ご挨拶

メルシュ博士に周囲の状況の把握を命令されたリルフィーナは、「承知いたしました」と応え、さっそく状況の把握に乗り出した。移動しながらロボットの信号の検索を掛ける。半径二キロ以内でならほぼ確実に信号を捉えることができるのだが、それで既に四体のロボットを確認した。そのうちの三体はリリアテレサと博士が使役している二体のレイバーギアだったが、残る一体は知らないロボットだった。信号を見る限りはメイトギアのようだ。


現在、リヴィアターネにいるメイトギアは基本的にCLS患者を処置する為に投棄されたものが殆どである。元々リヴィアターネにいたロボットは、ロボット艦隊による爆撃の際に人間を守ろうとしてそれに巻き込まれ、殆どが失われていた。ある者は人間をシェルターに誘導する為に街頭に立ち、ある者は体を張って幼い子供を守ろうとしてもろとも蒸発したりもした。あのような事態であってもロボット達は最後まで人間を守る為に働いてくれたということだ。


ただ、その多くは、ロボット艦隊から発せられた非常事態を知らせる信号により爆撃地点に自ら赴くように<誘き出された>ものでもあったのだが。そう、最後まで人間を守ろうとして抵抗する者が出てこないようにする為に、確実に破壊しようとしたのである。故に、本当に運が良かった者、故障等の理由により信号が受信できなかった者等の一部の例外を除き、元々リヴィアターネにいたロボットは殆ど現存していない。


なので、このメイトギアはCLS患者を処置する為に投棄されたものとみてほぼ間違いないだろう。リルフィーナはその信号に向かって接近し、データ通信が可能な距離に来ると、


『私はフィーナQ3-Ver.2002。どうぞお見知りおきを』


と博士に言われた通り本当に<挨拶>したのだった。すると向こうからも丁寧な返事があった。


『私はフローリアCS-MD9です。よろしくお願いします』


これで概ね問題はなくなった。CLS患者を処置する為のロボットはそれぞれ拠点を中心として半径三キロから大きいものでは半径二十キロ程度を受け持っているのだが、その範囲は実はあまり厳密なものではなく、双方の担当地域を相互にフォローしつつ処置を行っていくのが一般的だった。なので、他のロボットが受け持っている場所であってもCLS患者を現認し、その地域担当のロボットが気付いていないようであればその場で処置するということが日常的に行われてもいた。


それ故、完全に<手出し無用>という訳にはいかないのだが、わざわざこちらに立ち入ってまでというのがなくなったのも事実であった。取り敢えず、研究棟に捕獲されているCLS患者は安全という訳である。


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