顔のない獣 その② とどのつまりを知っている

郷倉四季

2016年【隼人】0 顔のない獣 その① ダイジェスト(ネタバレあり)

「夢を口にできないのは論外よ。

 どんなバカげた夢だとしても、胸をはって語ることが、叶えるための第一歩だからね」


 浅倉隼人と久我遥は家が近所で仲の良い幼なじみ。

 中学二年になっても二人で夏祭りに出かける仲だった。


 友達以上恋人未満。

 それが二人の距離だった。


 夏祭りで隼人は「中谷勇次の再来」と呼ばれる不良を失神させてしまう。

 それがきっかけとなって、隼人は学校で不良たちにつけ狙われる。


 逃げ込んだ立ち入り禁止の屋上で、隼人は金髪の女子生徒と出会う。

 実はその女子生徒と隼人は夏祭りで出会っていた。


「部長でいいわ」


「なんすか、それ。ノータイムで飛び出す回答が、いまのですか。名前教えてくださいよ」


「名前を教えても覚えないんじゃないかしら。話しても記憶に残ってなかったのよね?」


 屋上からは湖が見え、そこで隼人はUMAであるネッシーを目撃する。


 幼なじみの久我遥は小学生の頃、UMAを見たと教室で語ったことでイジメられていた過去があった。


 ――嘘つき。


 ののしられる遥を前に、隼人は「遥は嘘つきじゃないって、証明する」と誓った。

 

 浅倉隼人の夢は、UMAを捕まえて幼なじみの女の子が嘘じゃないと証明することだった。


 遥は言う。

「あたしは、いまみたいに隼人とこうやってバカするので十分幸せなんだよ」


「でもいまみたいな状況は、ずっと続かねぇよ。オレらがいくら仲良くってもさ、クラス違うようになったら喋らなくなる可能性もあるだろ」


 遥は「告白された」と隼人に相談する。

 隼人はそれを否定せず、背中を押した。


「でも、がっかりだ。浅倉もその程度だったとはな。お前と久我のカップルがお似合いだって思ってたやつも嘆いてるぞ、きっと」


 同級生、有沢が言った。


「うるせぇな。なんの過大評価だよ、それ」


 最悪は重なる。

「そろそろ追いかけっこもやめにしようぜ。ここらで、気が済むまで殴らせてくれよ」


 今まで追いかけっこしていた不良連中が揃って、隼人を待ち伏せしていた。

 リンチの指揮を執ったのは、同級生のコトリだった。

 

 殴られ続ける隼人を助けたのは、遥に告白していた生徒会長、倉田和仁だった。 

「知らないのなら、覚えておけ。彼女とその親友を助ける以上に、重要な授業なんてないんだってな」


 リンチから隼人を助けたことから、倉田と遥が本格的に交際をはじめる。

 

 屋上に上がると、部長が湖を観察していた。

「で、なにしに来たのかしら?」


「ここから飛び降りてみようかと思いまして」


「いいんじゃない。セイブツ部の初代部長は、校舎の四階から飛び降りて無傷だったって伝説を残してるからね。

 案外、あなたも屋上から落ちても平気かもしれないわよ」


 部長から、いまこの瞬間の湖に水棲動物――ネッシーのような生き物がいると隼人は教えられる。


「夢を口にできないのは論外よ。どんなバカげた夢だとしても、胸をはって語ることが、叶えるための第一歩だからね」


 いまの隼人の心の中には、悲しみの音が広がっている。

 それらに大事な夢は押しつぶされている状態だ。

 そんな弱々しい夢に手を伸ばしてくれたのは部長で、叫んでいいのだと教えてくれた。


「オレはUMAを捕まえたい!」


 ひとたび口にすれば、心の中に広がる悲しみの音が聞こえなくなった。


「この眼で見た湖のUMAを捕まえたい! そのためには、なんだってしてみせる!」


 絶対に、なにがなんでも、UMAは捕まえてみせる。


「愛してるぞ、遥!」


 悔しくて叫ぶのは、これが最後だ。


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