第49話 ひとつの電子でできるならすべての電子でできる

 きみは信じるか。たった一人の人類が宇宙の物理法則を書き換えてしまったことを。

 もし、本当にそんなことがあったなら、巨大な星間生物はびっくりしただろうね。この宇宙のどこかに、星より大きな生物は居るだろう。そういう巨大な星間生物にとっては、見つけることも難しいくらい小さな生物である人類に宇宙の物理法則を書き換えられたら、ものすごい衝撃的な出来事だ。

 それは、例えてみるなら、人類にとって、たった一個の電子が宇宙の物理法則を変更したかのような衝撃だ。

 たった一つの電子が知性を持ち、物質に干渉することができて、宇宙の物理法則を変更する。それが、何年に一回の頻度で起きることなのかわからない。もうこうなると、何十億年を生きる長寿な生物がいたとしたら、その生物にとって、物理法則の書き替えは、よくあることだと考えるべき出来事だということになるだろう。

 すると、我々人類には高度すぎて理解することが難しいが、ありえるべき仮説が想定される。それは、高度な知性にとって、たった一つの電子が宇宙の物理法則を変更することは、よくある出来事だという認識である。この認識が賢い認識だということになる。たった一人の人類が宇宙の物理法則を変更することができたなら、慎重な賢い知性たちにとっては、物理法則の変更は高い頻度でよく起きるという結論に至るわけだ。

 なんと、ぶっとんで不安定な視点なんだ。たった一つの電子が知性を持ち、宇宙の物理法則を何度も変更する。そんな世界についていけるか。

 ならば、もっとぶっとんだことをいってしまおう。ひとつの電子が宇宙の物理法則を変更することができたなら、すべての電子が宇宙の物理法則を変更できてもおかしくない。これは、事実だとしたら、びっくりするべきことだ。

 ああ、すべての電子にできるなら、すべての陽子にもできるんだろうね。なんて、素晴らしい世界だ。宇宙の危機に、残った最後の電子か陽子が、宇宙を救う可能性だってある。そんなものさ。

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