リルフィーナの役目

ロボット達はCLS患者や患畜を安楽死させる為に配置されているのだが、ロボットであるが故に融通が利かない場合も多く、メルシュ博士が研究用に確保したCLS患者も<処置>されてしまいかねないので、それを阻止する為の護衛が必要だという訳だ。


とは言え、実際に戦闘になるようなことはあまりないだろう。要は、ここにCLS患者を処置する為のロボットが既に配置されている為、他のロボットは手出し無用ということをアピールできればよいのだ。つまりは<縄張り>とでも言えばいいのか。


フィーナQ3-Ver.2002は、発売されてから既に十数年が経過しているが、要人警護用として最強の戦闘力を持つメイトギアの一体であった。無論、純粋な戦闘用のロボットであればさらに強力なロボットも多数存在するが、現在、リヴィアターネでCLS患者や患畜の処置にあたっているロボットの多くがメイトギアなので、こちらの方が自然なのであった。


もっとも、本来は旧式化しすぎて引き取り手もなくなり<商品>としての寿命が尽きたロボットを廃棄するという名目で送り込まれているので、フィーナQ3-Ver.2002のようにまだ十分に現役と言えるメイトギアが投棄されることはあまりなかったのだが。


ただ、例外もある。故障したり違法改造を受けて流通できない状態になったロボットなどがそれだ。その多くは犯罪組織などにより利用されてきたものである。なので数は少ないが比較的新しい機種も存在はするのだった。


「おお、よく来てくれたね、リルフィーナくん」


研究棟へと姿を現したフィーナQ3-Ver.2002を見て、メルシュ博士は嬉しそうに声を上げた。<リルフィーナ>というのは、博士が彼女につけた名前である。


彼女や資材を積んだコンテナが降下したことは既に分かっていたので、資材の回収にレイバーギアを派遣していたのだが、先にリルフィーナは自分からこの研究棟に来たのだった。


「私の準備は万端整っています。ご命令を、博士」


ややシニカルな印象を抱かせるリリアテレサに比べると、リルフィーナはいかにも生真面目そうにも見えた。涼しげな眼元も理性的だ。しかし、さすがにこのメルシュ博士に使役されているロボットだけあって、彼女もかなりエキセントリックな一面を持つロボットではあったのだが。


それについては彼女が実際にそういう一面を見せた時に説明することにしよう。今は取り敢えず。


「そうだな。まず、この周囲五キロ内の状況把握。他のロボット達に挨拶でもしてきてくれたまえ」


そう。ここは自分が受け持つから余計な手出しは無用と、他のロボットに告げてくるようにと命じたのであった。


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