第2章 17 今夜は帰りたくない
私がベッドから降りるとグレイは私にカバンを渡しながら言った。
「この後はどうするんだ?寮に帰るのか?」
うん・・・。本当なら部屋に戻って休みたい所だが、学年のアイドル?的存在のマリウスにお姫様抱っこされて運ばれた姿をほぼ全員のクラスメイトに目撃されている。寮の女生徒達に見つかったらどんな厭味な事を言われるか・・・。
私は思わず口に出していた。
「今夜は帰りたくないな・・・。」
「?!」
何故か大袈裟に驚いて、口元を手で押さえて耳元まで顔を真っ赤に染めるグレイ。
え?一体どうしちゃったの?
「グ、グレイ・・・・?」
「お、お前・・・なんて大胆な事言ってるんだ・・・?か、帰りたくないなんて・・。」
何故だろう?それ程大胆な事を言ったのだろうか?
「だって仕方無いじゃない。マリウスがクラス全員の前で私を抱き上げて運んだんだよ?マリウスが女生徒から人気があるのは当然知ってるよね?あんな姿を見られたら、嫉妬に駆られた彼女達にどんな目に合わされるか・・・。」
私は両肩を抱きしめ、ブルリと震えた。だからできるだけ人目を避けて寮に戻りたい。
「何だ、そんな理由か・・・。」
何故かガックリしたように肩を落とすグレイ。
「そんな理由って言い方は無いでしょ。こっちにしてみれば死活問題なんだから。」
「あのさ。」
グレイが何故か私から視線を逸しながら言う。
「何?」
「そもそもお前とマリウスはどういう関係なんだ?いや、付き人って言うのは知ってるけど、俺が聞きたいのはそんな事じゃなくて・・・。」
どうもグレイの話は要領を得ない。彼は何が言いたいのだろう?
「ねえ、グレイ。はっきり言ってよ。」
私は痺れを切らして彼に詰め寄った。私の髪の毛がグレイの顔にかかる。
「ッ!だから、お前は距離が近過ぎるんだって! 」
グレイは私から慌てたように離れると言った。いけない、どうも私は相手のパーソナルスペースに侵入してしまう傾向があるようだ。
「ごめんなさい。」
私は素直に謝った。折角グレイとは仲良くなれそうなのだから嫌われないよいにしなければ。
グレイは咳払いすると言った。
「ジェシカ、お前さあ・・・嫌じゃ無いのか?」
「何が?」
「マリウスが他の女と2人きりで会っている事だよ。」
「別に、嫌じゃないけど。」
「どうしてだよ?お前とマリウスは付き合ってるんじゃ無いのか?」
グレイの言葉に思わず固まる。
は?誰がマリウスと付き合ってるって? あり得ない!何が悲しくてあの変態M男と付き合わなければならないのだ。いくらイケメンでも蓋を開ければ私に詰られるのを至上の喜びと感じるマリウスと付き合うなんて考えられない。再度グレイを見つめると言った。
「私とマリウスが付き合うなんて事は絶対に無いから。例え、この世界が終わりを迎えて、人類が私とマリウス2人きりになったとしてもね。」
随分とスケールが大きな話となってしまったが、つまりそれ程嫌だと言う事だ。マリウス等観賞だけで十分だ。
「お、おう・・・。そうか。」
グレイも驚いたような顔をしている。
「それじゃ、アラン王子はどうなんだ?」
「何故そこでアラン王子の名前が出てくるの?」
「ジェシカ・・・。本気で言ってるのか?あれだけ王子がお前に露骨にアピールしているのに。あんな王子の姿、俺もルークも初めて見るぞ?」
いやいや、まさかそんなね~。だってアラン王子が私に構おうとするのは今迄自分の周りにはいないタイプの女だからなんじゃ無いの?物珍しさで近付いてきてるだけに決まってる。第一、小説の中のアラン王子は私の事を憎み、処刑しようとした程なのだから。それをソフィーに助けられて、島流しの刑に・・・。
そうだ!私の命運をかけるのはソフィーが全て鍵を握っている。早い所アラン王子とのセッティングをしなければ・・・!
