第3章 13 不吉な予感

 その後もしつこく私達に付いてこようとするマリウス。そこで私は少しだけマリウスと2人きりで話があるからとエマを残し、私達は離れた場所に移動した。さて、何とかしてマリウスには立ち去って貰わないと。


「ねえ、マリウス。」

私は腕組みするとマリウスをの顔を下から覗き見るように話しかけた。しかも思い切り軽蔑した視線で。


「は、はい!」


それだけでマリウスは顔を赤くし始めた。よし、ここでさらにマリウスの嗜虐心を煽ってやろう。


「貴方、昨日かなりお店の人達に迷惑かけてしまったのよねえ。」


「そ、そうです。その通りです!」


「そんな貴方がこんな所で油を売っていていいのかしら?店に迷惑かけたって事は主である私の顔に泥を塗ったって事になると思わない?」

ふむ、私も大分このような台詞を言うのが上手くなってきたようだ。


「はい、ジェシカお嬢様。私は貴女に恥をかかせてしまいました!」


「そう、なら本当に反省している証拠を見せて貰えないかしらねえ?」


「勿論です!何なりと仰って下さい!」


「なら今から寮に戻って、男子寮の浴室をくまなくピカピカに掃除してくるのよ。それが終わったら窓ガラスも曇り一つ無いように磨いていなさい。手を抜いたらただじゃ置かないからね?」


私はなるべく迫力のある笑顔で言った。うん、中々の迫真の演技かもしれない。だってその証拠にマリウスは嬉しさのあまり打ち震えているのだから。


「どうしたの?早く行かないと今日中に終わらないわよ?」

畳みかけるように言う私。


「はいっ!分かりました!」

マリウスは私に何故か敬礼すると、大慌てて門へと戻って行った・・・。

後ろ姿を見て溜息一つ。ほんと、マリウスと一緒にいると自分の性格が歪んでしまいそうだ・・。



「エマさん、お待たせしました。」

私はマリウスを無事に追い払う事が出来たので、エマの所へ戻った。


「どうしたの?マリウスさん。何だかものすごい勢いで帰ったみたいだけど・・?」


「ええ、何だか大事な用事を思い出したらしくて、学院に戻ったの。でも、これで今日は2人で買い物楽しめるわよ。」

何せ、昨日はトラブル続きだったのだ。ゆっくり買い物も出来なかったし、ランチも楽しめなかった。


「そう言えば、来月学院主催の仮装ダンスパーティーがあるから、ドレスを見たいと思っていたの。一緒にドレスを選びに行きませんか?」


なんですと?これまた初のキーワード。仮装ダンスパーティー?そんな話は聞いてない。ひょっとするとハロウィンパーティーのようなものなのだろうか?考えてみれば来月は10月。地球で言えばハロウィンが行われる月だ。

 でもダンスなんて私は全く踊れない。日本で生活していた時だってダンスなど中学生の時のフォークダンス以来だ。ましてよくテレビなどでやっていた社交ダンスのようなものは踊れるわけがない。


「あの・・・そのダンスパーティーって全員必ず出なくちゃいけないのかしら?」


エマならきっとダンス得意なんだろうな。だって婚約者がいる位なのだから。きっと学院に入学する前迄は2人でさぞかし色々なパーティーに足を運んだことだろう。

片や私、ジェシカは妖艶な顔つきで自分で言うのも何だが、ナイスなボディ。そのような人間がダンスが全く出来ないとなるときっと世間で笑いものにされるに違いない。出来る事なら・・・いや、仮病を使ってでも絶対に参加はしたくない。


「そうね・・・。どうしても仮装ダンスパーティーに出たくないとあれば・・あ、

良い考えがあるわ。メイドの恰好をすれば良いのよ。この日は盛大な立食パーティ―もあるからメイド達も給仕の仕事に来るみたいだし。その人達に混じって仕事をしていれば誰も学院の生徒だとおもわないんじゃないかしら?髪型も変えて、メガネも付けて変装してみればどう?」


エマの発言に私は度肝を抜いた。ええええ~メイドってあのメイドですか?よくアキバにある、いわゆるメイド喫茶。フリルの付いた短いワンピースに、これまたフリルのついたエプロン、頭には猫耳やらリボンのカチューシャをして・・・そして・・

「お帰りなさいませ、ご主人様。」

と言う、いわゆるあれの事なのか?!


