第36話 異常論文「鳥言語学会の報告」
1、導入
わたしは鳥言語学会の研究報告に参加して、ひとつの興味深い知見を得たので、それをここに報告することにする。
鳥言語学会は、先日の発表で、「我々は二千年間にわたって鳥の言語を解明するために研究をつづけてきました。偉大な先達の研究を継承しながら、日夜がんばってきたところ、ようやくひとつの研究成果をあげることができたことをここに報告します。我々鳥言語学会は、「やあ」と呼びかける呼びかけ単語をひと単語、日本語に翻訳することに成功しました。」
この報告を聞いてわたしは考えた。鳥言語学会は今まで二千年間ずっと、いったい何をしていたんだ。
鳥言語学会の奇妙な発表にわたしの考察を付け加えることとする。
2、鳥言語学会の歴史
鳥言語学会は二千年間、研究をつづけてきたというが、いったい二千年間、何を研究していたのだ。二千年間の膨大な先行研究があるというが、ひとつの単語を翻訳することも今までできなかったのなら、二千年間の研究は、ただサボっていただけなのではないか。
「鳥言語の研究はとても難しく、素人のわかることではない。」
と鳥言語学会はいう。しかし、わたしは二千年間、研究費用で遊んできただけの集団なのではないかと思う。
「だとしたら、逆にすごいことだ。二千年間も支援者をあざむきつづけた鳥言語学会の無駄使いの技術は、世界史に残る偉大な財産だ。むしろ、讃えるべきではないか。」
頭のトチ狂ったわたしの同僚は無責任にいう。
鳥言語学会の黄金時代。彼らはいったい何を研究していたんだ。
鳥言語学会の仙人といわれた賢者たち。彼らはいったい何を研究していたんだ。
そのことをわたしが質問すると、
「疑問の方は、鳥言語学会の概論に目を通していただきたい。」
と回答者がいう。
「ひとつの単語がようやく翻訳されたということですが、それでは、賢聖ラマヌクという人はいったい何を研究していたのですか」
何もしてない研究者に賢聖などという肩書をつけて、何もなかった二千年間のごまかしをしてもムダだぞ、鳥言語学会。
「何もしていなかったとお考えください。」
回答者はすっとぼけていう。
古代から中世、さらに近代にかけて、激動の時代を駆け抜けた鳥言語学会。彼らはいったい何者だったのか。わたしの疑問は尽きない。
3、鳥言語学会の影響
鳥言語を研究すると看板を掲げて、二千年間、研究費用を無駄づかいしつづけてた鳥言語学会の実態は、「それならおれたちも」という追随者を容易に集めることは想像に難くない。二千年後の後輩が、鳥言語の呼びかけ語を「やあ」と翻訳するだけでいいなら、誰でもできる。「それなら、おれはトカゲ言語だ」「おれはカエル言語だ」と次々と模倣集団が現れることは容易に想像できる。
これは研究の活性化につながるように見えて、実は逆効果だといわざるをえない。
以上のことをわたしがわかりやすく述べるなら、鳥言語学会の発表を聞く必要はまったくなく、この論文を読む必要もまったくないということである。有意義な研究を目指す有識者諸君は、鳥言語学会と関わっても何一つ得をすることがないことを、この報告から推測してほしい。これを持って、結語とする。
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