。

「ジョセフ先生、では遠隔魔法の効果が消えた場合、その幻影はどうなってしまうのですか?突然消えたりしたら現場を見ていた皆さんはさぞ驚いたのではないでしょうか?」


「うん・・・その事なんだけどね・・。僕も目撃情報者を色々探して話を聞いたんだけど、どうも最後に爆発音と共に激しい煙が立ち込め、辺り一帯が見えなくなったらしいよ。そして煙が消えた後に残されたのは地面に倒れていたシュタイナー君ただ1人きりだったらしい。」


  ジョセフ先生の名推理で徐々にこの事件の真相に近付いてきた瞬間であった―。






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