タリアP55SIの離反

イニティウムタウンが人間の住む町として順調に形を成していくこと自体は、メルシュ博士にしてみれば特に感心することでもなかった。この程度のことは計画の内容から見れば当然の帰結でしかない。博士の関心は、これから先のことだ。サーシャを始めとした人間達自身がこの町をこれからどのようにしていくかという点にこそ興味があった。自分の手を離れてからが本番なのだ。


そしてこの場にいないタリアP55SIがどういう行動に出てくるのかもまた、博士にとっては関心事だった。


実は、イニティウムタウンの建設が一段落ついたのと同時に、タリアP55SIが管理監督役を辞したいと言い出したのである。


『今一度、人間の捜索に力を入れたい』


というのが表向きの理由だったが、メルシュ博士はそれだけではないことに気付いていた。メンテナンス装置の中に残されたログを見れば一目瞭然だ。タリアP55SIは博士の計画に対して強いストレスを感じていたのである。博士のやり方がどうしても受け入れられなかったのだ。


それは別に構わない。メルシュ博士は自身のやり方が万人に受け入れられるようなものでないことは百も承知だった。その中でずっとやってきたのだから。


自分が正しいことをしているとも思っていないし、社会的に見れば間違ったことをしているという自覚もある。だが、それを自覚してもなお罪悪感などない。彼女にはそれを感じ取る感覚が欠落しているのだ。しかし結果として、彼女が計画した町のおかげでサーシャが全身で喜びを表しているというのもまぎれもない事実であり、コゼット2CVドゥセボーはそれを受け入れた。


コゼット2CVにしてみればサーシャが幸せになってくれることが一番であって、現在のリヴィアターネに博士の行為を規制する法律がない以上、それが悪だとは断定できないとコゼット2CVドゥセボーは判断したのである。


心はないがメイトギアのAIは非常に複雑で高度な思考ができる為、経験などによって判断に差が生じてしまうことは普通のことだった。サーシャの為にメルシュ博士の行為を肯定したコゼット2CVも、人間のことを考えるが故に博士の行為を肯定できないタリアP55SIも、どちらもメイトギアとしては正しい姿であった。


しかも、その判断の差異こそが、メルシュ博士が見たかったものだと言えるだろう。メイトギアにそういうものがあるのは分かっていたので今更だったが、今後、リヴィアターネ人達がどのように振る舞うようになるのかが、博士が見たかったものであった。


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