コラダム

新たにCLS患者三人を確保したメルシュ博士は、さっそく、コラリスに施したものと同じ処置をその三人に施した。


「ああ、やはり無理だったか」


三人のうち、中年女性とがっしりとした体格の成人男性のCLS患者は、心臓の機能が回復した瞬間に傷口から大量に出血。止血したものの間に合わなかったらしく活動を停止してしまったのだった。


殆どのCLS患者は一見して生きてるとは思えないくらいに肉体が破損、もしくは腐敗している。しかし心臓が動いていない為に出血はそれほどでなかったのだが、心臓が動き出してしまったことで治っていない傷口から出血してしまったということだ。もしくは、壊死した細胞から溢れ出た毒素が一気に全身に回り、心臓の機能を停止させたものと思われる。


それは十分に予測できた結果だったのだが、メルシュ博士はそれを実際に確認する為に敢えて処置を行ったのだった。つまり、死ぬのは分かっていてそうしたということだ。彼女は倫理観というものが全く欠落しているのである。それが故にこの後も恐ろしい実験の数々を行うことになる。人間の感性ではありえないような凄惨な実験をだ。


それについては後程また語ることとして、残った中学生か高校生くらいの少年のCLS患者は比較的損傷が少なかった為か出血もそれほどではなく、先の二人の反応を見た博士が新たに壊死した細胞からの毒素を中和する処置を行ったことが功を奏したのか、容体が安定したようだった。顔を始めとしたあちこちについた傷は痛々しかったが、血色も良くなり、コラリスと同じように外見上は生きた人間と変わらなくなったのである。


「傷が自然治癒するのかどうかを確かめるにもちょうどいいサンプルだ。よし、こいつはCLSアダムと名付けよう。略称はColadamコラダム」とする」


大型の絆創膏を傷口を覆うように貼り付けながら博士はそう言った。


「うむ、処置はこれでひとまずOKだ。リリアテレサくん、コラダムに食事を与えてくれたまえ。私はこちらのサンプルを調べる」


博士の指示に従い、リリアテレサが拘束されてもがいているコラダムの口にネズミに似た小動物を近付けると、彼はそれに噛り付いてバリバリと貪り始めた。続けて小動物を与えるリリアテレサを背に、博士は動かなくなった二人のCLS患者の解剖を始める。その動作には一切の逡巡は見られなかった。


彼女には本当に倫理観の欠片もないというのがその姿から見て取れた。おそらく他の誰かがそれを見ていたらあらん限りの言葉で彼女を罵倒もしただろうが、ここにはそれをするような人間は存在しなかったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る