待ってくれ僕は5年間も片想いをしていたんだぞ?
拓魚-たくうお-
第1話 嘘だと言ってくれ
「あの…
「み、
もはやこの反応だけで解っていただけたと思うが、早い話、僕はこの翠川さんのことが好きなのである。
ちなみに星野というのは僕の苗字だ。
先程の返答で解るように、僕の辞書にはポーカーフェイスなどという言葉はないらしい。動揺すればすぐに目は泳ぎ、会話をすればこの有様である。それでも周りの友人
まあ、その天然なところすら可愛らしいのだけれど。
「今日の放課後、よかったら少し教室に残っててくれない?」
「え、いいけど…どうして?」
言っておくが僕は常に挙動不審なわけではない。一言目があんな様子なだけであって、二言目以降は割と自然に話すことができる。…と、思っている。
これでもコミュニケーションは得意な方だ。クラス内でもそこそこ友人は多い方だと思うし、そもそも一言目で調子が狂ってしまうのは、翠川さんに対してだけである。
「えっとね…少し話したいことというか、話してほしいことというか…。とにかくお話があるの!」
「ふぇっ!? わ、わわわかった! 残っておくね!」
おっと。三言目にしてまたキョドッてしまった。しかしこれは許してほしい。
わざわざ放課後に教室に残って話をするなんて、嫌でもそういう話を想像してしまうではないか。もちろん嫌なわけがないのだけれども。
翠川さんは『ありがとう! 突然ごめんね!』などと言い残して、友人の輪の中へと戻っていった。
…いやいやいや。待て待て落ち着け僕。
そんなはずがない。翠川さんから僕への告白なんてあるはずがない。
彼女にそんな素振りはなかったし、何より僕なんかを好きになるわけがない。
どうせ彼女が所属している生徒会だとか、学級委員関連の話に決まっている。
でもそれなら二人きりである必要はないし、放課後に残る理由も無いはずだ…。もしかして本当に…?
いやいや、ありえないありえない。落ち着いてくれ
というか彼女、僕の記憶が正しければ『話してほしいこともある』みたいなことを言っていたような気がするのだが…。
本当に何の話なのか分からなくなってきてしまった。
「よお、三輝ぃ」
「やあやあ三輝くん」
「うわ、何だよ急に。
彼らは
双子ということで、クラス内でも二人がそれぞれ片割れと間違われる様子はよく目にしている。しかし僕は彼らとそこそこ長い付き合いなのでもちろん見分けられるし、最近では彼らが双子であることを
「今、翠川さんと何話してたのぉ?」
「おい十三実、くっつくなよ気持ち悪い」
「兄さんは三輝くんにべったりだもんね」
馴れ馴れしくて口調もうざったらしいこいつが兄の十三実で、いつもその一歩後ろにいて比較的控えめな性格なのが弟の十一だ。
「あれぇ、なんでかな。なんか今俺すげえディスられた気がする」
「勝手に人の心を読むなよ」
「え、てことは今、三輝は俺のこと心の中でディスってたってことだよねぇ? なあおい? なあ?」
「まあまあ落ち着きなよ兄さん。」
勝手に話を逸らしてくれたので、僕が翠川さんと話していた内容については喋らずに済んだ。ちなみにこいつがたまに僕の心を読んできやがるメカニズムに関しては未だに全く解っていない。非常に恐ろしいのでやめてほしい。
重ねて、弟の十一には何故か僕の嘘が通じない。僕だけ、どんなに小さな嘘でも見破られてしまうのだ。こちらも怖いのでやめてほしい。両者とも超能力者でも何でもなく、あくまで付き合いの長さが産んだ限りなく不必要な産物である。じゃあ僕にもなんかくれよ、とは思うが。
いや、だからそんなことはどうでもよくて。
今はもう放課後のことで頭がいっぱいである。何を言われるのか、何を言わされるのかが気が気でない。
でも万が一、億が一、彼女が告白してくれるなんてそんなことがあったとしたのならば、そのときは僕が先に告白したい。五年間も思い続けたのだ。相手から告白されて何も言わないままなどというのはどうもスッキリしない。所詮は自己満足なのだけれど。てか五年もあったのなら早く告白しろよって話なのだけれども。
いつの間にかあの双子はどこかへ消えていた。まあいつも通り十一が兄貴を
ふと、教室前方で楽しげにしている翠川さんの方に目をやった。
ああ、やっぱり可愛いな。大きな目に長いまつ毛、通った鼻に小さな口、そして綺麗で白い肌。…ついでに胸も大きい。本当に高校生なのかと疑うほどだ。制服の上からでも感じられる双丘の存在感にはついつい目を引き付けられてしまう。それに加えて思いやりがあって人望も厚い、何より尋常じゃなく可愛い笑顔とくれば、もう好きにならざるを得ないではないか。
「はあ…。」
考えごとが
———
「本当にごめんね、わざわざ残ってもらっちゃって。」
「い、いやいや全然全然!!」
「…。」
「…。」
…いや絶対告白じゃねえか!!
何だよこの雰囲気、告白以外の何物でもないよねこれ。逆にこれで生徒会の話とか始められても拍子抜けだよね。びっくりだよね。
え、もうこれ告白しちゃっていいのかな。いいよね。いいですよね。
相手に言われる前に言いたいもんね。うんもう言うね。言っちゃうからね。
………無理だよね!! 恥ずかしいよね!!
いくらなんでも急に告白とかできないから。絶対無理だから。
いや、でも五年もあったしな。言うタイミングいつでもあったしな。よくよく考えたら全然急でも何でもないしな。
…よし、いい加減言おう。早く片想いを終わらせよう。
「あの…翠川…さん。」
「な、なに?」
「僕、ずっと前から、初めて隣の席になったあの日から、翠川さんのことが好きでしたッ!! 大好きでしたッッ!! 僕と付き合ってください!!」
「うんうん………って、え!?」
言ったあああああああああああああ
ついに言ったあああああああああああああ
五年間の片想いの末にやっと告白したことに、返事も聞いていないのに既に達成感を覚えてしまっている。無理もないか、五年間だ。五年もあれば赤ちゃんだって歩けるようになるし、オリンピックだって次の大会が開催される。それだけの期間想いつづけたと言うことを、やっと告白したのだ。
僕は頭を下げたまま、彼女の返事を待った。
「え、えっとね! 星野くん!」
「は、はい!」
「私、星野くんのことはすごく良いなって思うし、すごく嬉しいんだけど」
「は、はい…!」
「星野くんとは付き合えないの…ご、ごめんなさい!」
「…。わ、わかった。こちらこそごめんね、突然…。」
「…そしてその、私が今日話したかったことなんだけど…。同時に、付き合えない理由にもなっちゃうのかな、これって。」
「…?」
ゆっくりと頭を上げた僕の目に飛び込んできたのは、彼女が手にしている一冊の母子健康手帳である。
「ごめん、ちょっと意味がわからないんだけど…?」
「こ、この名前のところを見てほしいの」
「う、うん…?」
「…ッッ!?」
驚きで声が出なくなるとはこういうことだったのか。
声にならない叫び声をあげてしまった僕が見たのは、『
混乱する僕に、彼女は言った。
「…あのね、私達、二卵性の双子…みたいなの。えへへ」
嘘だと言ってくれ。
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