第5章 2 2人で迎えた朝の出来事

 先程の夢も衝撃的だったが、今の私は目の前の状況を整理するので精一杯だった。

え~と、昨夜はソフィーの事でダニエル先輩とサロンでお酒をしこたま飲みながら話をして・・・?その後の記憶が全く無い。それにこの場所は一体どこなのだろう。

自分の部屋では無い事は確実だし、ダニエル先輩の部屋で無いのも確かだ。何故なら男女はお互いの寮を行き来出来ないのが校則だから。

 私は部屋の様子をキョロキョロ見回す。私が寝ていたベッドはやたら大きな上質のキングサイズのベッド。温もりのある板張りの床。その他の調度品は申し訳ない程度の物しか置かれていない。う~ん・・・?ここは一体何処なのだろう。


 ふと、私は自分の今の姿に気が付いた。下着にスリップドレス姿・・・良かった。

制服のまま寝ていたらシワだらけになっていただろう。ほっと安心して溜息をつくが、そこで気になるのはやはりソファで眠っているダニエル先輩。


 もうここまできたら・・・うん、考えるのはやめにしよう。いや、考えてはいけない。時計はベッドサイドに置いてあった。時刻はまだ5時半。

今からこっそり戻ってシャワーを浴びて寮に戻れば、何てことは無い。

けれど・・・私は自分の身体の匂いをクンクン嗅いだ。少し・・・アルコールの匂いがきついかも。ここがどんな場所なのか、もう私には分かっていた。そして、多分2人の間には何も無かった。よし、こうなったらここでシャワーを浴びて、すっきりしてから寮に戻ろう。

幸い?ダニエル先輩はまだ眠っているし・・・。



 コックを捻ると、熱いシャワーが出てきた。う~ん、やはり朝シャワーは気持ちよい。さすがここの部屋のバスルームには上質な石鹼が揃っている。

とにかく、シャワーを浴びて脳内を活性化せてあの予知夢?の回避方法を探さなくては・・・。身体をゴシゴシ、髪をシャカシャカ・・・・。


「ふ~気持ち良かった。」

バスルームを出てバスタオルで身体もしっかり拭いて・・髪の水分も落としてタオルで上に巻き上げる。ふと、目の前におあつらえ向きなバスローブを発見。

おおっこれは良い品だ。私は早速腕を通してみる。肌触りが良くてフカフカだ。気持ちいい~。そうだ、今度町へ出た時はバスローブも買おうかな。

そして私はバスルームを出た。


「う、うわああっ!き、君!何て恰好してるのさ!」


 部屋に入ると、私を見たダニエル先輩が顔を真っ赤にして叫んだ。

・・・そうだった。ダニエル先輩がこの部屋にいたのだ!実は私はシャワーを浴びている間にすっかり忘れてしまっていた。一人では無いと言う事に・・・。

でもいつの間に起きていたのだろう・・・?


「な、何やってるのさ!早く制服に着替えて来てよ!」


尚も慌てている先輩。


「す、すみません!!先輩がいたの忘れてました!」

私は慌てて壁にかけてあった制服をつかむとすぐにバスルームへ戻り、急ぎ制服に着替えると恐る恐るバスルームから出てきた。

ダニエル先輩はムスッとした様子で足を組んでコーヒーを飲んでいる。


「あ、コーヒーがあるんですね。先輩、お湯はまだありますか。私もコーヒー飲みたいので。ところで先輩もシャワーいかがですか?とても気持ちが良いですよ?」

ダニエル先輩の向かい側の席に座ると私は言った。


「ねえ・・・。」


ジロリと私を見る先輩


「はい。何でしょう?」


「他に何か言う事・・・無いの?」


「言う事・・・?そうだ。おはようございます、先輩。」

ペコリと挨拶するも何故かダニエル先輩は益々不機嫌になって来る。


「そうじゃなくって!大体男と二人でこんな場所にいるのに、君は自分が無防備すぎると思わない?今だってバスローブを着て部屋に入って来るし、恥じる様子も無い・・・!それに昨夜なんか・・・!」


