第3章 9 アラン王子の療養日誌

① 

最悪だ、もうすぐ入学して初の休暇だというのに俺は流感にかかってしまった。

前日の試合でマリウスとの一騎打ち、勝てこそしなかったけれども引き分けだったのでジェシカを町に誘おうかと思っていたのに。

おまけにこの学院では病気の感染を広げない為にと言う事で療養病棟に強制収容されてしまう。いちいち大げさでは無いだろうか?


 幸い熱は翌日には程んど下がったのだが、後数日は感染を防ぐためにこの病棟から出ないように言われてしまった。退屈で仕方が無い。

おまけにグレイやルークも感染防止と言う事で俺の側にはいないのだから話相手もいやしない。

・・・ジェシカに会いたい。王子の俺をあそこまで素っ気なく扱う人間は初めてだ。

思えば最初の出会いから彼女の行動は全く予測が出来ない。見ていて飽きず、ずっと側に置いておけばさぞかし楽しい毎日を過ごせることだろう。およそ令嬢らしくない、人よりもズレた所も好感が持てる。

ジェシカは俺に会いたいと思ってくれているのだろうか?グレイとルークに伝言を頼む事にしよう。もしよければ会いに来てもらえないかと・・・。


 病棟の職員から言伝があった。グレイからだ。ジェシカが俺の体調を心配してくれて是非面会したいと言ってるらしい。俺は小躍りしたくなるほど嬉しかった。

そうか、ジェシカも俺に会いたいと思ってくれていたのか。彼女がこの部屋にやってきたらうんと喜ばせる事をしてあげたい。そうだ、見舞いの品として俺に沢山の甘い菓子類やフルーツが届けられている。それを彼女に食べさせてやるのだ。

女性は皆甘いもの好きと言われてるからな。ジェシカの嬉しそうな顔が今から頭に浮かんでくる。楽しみだ。早く休暇が来てくれないだろうか。


 ついに休暇がやって来た。グレイとルークとの面会の許可も下りた。外出前の二人を呼び出すと、いつもは無表情の二人も何となく気分が高揚しているように感じたのは俺の気のせいだろうか?

2人の話によるとジェシカはどうしても町で買い物をしなければならない品があるらしく、やってくるのは夕方になってしまうそうだが仕方が無い。よし、それまで本でも読んで時間つぶしをしていようか。

 午後―何故か気落ちしたようなグレイとルークが俺の部屋に現れた。出掛ける前はあれ程楽しそうにしていたのに、一体何があったのだろう?でも尋ねるのは止めた。

俺は彼らのプライベートに踏み込むつもりは一切無いのだから。

 夕暮れ時・・・ついにドアがノックされた。ジェシカに違いない!

喜んで招き入れたジェシカはいつもの制服では無い。清楚な外出用の服を着用している。うん、すごく彼女に似合っている。

 見舞いの品だと言ってジェシカが俺に渡してきたのは万年筆だった。俺が家族によく手紙を書いているのを知っていたのだろうか・・・。気配り上手な彼女の事を俺はますます気に入ってしまった。

それに遠慮深い所もいい。いくら甘い菓子を並べても手を伸ばそうとしないのだから。そしてようやく口に入れたウィスキーボンボン。実に良い笑顔で食している。

そんなに気にいったのなら沢山あるので持ち帰っても良いと言った時の彼女の嬉しそうな笑顔は忘れられない。・・・それにしても気に入らないことが出来た。

何故ジェシカはグレイとルークの名前を知っていたのだ?紹介等した覚えは無いのに。あの2人に後で確認しておかなければ。

 夕食は遠慮して帰ろうとしたジェシカをつい少しでも一緒にいたいが為にこの部屋で食事をするようにと引き留めてしまった。

居心地が悪そうにしていたジェシカだったが、肉料理が運ばれてくると目の色が変わったのは面白かった。美しいテーブルマナーで綺麗に皿を平らげる姿は見ていて清々しいものだ。

夕食が済むと、彼女はすぐに帰ってしまった。・・・残念だ。もっといて欲しかったのに。

 それより、グレイとルークだ。すぐにあの二人を部屋に呼んで確認しなければ。

お前達とジェシカの間に何があったのかを・・。


 駄目だ、眠れない。なので本日2度目の日誌を書く事にする。ジェシカが帰った後、俺は早速グレイとルークを呼び出した。ジェシカとはどのように知り合いになったのかを問い詰めると、初めに出会ったのはグレイだと言う事が判明。

学院内で偶然に出会った二人は立ち話をし、そこから仲がよくなっていったという。

そしてその流れでルークとも顔を合わせたらしいのだが・・・。

一番問題なのはルークの方だ。実はルークがノアという優男と一人の女性を取り合って飲み比べをしたらしいのだが、この男はそんなタイプではない。

しつこく問い詰めるとルークはポツリポツリと話し始めた。

ジェシカがノアに絡まれている所を助けに入ったルークが何故かお酒の飲み比べをする事になったらしい。(何故だ??その辺りは話してくれなかったので謎が残る)

勝ったのはルーク。まあ相手が悪かったな。なにせルークはアルコールを中和してしまう体質の持ち主なのだから。

 兎に角、勝負はルークの勝ち、ジェシカを助ける事に成功したそうだ。


最後に俺は尋ねた。

ジェシカとは何の関係も無い間柄なのだろうなと・・・・。

すると途端に顔を赤らめる2人。あの生真面目なルークでさえ、顔を真っ赤に染めているのだから・・・。

気になる!お前たちは一体何処までジェシカと踏み込んだ関係なのかと―。










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