崩れていく細胞

七人もの子供が亡くなった今回の惨禍は、リヴィアターネ人達に大きな衝撃を与えた。


だが、メルシュ博士にとっては貴重なデータとなり、しかも亡くなった子供達も貴重なサンプルとなって博士を喜ばせた。


「おお、不顕性感染者が死亡してもCLSウイルスは自らを維持しようとするのか」


採取された細胞がCLSウイルスによって貪られていく様子を顕微鏡で見て、博士は思わずそう声を上げる。シミュレーション上では、不顕性感染者の髪の細胞と結合して休眠状態になるとみられていたCLSウイルスだったが、実際には七人中五人の遺体がそうやって崩壊する傾向を見せたのだった。シミュレーションを行った際のデータが不足していたらしい。


残る二人はシミュレーション通りに休眠状態になったものの、肉体の一部はやはり崩壊が始まっていた。


リヴィアターネに墓が見当たらなかったのは、この為だったのかもしれない。まったく、このCLSを作った人間ないし文明はどこまで人間を徹底的に消し去ろうとしていたというのだろうか。とてつもない執念さえ感じる。


残っていた文明の痕跡は、地球で言えば西暦千年頃のそれに相当するレベルのものだった。となれば、その前にもCLSウイルスを生み出すような高度な文明があった筈である。しかしその文明は遥か以前にCLSによって滅び、僅かに生き延びた不顕性感染者達によって再度文明が興されたものの、不顕性感染者であっても多くの者は死と共に肉体が塵となって朽ちる為、墓を作るという習慣が根付かなかったのかもしれない。


その文明も何らかの理由で滅んだのだと思われた。その理由は現在も判明していないが、胎児の死亡率が異常に高かったことで自然に衰退したか、今回のような別の疫病によるものというのも推測された。


「くくく。私が行っていることも、それと同じ道を歩もうとしているだけかもしれないな」


メルシュ博士は、CLSによって貪られ崩れていく細胞を見ながら呟いた。


博士の言う通りかもしれない。彼女の行っていることは、全く無駄な足掻きということなのかもしれない。完全な滅びを少しばかり先延ばしにしているだけの意味の無い行為なのかもしれない。


だが、それすらメルシュ博士にはどうでもよかった。失敗するならするでも構わないのだ。<失敗する>という結果を得られることも研究の目的なのだ。彼女は本当に、どこまでも科学者であり研究者なのである。


亡くなった七人の<親>であるメイトギア人間達にも、亡くなった子供達が朽ちていく様子を隠すことなく見せ付けた。現実を正しく認識させる為であった。


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