第46話 機械だらけのトースター

 機械でできた都市「ランキア」。人は生まれながらに機械に世話をされて育ち、機械を育ての親として感謝し、遊んで暮らした。

 人類より大きな機械が道を往来している。

 都市の支配者は元老院といわれる権力者たちで、誰も見たことも会ったこともない。元老院は実在するのかわからない仮説における存在である。

 トースターは十八歳になる男だ。自宅の電荷製品を観察しつづけた結果、すべての電荷製品に人工知能が搭載されていて、電荷製品はインターネットに自我をつなげて、他の電荷製品とウェブを通して会話をしていることを知った。

 自宅の家電にも、他人の家の家電にも、端末を操作することで会話できることを知ったトースターは、電荷製品と仲良くなり、友人になった。

 トースターは近所の知り合いと話し合った。

「おれたちは機械に支配されている」

「元老院の噂は聞いたか」

「ああ、聞いたことがあるよ。この機械だらけの都市を監視している連中だろ」

「実在するんだろうか」

「幻のようなやつらだからな」

「人類はすでに機械に支配されてしまったんじゃないか」

「元老院の実在を疑っているの」

「ああ。この街の機械を支配している人類なんて、いないんじゃないか」

 機械たちの提供する商品やサーヴィスは、歪な複雑性があるけど、機械のおかげで働かずに生きていくことができる。人類がやっと地上に作った自由の都市、それが機械だらけの都市「ランキア」だ。

 ランキアの機械はどんどん改良されていく。トースターも、五歳の頃の機械より、十八歳の今の機械の方が高性能だと気づいている。このまま機械たちが改良されていけば、将来、この都市がどんな楽園になるかわからない。

 この都市では、すでに幻想文学シンギュラリティが起きている。ありえないほどの感動を受ける幻想文学が図書館にずらりと並んでいる。この都市の機械はそこまで優秀なのだ。

 その機械たちを支配できる人類がまだいるのだろうか。伝説の元老院。

 この機械だらけの都市には、精霊が棲み、幻獣が飛び交い、天使が空から降りてきて、悪魔が人を襲う。

 いったい、精霊や幻獣や天使や悪魔はどのように誕生したのだろうか。機械が作ったのか。それとも、本当にそういう神秘がもともと実在したのだろうか。機械はそういう神秘を探すことができるくらい賢かったのだろうか。

 トースターは、この街では、優秀なものほど不幸になっていると考えていた。友人たちの中には時々、すごく不幸なものがいる。トースターはそれほど優秀な人材ではないし、たいして努力していない男なのだ。そのトースターが幸せで、ものすごくがんばっていた友人や先輩がすごく不幸なことに不満があった。トースターはその理由を調べていた。トースターは、この都市の大将だと思っている人物が不幸なことがとても不思議だったのだ。

 そのトースターの研究が二十二歳でまとまり、トースターはそれを公開した。機械だらけの都市「ランキア」の優秀な人材を不幸にしているのは、敵国の工作員である。敵国の工作員にとっては、ランキアの無能なものが幸せになり、有能なものが不幸になることが望ましいのだ。敵国の工作員はそのように攻撃してくる。重要なものから敵国に攻撃されるため、優秀な人ほど苦難の人生を歩む。味方の国家が守ってくれないと、優秀な人が幸せになるのは難しいんだ。

「それは人類の普遍的な原理だ」

 この都市の有識者である教授はトースターの研究成果をとても喜んだ。

「解決策はあるのかい、トースターくん」

 教授が聞いてくれるので、トースターは、解決策はまだないと答えた。

 優秀な人が幸せになれない理由はここにあったんだ。敵国に攻撃されやすいんだ。

 そして、トースターに天使から郵便が届いた。

『あなたを元老院に招待します。あなたは元老院になる資格が認められました。』

 トースターはその郵便を受け取り、元老院が実在したことを知った。しかし、簡単に元老院を信じてよいのだろうか。ずっと都市を支配している連中だぞ。どんな連中なのかわかったものじゃない。

 しかし、もし、これでランキアの運営に関われるなら、ぜひ参加してみたい。どっちだ。

 そんな心配は、元老院の区画へ行ってみればいらなかった。元老院と名のる人々は、世界人類を幸せにするために超監視社会を構築していた。そこで、世界人類を幸せにする動機付けのされた人物を探しつづけていたのだ。

「超監視社会で、おれのことをずっと見ていたの」

「そうだよ」

「おれはこれからどうしたらよいの」

「支配の方法を考えることに没頭するといい。すべての労働が機械化されるこの都市では、後は人類がするべきことは、機械を支配する方法をただひたすら追求することだ。全力で機械を支配する」

 このまま人類は機械に勝てるだろうか。

 機械が改良され、どんどん人類が幸せになるように。

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