#1 SIN AND PUNISH
ここはジョンラーン。
海沿いの小さな町だ。
リー・ポートレスはこの町の漁師の息子として生まれた。
彼が10歳の時母親が癌で世を去った。
弟のサムは生まれつき足が弱く杖をついていた。
リーが15歳のある日の事だった。
学校帰りに見かけたのは――
「お前じじいなら学校じゃなくて老人ホームに行けよ」
サムが同じ12歳位の男たち5人に囲まれて地面にうつ伏せになっていた。
いつもついている杖はへし折られて遠くに投げ捨てられていた。
周囲の通行人たちが何か言いたげに見ていたが男たちの1人に睨まれては目をそらしている有様だった。
それを見た瞬間リーは男たちの元へ歩いて行った。
「あん?何だおめえ?何か文句でもあんのか?」
「お前ら俺の弟に何やってんだ?」
「お?こいつお前の兄ちゃんか?じじいの兄貴ならもっとじじいだな!」
男たちは笑い出した。
「どけ」
リーは男の1人を突き飛ばす様に押すとサムに手を差し伸べた。
「いって!ああ折れた!今のは折れたわ!こりゃ治療費10万だわ!」
男は大げさに喚いた。
「こんなんで折れるとかお前の骨は麩菓子か」
サムを立たせながらリーは呟いた。
すると男たちはまるで犬の様に吠え出した。
「ああ?てめ舐めてんのか!?」「フガシって何だ?訳分かんねえ事言ってんじゃねえぞ!」「ぶっ殺されてえのか⁉」「おらあ!」
「邪魔だ、どけよ」
それでもリーは弟を支えながらその場を去ろうとする。
「ざけてんじゃねえ…ぞ!」
男の1人がリーの足を蹴った。
リーは倒れ、一緒にサムも倒れた。
「…っ!」
「おらどうした?来いよ。かかって来いよ!」
男は両手で煽るがリーは抵抗しない。
「俺たちに構うなよ…」
「は!何だこいつ?おいやっちまおうぜ!」
男たちは全員でリーとサムを蹴ったり踏んだりした
その内飽きたのかやめた。
「……つまんね。行こうぜ」
そういうと男たちは去って行った。
「……大丈夫か?」
「うん……兄貴、ごめんね」
「お前が誤る事じゃない。立てるか?帰るぞ」
リーはサムに肩を貸し、折れた杖を拾って家に帰った。
「どうしたんだ?2人とも!」
家に帰ると父が驚いて言った。
2人はさっきの事を父に話した。
幸い2人共大した怪我では無かったが、体中絆創膏だらけになった。
「あいつらは、同じ学年の奴らさ」
サムが言った。
「何かにつけて俺に突っかかってきやがるんだ。俺が何をしたってんだ?訳分かんねえよ」
「ああいう事されたのは今日が初めてか?」とリー。
「ああ。帰る途中で待ち伏せされてな」
「全く許せん!」と父。
「おまけに杖まで壊して!これは立派な暴行罪と器物損壊罪だぞ!」
「あいつらはそんな事は分かって無いよ。全員馬鹿だから」
「この事はちゃんと先生に報告するんだ」
「そうするよ」
その夜、布団に入ったリーは考えた。
サムは勉強の成績がいい優等生だ。
おまけに顔も良くて人当たりも良くて男女共に人気だ。
そんな彼に嫉妬する者がいてもおかしくはない。
実は今までも何度かサムの持ち物が無くなったり、サムが頭に埃をかぶっているのを見た事がある。
とにかく、あいつらが相応の罰を受ける事を期待してリーは眠りについた。
〈これでいいのか?〉
〈これで終わらせていいのか?〉
〈あいつらにはもっと相応の罰があるだろう〉
〈罰を与えるんだ〉
〈俺にしか出来ない罰を!〉
翌日。
リーはとんでもない事件を知った。
昨日自分とサムに暴行したあの5人が遺体で発見された。
しかもどうやらものすごく残虐な方法で殺されたらしい。
当然死体の状態など見せては貰えないが。
「どうして?」サムが言った。
「何であいつらが5人揃って…」
「分からない…」とリー。
それから1ヶ月経っても、犯人は手がかりすら見つからなかった様だ。
それから数ヶ月後、リーはジョンラーンから300㎞程離れた王都フリッグへと1人移り住んだ。
この街にある全寮制の魔法高校パラディーゾへと進学する為だ。
この世界には魔法が存在する。
しかしその強力さ故使うのにはそれなりの訓練と資格が必要だ。
それに学べば誰でも魔法を使える様になる訳でもない。
魔法学校に入学しても魔法を習得できる素質のある者は100人中5人程度だ。
なぜリーはそんな低確率に懸けてまで魔法を習いたいのか。
それは未開域開拓軍に入る為だ。
この世界には6つの王国があり、6つの王都にはそれぞれに王がいて治めている。
その6人の王が全員魔法使いであり、それも全員かなり強力な魔法使いである。
人々は彼らを魔法使いの王『魔王』と呼んでいる。
しかし世界はそれだけでは無い。
6人の魔王の誰の領地でもない土地。それが『未開域』
そこには恐ろしい魔物が住むとか、謎の部族が住んでいるとか、金銀財宝の山があるとか、数々の噂が立っている。
未開域開拓軍は6王国が共同で派遣している特殊部隊で、構成員にはそれなりに優秀な兵士や魔法使いばかりである。
そこに入ればそれなりに高収入だろうし、何より冒険に心が湧く。
だから魔法学校への入学志望者は後を絶たない。
もし駄目でもリーには実家の漁師がある。
だから彼は必死に勉強して受験に合格して父と弟に暫しの別れを告げて列車に乗り1人上京したのだった。
「さてと…やるからには一所懸命頑張りますか」
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