 そこまで言うとますます顔を赤らめるダニエル先輩。そう言えば昨夜サロンでお酒を飲んでいたのに、何故か途中から覚えていない。私は恐る恐る先輩に聞いてみることにした。


「あの・・・昨夜私ひょっとして何か・・しましたか・・・?」


「やっぱり君は何も覚えていないんだね?」


 ダニエル先輩は呆れた顔で溜息をついた。うう・・流石に昨夜は飲みすぎてしまったのかもしれない。


「君はね、途中から眠ってしまったんだよ。いくら揺すっても起きないし・・仕方ないから僕が君をおんぶしてここに連れて来たんだよ。あの状態の君を女子寮まで連れて行けば大騒ぎになるんでね。全く・・・この僕がこんな所に来る羽目になるとはおもいもしなかったよ。」


 後半部分は顔を赤らめながら言うダニエル先輩。

あ~やはり、そうだったのね。ここは『逢瀬の塔』で間違いない。女子寮に連れて帰る訳にも行かず、ここに連れて来たと言う訳だ。うん?だったら私だけ残して自分は男子寮に戻れば良かったのに・・・?


「そ、それにね・・・一度目が覚めたとき、君は僕が同じ部屋にいるのも構わずに、制服がシワになるからと制服を脱いで下着姿になったんだよ?!僕がどれだけ止めようともね!」


コーヒーを手にブルブル震える先輩。さらにダニエル先輩の話は続く。


「君は下着姿になったら、すぐにベッドに潜り込んだんだよ。だから僕は君を置いて寮に戻ろうとしたのだけど・・・。」


そこで突然ダニエル先輩の口調が変わる。


「眠っていた君が突然酷くうなされ始めて、それでつい心配になって1人にしておけないって思ったから・・。僕もやむを得ず、ここに泊ったのさ・・。」


 照れたように私に視線を合わせない先輩。そうだ、やっぱり先輩は優しいツンデレキャラだった。


「あ、ありがとうございます。沢山お話したい事はありますが、そろそろお互いの寮に戻りませんか?そうしないと朝食を食べ損ないますので。」


 時計を見ると、もう6時半になろうとしている。早くチェックアウト?しなければ朝食にありつけない。


「大丈夫、食事ならここで食べて行った方がいい。」


え?意外な事を言う先輩。


「君がシャワーを浴びている間にルームサービスを頼んでおいたから、そろそろ届く頃だよ。下手にこの時間に寮へ戻って、周りから好機の目で見られるくらいなら、ここで朝食を食べて何事も無いように授業へ出る方がずっとマシだからね。」


え?そんな事が出来るの?もしや先輩は・・・・。


「言っておくけど、こんな所利用するの僕は初めてだけどね。」


ジロリと睨まれる。・・・心を読まれていた。


 数分後―

私とダニエル先輩はルームサービスの朝食を二人で向かい合わせで食べていた。

どうも今朝の夢の事が気になり、いつもより食が進まない。そんな私を気遣ってか、先輩が話しかけてきた。


「昨夜・・・うなされていたよね?何か嫌な夢でも見たの?」


先輩の言葉に私の肩が大きく跳ねる。


「は、はあ・・・。まあ、そんなところ・・・です・・。」


「まあ、言いたくないなら別に言わなくてもいいけどさ。」


ダニエル先輩はオムレツを切るとフォークで刺して口に運ぶ。


「1人で悩むより、誰かに相談した方が良いと思うよ。君は僕と違って信頼出来る人たちがいるみたいだから。」


先輩の言葉にあの夢が思い出された。夢の中ではダニエル先輩は私を必死で助けようとしてくれていた・・・。だから、私は言った。

「わ、私は先輩の事だって、信頼してますよ?なので先輩も私の事信頼してくれたら嬉しいかな・・・って思います。」


 そして私はフレンチトーストを口に入れた。甘い味が口の中に広がり、温かい気持ちにさせてくれる。そうだ、私は絶対にあんな未来を迎えたくない。絶対に回避して、穏やかな学生生活を送るのが目標なのだから・・・・。


 ダニエル先輩は呆気に取られたように私を見つめていたが、やがて言った。


「まあ・・・君がそう言うなら・・・少しは信頼してあげてもいいかな?」


そして私に笑いかけるのだった—。









 










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