#6 Premonition of Love

2学期になると、生徒の一部は学力だけで無く、体力も重んじられる。

それは本校の一大イベント『マハラガーン』が開催されるからだ。

『マハラガーン』とは、1年に1度この10月に開催される催しであり、参加者は己の知力、体力を駆使して競技を行い、優勝を目指す、まあ有り体に言えば体育祭の様な物である。

もっとも、体育祭とは比べ物にならない程の大規模な催しだが。

何せこのマハラガーンは6王国全てでそれぞれ行われ、優勝した者達は今度は他の国の優勝者と競い合うのだ。まあ有り体に言えばオリンピックの様な物である。

各国に1つずつしか無い魔法学校の生徒だけで肉体と魔法を駆使して戦い合い、その年の最強の学生を決めようと言う物だ。もちろん学年別・性別に分かれている為王者は6人出るのだが。

未開域開拓軍志望のリーとマックスには当然この催しに出ない理由など無かった。

二人は早速出場者名簿に自分の名を書いた。と言ってもこの学校の生徒のほとんどが書き込んだ訳だが。

9月一杯は本番の為に皆練習に励む事になる。勿論勉学との両立も必要だが。

そんなある日の事だった。

リーはトレーニングルームで体力向上を図っていた。

部屋には他にも鍛えている生徒達がいた。

その中の1人の女子に目が着いた。

レスリー・トゥーヤングメン。同じ1年の女子だ。いつも明るくて誰にでも気さくで女友達からはリーと呼ばれ親しまれている。

自分と同じ呼ばれ方なのもあるが、実は近頃どうもリーは彼女の事が気になっている。運動して汗だくになっている彼女の姿を見るとついつい劣情を抱いてしまいそうになり必死でそれをバレまいとしている。リーも他の者と同様年頃の男子なのだ。

「痛っ!」

余所見をしていたせいかうっかりトレーニングマシンの角に頭をぶつけてしまった。

それを見た女子たちにクスクスと笑われてしまいリーは顔を赤くした。

レスリーもマハラガーンに出場するのでいつの間にかリーは彼女目当てにジムに通う様になってしまった。勿論表向きはマハラガーンに向けてのトレーニングだが、ルームメイトには隠し切れなかった様だ。ある時マックスが言った。

「なあお前、レスリーの事好きなの?」

「痛っ!」突然の事にリーは自分の後頭部を壁に強打した。今のは痛い。自分で自分の頭を割ったかと思った。むしろ今ので記憶が飛んでくれないかとすら思った。

「な…何の事でそう?」リーは明後日の方向を向いて下手な口笛をふーふーと吹いた(本当はリーは口笛が得意なのだが)。漫画みたいに。

「うーん…バレバレって程では無いけど観察してりゃ分かるぞ」とマックス。

それを聞いてリーは顔を赤くした。参った。他人に指摘されて初めて自覚したけど自分はレスリーの事が好きなのか。

 そう自覚するとそれからは大変だった。文字通り大きく変わった。

 レスリーの事ばかり考える様になったし彼女が近くにいると顔が火照り落ち着かなくなる。まともに彼女の顔が見れない。

「リー君?」

「‼」

急にレスリーに声をかけられてリーは跳び上がりそうになった。

「大丈夫?顔赤いよ」

「だ、大丈夫。大丈夫だから…」

「本当?無理しないでね」

(やばいちかいいいにおいやばいちかいいいにおいやばいちかいいいにおい…)

リーはなんかもう一杯一杯だった。

「う、うん…」と相槌を返すのが精いっぱいだった。

「お互い、マハラガーンではがんばろうね。じゃね!」

そう言ってレスリーは去って行った。

(ああ、何か今“幸せ”って言葉の意味が分かった様な気がする…)


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