#4 Not open zorn

試験の日がやって来た。

魔法学校の試験には筆記試験と実技試験がある。

呪文学、薬草学、魔法薬学、魔法語学、魔法歴史学の5教科である。

リーは呪文学は得意だが魔法語学がどうも苦手だった。

それでもなんとか勉強し答案を埋める事は出来た。

筆記試験は終わり、次は実技試験だ。

呪文学の実技試験はチャンドラー先生の前で呪文を唱える。

「では先生の言う呪文を正確に唱えて下さい」

「はい」

「浄水」

「オープロープル」

目の前のバケツの中の泥水は綺麗な水になった。

「よし次、着火」

「ケマル」

目の前の蝋燭に火が着いた。

「よし次、浮遊」

「フロット」

目の前の石が浮いた。

「よし次、収縮」

「ピッコロ」

「肥大化」

「グランデ」

石が小さくなって大きくなった。

そんな事を30問位やって試験は終わった。

魔法薬学の実技試験は担当教授のパピヨン・ウィリアムズ女史の出題した薬を調合する。

今回はかぶれに効く薬だ。

リーは薬草の分量、調合法を思い出しながら作った。

「出来ました」

「どれ、見せて御覧なさい」

先生は薬を受け取ると指先にちょっと付けて「インスペクト」と調査呪文を唱えた。

「うん……ドクダミがちょっと少ないかな?あとまだまだ混ぜ方が雑ね。80点。一応合格よ。次は頑張って」

「はい。ありがとうございました」

ウィリアムズ先生はまだ30歳位の若さだがフリッグでも有数の魔法薬剤師だ。左手薬指の指輪を見るに既婚者らしい。

「失礼しました」と言ってリーは退室した。

そんなこんなで全ての試験は終了した。

「どうだった?」と放課後寮の自室でマックスが聞いてきた。

「まあまあかな」

「そうか。俺は魔法薬を作ったはずが猛毒を作っちゃって0点だったわ…」

「…一体どんな調合をすれば?」

「薬草学はルミエール先生に褒めて貰いたくて頑張りまくったから満点間違いないと思うんだがな……」

「薬草学は得意なのに薬学は苦手とか珍しいな…」

「そういえばさ…」とマックスが話題を変えた。

「夏休みはどうするつもりなの?」

今は7月だ。8月の約1ヶ月間は生徒は実家に帰るか寮に残って暮らす。

「俺は帰るよ。弟の事も心配だしな」

入学以来、リーは一度も家に帰っていない。手紙のやりとりはしてるので大体の状況は知っているが。

サムは中学に進学し何とかやってるらしい。

父は相変わらず漁師をしている。

「俺も帰るかな?」とマックス。


夏休みももうじき始まろうという頃だった。

全校生徒が校庭へ集合させられた。

台の上に初老の男性が立った。

パラディーゾの校長デネブ・アルジャント氏である。

「さて、試験も終わり夏休み前だからと浮かれてる者も多いと思うが、今日は全校合同で特別授業を受けて貰う。諸君らの知っての通り、この世界には我々が未だ知りえない未知の領域、未開域がある」

アルジャントは魔法で大きくした声でそう言った。

「未開域が発見されてから実に100年以上が経った今でさえ、その全貌は明らかになってはおらぬ。それは我々の住むこの世界と、未開域との間に険しい山脈が聳え立ち、そう簡単には向こうに行けないという理由が大きい。そこで、より有能な者たちで構成された未開域開拓軍が組織された訳だが、今日は特別講師として、その一員に来て貰った。それでは紹介しよう。マーティン・ブリッツクリーグ大尉だ」

名前を呼ばれ、壇上に上がった男はいかにも軍人と言った感じの筋骨隆々の大男だった。

軍服に身を包み、左目に眼帯をして口髭を蓄え、頬に大きな切り傷の痕が残ったその姿は海賊の船長の様にも見えた。

「初めまして皆さん。開拓軍から来ました。マーティン・ブリッツクリーグ大尉です」外見とは裏腹に意外と丁寧な口調で話し始めた。

「私は、かれこれ10年近く軍に所属しており、かの地にて数々の危険を潜り抜けて来ました。その危険と言うのは、例えばあの山脈の途中、谷底に落ちかけたり、クマに襲われたり、川に流されかけたり、また仲間が谷底に落ちたり、クマに殺されたり、川に流されたりと…それはもう危険の連続でした。しかし、彼らの犠牲は無駄では無かった。我々は少しずつだが、未開域を開拓して行っています。これを見て下さい」

そう言って大尉が取り出した物を見て、一部の女子がキャッと悲鳴を上げた。見た事の無い動物が、大尉の手に持っているケージの中に入っている。

「これは、かの地で発見した小動物の1種です。まだこの程度の小さな物位しか見つかっていませんが、既に動物は約20種、植物は約50種がかの地で発見されています。その全てがこの世界では確認されていない物ばかりなのです。皆さん!やはり未開域は我々の住む世界とは違う異世界だと考えるべきです!そこはどんな所なのか、何があるのか、我々の様な知的生命体は住んでいるのか、考えたらワクワクして来ませんか?」大尉はまるで少年の様にその1つの瞳を輝かせて言った。

「さて、ところでこの動物、我々は取り敢えず『ケルド(獣という意味)』と呼んでいますが、試しに食べてみると、なかなか美味しいのです。調べた所、栄養価も高く、かの地で食料に困った時には助かりました。」

得体の知れない物を食べるのには勇気がいるだろうが、それだけ未開域が過酷なんだろうなとリーは思った。

しかし何か妙だ。あの動物を昔どこかで見た様な気がする。

「皆さん。未開域はまだまだ謎に満ちている上、危険も多い場所です。しかし、だからこそ我々が開拓する必要があるのです!そうすればやがては人口問題も資源問題も解決するかも知れません!この中の未開域開拓軍志望者の諸君!我々はいつでも、君たちの入隊を心よりお待ちしています!」







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