リルフィーナの新しい任務

完成した収容棟に来たメルシュ博士は、それぞれの部屋に収容されたコラリスとコラダムの様子を見て満足そうに頷いた。


「うむうむ。これならCLS患者同士が傷付け合うこともなくしっかりと観察できるな。各種センサーと監視カメラの動作もばっちりだ。良い仕事だよ、リリアテレサくん」


実際に作業をしたのは殆どレイバーギアだったが、その管理監督をしたのはリリアテレサだったので、代表として褒めたということだ。もっとも、褒められたところでリリアテレサが嬉しそうな顔をする訳でもなかったが。


博士はコラリスに目をやり、手にした端末に表示されるデータを確認した。まだ着床して数日しか経ってないので外見上には何の変化もないが、データを見る限りは妊娠は順調そうである。ナノマシンにより子宮内の環境を万全なものとし、流産しないように細心の注意を払っていた。ただし、この妊娠が成功し満足な結果を得られたなら、今度はナノマシンの助けがなくても妊娠が継続されるのか等の実験をするのだろうが。メルシュ博士はそういう人間だった。


そしてその為にはさらなるサンプルが必要である。そして博士は、メンテナンスが終了したリルフィーナに命じた。


「リルフィーナくん。次の指示だ。CLS患者のサンプルが欲しい。できれば男女とも各年齢層を揃えたい。なので、CLS患者の確保をお願いする。いかなる手段を用いてもかまわない。邪魔するものは何者であろうと排除してくれたまえ。その為に、最強のメイトギアである君を買ったのだ。期待しているよ」


そう。以前にも言ったが、リルフィーナと名付けられたフィーナQ3-Ver.2002は、メイトギアとしては最強の戦闘力を持つと評判のロボットだった。それまで最強と言われていたフィーナQ3-Ver.1911に比肩するメイトギアがいくつも開発された為、メーカーが再び最強の称号を取り戻さんと技術の粋を集めて作られたものであり、発売から十数年経った今も、それに並ぶものはないと評されていた。


もっとも、本来は人間の生活全般を支援するのが目的のメイトギアに過剰な戦闘力を持たせること自体がメーカー側の自己満足であり、セールスの為の謳い文句に過ぎなかったのだが。二十一世紀頃でも市販の自動車に過剰なスペックを与えて<最速>などの称号を得ようとしていたのと発想は同じだろう。それが完全に活かされる状況などは非常に限定されるのだから。


しかし最強の称号は伊達ではない。そしてリルフィーナは、次々とCLS患者を確保していったのだった。


ただしその陰では、何体かのメイトギアが犠牲になったりもしたが。隣接する拠点を担当していたフローリアCS-MD9も、そんなメイトギアの一体なのであった。


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