私は目の前のグレイをチラリと見る。幸いグレイはアラン王子の付き人だ。彼に協力を依頼してソフィーとアラン王子の恋を成就させないと。
だから私はグレイに言った。
「アラン王子にはね、ちゃんと相応しい人物がいるんだからね。」
「は?」
グレイは唖然としている。まるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔だ。
「おい、誰だよ。そんな話は初耳だぞ?」
グレイは興味深げに聞いてきた。さて・・・何処まで話しても良いのだろうか・・。
よし、決めた。
「実は、私ね・・・・予知能力があるの。」
「え・・・?」
「そう、アラン王子のお相手は私達と同じ学年の女生徒。気さくな性格で心優しく誰からも好かれる女性。今はまだ二人は出会ってもいないけど、きっと会えば一瞬で燃え上がるような恋に落ちる・・・!」
「・・・・。」
気付けばグレイが何やら白けた目でこちらを見ている。う・・・何だか急に恥ずかしくなってきた。つい、原作者であるが故に熱く語ってしまった。
「お前って・・・凄い妄想癖があったんだな。」
ポツリと一言。
「妄想じゃ無いってば!」
「まあいい、そんなムキになるなって。」
グレイは私の頭をポンポン軽く叩きながら言う。
「でも・・・。つまりジェシカはアラン王子の相手では無いって事なんだよな?」
妙に嬉しそうに話すグレイ。なので私は黙って頷いた。
「そっか・・・。よし、ジェシカ。お前さえ良かったら夕食、一緒に食べに行かないか?あ、でもまだ体調悪いなら無理には・・・。」
突然夕食に誘って来たグレイ。言われてみれば、いつの間にか18時になろうとしていた。
「でも、ルークはどうするの?」
「ルーク?ああ、別にアイツはどうでもいいんだよ。」
どこか面倒くさそうに言うマリウス。いや、駄目だ。友達関係は大事にしないと。
これは日本での自分の経験上、感じた事なのだから。
「駄目だよ、ルークはグレイの友達なんでしょう?それに私、ルークとも友達になりたいし。」
アラン王子や生徒会長、ノア先輩・・・彼らは小説の主要人物で、ジェシカの敵に該当する人物だから安易に接近する事は危険を伴う。けれど、グレイやルークはモブキャラだから別に仲良くしても問題は無いだろう・・・私はそう思ったのだ。
「分かったよ、ならルークを探しに行こう。」
グレイに促されて医務室を出た私達―。
結局その後私たちは暫くの間ルークを探したが見つける事が出来なかった。なので仕方なく2人一緒に学食で夕食を共にする事にしたのだった。
「そう言えばジェシカ、知ってるか?生徒会長が今、夕食も希望者は寮で食事が出来るようにする制度の嘆願書を作っているらしい。」
大盛のポークステーキを切り分けながらグレイが言った。え?嘘!何その話。私小説の中ではそんな設定作っていませんけど―?こ・これは一体・・・。まるで目に見えない何者かが勝手に私の小説の中の世界を作り替えようとしている陰謀が・・・!
・・・なんてそんな話ある訳無いか。第一夕食も寮で食べられるなら助かる学生達だっているはずだし。あの生徒会長、なかなかやるわね。
だから私も感心したように話す。
「そうなんだ。でも夕食も寮で食事出来るなら、いちいち外食に出掛けなくてもいいから楽かもね。」
私は言いながらオムライスを口に運んだ。うん、この卵の蕩け具合、濃厚なデミグラスソース・・・最高!
「ジェシカ、お前って本当に美味そうに食事するんだな。」
グレイは目を細め、私を見つめながら言う。
「それはそうでしょう。だって美味しい食事をしている時って本当に幸せなんだもの。そういうグレイは違うの?」
「いや。俺も食事時間は幸せを感じるさ。それに・・・今夜はいつも以上に美味しく感じる。」
少し頬を赤らめながら言うグレイ。そうか、今食べてる料理、そんなに美味しいのね。だから私は言った。
「グレイが食べている料理、相当美味しいんだね。今度私も食べてみる事にするよ。」
「・・・。」
グレイは少しの間無言になったが、その後は何故か不機嫌な様子でぶすっとした顔で料理を口に運び出した。
何か気に障った事でも言ってしまったのだろうか?年下の男の子って中々扱いにくいなあ。
それに・・・私は溜息を一つ、ついて思った。
今夜は寮に帰りたくない。と―。
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