第8話 地球で待つ人

 我々は数百の銀河を旅してきた。幾十万年の年月がたったのかもわからない。我々は、いつから旅を始めたのかもわらかないほどにずっと旅をしている宇宙探索者なのである。

 我々は生まれながらの旅人だ。我々の伝承の中に伝わることば「地球で待つ人」ということばが何を意味しているのかわからない。我々人類にとって重要なのは旅の過程であり、旅の原因や結果は重要ではない。だが、「地球で待つ人」ということばは、忘れるべきではないことばとして伝わっている。「地球で待つ人」とは、いったいどういう意味なのか。我々にはこのことばはもはや暗号文であり、解読することのできない古文である。

 我々が宇宙探索をしているのは「地球で待つ人」のためではないということはまちがいないことだと強く伝承されている。

 ひょっとして、「地球で待つ人」とは、旅の出発地点のことを指すことばではないかというものもいるが、証拠がない。それは、科学的ではない神話にすぎない。幾百の銀河を旅してきた我々の旅の出発地点などわかるものか。

 もしそうだとしても、我々旅人にとって重要なのは、到着点で待つ人であって、出発点で待つ人ではない。だから、地球で待つ人は重要ではない。

 「地球で待つ人」はいつまで待っているのだろうか。「地球で待つ人」ということばはわからなくなった。惑星の保存技術を指摘する人もいる。

 くだらぬ。我々の目的は宇宙の探索であって、「地球で待つ人」は重要な概念ではない。

「しかしですよ。わたしは幾百の銀河の距離を越えて、我々のことを伝達する奇跡が行えないかと、それを期待しているのですよ」

 ああ、そういう意見もあるかもな。だが、我々にはどうでもいいよ。そんな古文の探索は。

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