ザコモブ

「普通ちゃん普通ちゃん。大丈夫?」


 となりの席に座るザコが声を掛ける。その顔は心配そうな顔ではなくて、何だかいやらしい、他意の含んだ表情だった。


「凄かったねロリ先生。バブみが深い」

「バブみ……?」

「知らない? バブみが深いとね、大っきい子も、まるで幼児のようにおギャってしまうの」


 丁寧に説明しているつもりなのだろうが、まるで意味が分からなかった。ザコは馬鹿なのだ。


「うーんと、じゃあ、この英文を〜」


 ロリ先生がまた生徒を指名しようとしていた。椅子に立って周囲をキョロキョロと見渡す。


 その様に、トゥンクと心臓が強く脈打った。何だ何だ。どうしたんだ私。身体が火照ってしまう。何だこの気持ちは。


「あーあ。まあ普通そうだよね。あのバブみじゃあ普通、普通ちゃんも普通におギャラざるを普通に得ないよね」

「難解な話をしないで」


 何だよ、おギャラざるを普通に得ないって。


「はーいはーい!」


 ザコが元気よく手をあげる。


「おお。良い返事だね。偉いねえ。座湖ざこ 洩歩美もぶみちゃん。読んでくれる?」


 嬉々としてザコは立ち上がった。そして頰をうっとりとさせながら、私の方を見た。


「ねえ、今からオギャるよ」


 身体だけは立派に育った子。


 さすがにザコでも中学英語くらいは読めるようで、スラスラと読み上げていく。


「ロリ先生。終わりました」


 そう言ったザコは、はあはあとまるで餌を待つ犬のように息を荒くした。


「早く! 早くご褒美下さいっ!」


 ザコが言う。さすがザコ。ロリ先生の手に掛かる前に落ちちゃってる。


「ふふ。偉いねえ。良く読めたねえ。良いよ。偉い座湖ちゃんには、良い子良い子してあげなくっちゃ」


 ロリ先生は近寄ると、先程私にしたように、ぎゅっと抱きしめて、ザコの頭を良し良しと撫でる。


「よしよし。良い子良い子」


 するとザコは破顔した。天国に召されたかのような、とろけた顔をしている。


「ばぶぅ〜」


 ……!?


 ばぶぅ〜って言ったぞ今。正気か!?


「ばぶうって。全くもう。困った赤ちゃんでちゅねえ」


 ロリ先生もノリノリかよ。


「ばぶぅ〜ばぶばぶぅ〜たぁ〜」


 ザコの無様な姿。親友やめようかな。

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