「そ、そんな恥ずかしい恰好を・・・・。」

私が震える声で言うのをエマは不思議そうに言った。


「え?どうして恥ずかしいのですか?それじゃまずは実際にお店に行って見てくればいいんじゃないかしら?この時期は仮装ダンスパーティー用のドレスを扱っているお店があるんですって。それにメイド服も売ってると思うけど。」


何だかエマは随分詳しいようだ。

「エマさん・・・何だかすごく詳しいのね。驚きました。」


「ええ、実はね。毎年婚約者と仮装ダンスパーティーに参加していたんだけど、この学院でも開催されるって事を知って、お店をチェックしていたんです。」


エマは恥ずかしそうに笑った。う~ん・・・。知れば知る程エマって謎が深まる人だ・・。


 エマに連れられてやってきたのは町の中心部にある子供服から大人の服、更に服飾品等の取り扱いも行っているブティックだった。まるで日本の衣料品ショップみたいだったので私は少し驚いてしまった。

しかし、流石ファンタジー世界。日本ではまず見られない鎧や盾、兜等も売っているのには正直度肝を抜かれてしまったけれども。


 店員さんにメイド服が売ってる場所を尋ね、案内されてみると私が想像していたメイド服とは全く違っていた。

黒いシックな何の飾り気も無いロングワンピースに真っ白なロング丈のエプロン、そして頭に被るモブキャップ、ただそれだけ。あまりにも地味なデザインだった。

よし、この服なら着れる!早速私はセットで2着分購入した。1着分は予備として。


 一方のエマはフリルの袖のシャンパンゴールドのロングドレスで青い糸で刺繍された無数の薔薇が印象的なドレスを選んだ。うわお・・・。何て素敵なドレスなのだろう。この間全て処分したジェシカのドレスとは大違いだ。

本当なら私もこんなドレスを着てみたいと思ったが、ダンスは踊れないし、練習する気も無い、極めつけが何故男性と身体を密着させて踊らなければならないのだ。

私の本質は日本人、絶対にそんな真似はしたくない。そんなダンスを踊るくらいなら盆踊りをした方がずっとマシだ。


 お互いに満足いく買い物が出来たら、今度は2人でお昼を食べに行く事にした。


「今女性に大人気の店があるんですって。そこに行ってみませんか?」

エマに誘われて店の前まで行くと、確かに女性だらけの大行列が出来ていた。


「ここは何のお店でしょう?」

よく内容も聞かずに付いてきてしまったので、改めて提供される食事がどんなものなのか気になったので尋ねてみた。


「細い棒状に焼いたお肉やウィンナー等をクレープ生地でサラダと一緒に包んだ食べ物なの。今すごく流行ってるんですって。」


エマのその言葉を聞いたときに私はグレイの事を思い出した。確か彼も同じようなメニューを勧めてくれたっけ・・。グレイは今どうしているのだろう・・・。謹慎部屋に閉じ込められてると聞いたけど、果たして面会する事は可能なのだろうか?


 エマと暫く並んでいると、ようやく店内に入る事が出来た。私たちは窓際の席へ案内されて座ると、中央テーブルにソフィーと例の女生徒がテーブルを挟んで向かい合って食事をする姿を発見した。

 その時、たまたま顔を上げたソフィーと目が合ったのだが、フイと視線を逸らされてしまった。・・・・・え?今の気のせい・・・?いや、確実にソフィーは私に気が付いたのに視線を逸らせたのは確実だ。

一体、どうしたというのだろう。まさか、ついに私が悪女へと堕とされる話が

スタートを切ってしまったのだろうか―?

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